「ひまわりパーク」は、夕凪市民が一定の手続きをすれば自由にひまわりを育てる
ことのできる公園である。場所はもちろん、じょうろやシャベルといった園芸用の道具も
貸し出してもらえるし、ひまわりの育て方で困ったことがあれば園内の管理人さんに
相談することもできる。

どこかの幼稚園が何人か分のスペースを借りてひまわりを育てていることもあるし――
園児たちは散歩がてらひまわりの様子を見に来るのだ――小学生が夏休みの自由研究に
ひまわりを育てている場合もある。といっても、夏休みの自由研究にひまわりを選ぶ
小学生は大変計画性のある子どもに限られる。
多くの種類のひまわりは五月から六月頃が種まきのシーズンだ。その時期に自由研究の
ことを考えている小学生は少ない。だからひまわりパークの利用者は幼稚園や、
園芸の好きな家族が多かった。

咲と舞がこの公園を利用してみようと思ったのは、ある日の昼食の時の会話が
きっかけである。いつものように二人は教室の後ろで机を付けてお弁当を食べていたが、
「咲、ひまわりって綺麗だと思わない?」
と舞が話し出したのが最初だった。

「ひまわり? うん、もちろん……でも、どうして?」
「昨日の夜咲の話してたらね、お兄ちゃんが咲のこと」
「か、和也さんが?」
思わず咲の声が高くなる。
「お兄ちゃんがどうかした?」
咲の様子に舞がきょとんとした表情を浮かべると、
「う、ううん何でもないよ……それで、和也さん私のこと何て?」
慌てていることを舞に気取られないように咲は無理やりに冷静そうな振りをしながら
話の先を促す。
「お兄ちゃんが咲ってひまわりみたいだって言ってたんだけど、そういえば前に
 住んでた町ではひまわりをあんまり見なかったなあって思って。夕凪町には、
 ひまわりが咲くような場所はあるの?」
そういう話かと咲は思った。舞の兄に変な風に思われていた訳ではないらしいということ
に安心しつつ、舞の質問の方を今度は考える。

「うん、すっごくいい場所があるよ」
咲は大きな口をにんまりとさせた。
「放課後、一緒に行ってみよう」

 * * *

「今日はずいぶん急いでいるのね、何かあるのかしら」
「どうでもいい」
放課後、「早く行こっ!」と駆けていく咲たちを二つの視線が追いかける。
霧生満と霧生薫、プリキュアを倒すためにやってきたダークフォールの刺客。
今は咲たちと同じ学校に潜入しプリキュアの弱点を掴むために情報を集めている。
「私たちも行ってみましょ」
薫は興味がなさそうな顔をしていたが、満に促されて静かに咲と舞の後を追いかける。
町はずれにあるひまわりパーク。咲たちに気づかれないように公園内に入って、
満と薫はつまらなそうな場所だと思った。

「あ、すごい!」
「でしょでしょ!」
一方の咲と舞は園内に展示された去年の公園内の写真――ひまわりが咲き誇っている
頃の――を見て興奮していた。今は種まきのシーズンなので園内の風景はさびしいものだ。
貸し出された場所に借主の名前の札が立っているだけで、地面の中の種は見えない。

それを埋め合わせるかのように、「去年の様子」と題された掲示板には何枚もの写真が
貼ってあった。
「へえ、いろいろな種類のひまわりがあるのね」
一口にひまわりと言っても、写真に写っている花は様々な姿をしている。写真の下に
「この写真に写っている品種は○○と××です」という解説も書いてあるのだが、
どの花がどの品種かまではよく分からない。説明によると、一般的な品種なら管理室で
種を用意してあるらしい。

「ねえ、咲」
「ねえ、舞」
写真を見ていた二人は同時に振り返って目を合わせた。思わず二人ともくすっと
笑ってしまう。相手の考えていることはきっと自分と同じだと、そんな感覚が
二人ともにあった。

「私たちもひまわり育ててみようよ」
「うん! 私もそう言おうと思ってたの!」
やっぱり同じことを言おうとしていたと二人は確認すると、連れだって小走りに
管理室の方に足を向けた。こうと決めたら早く手続きを取ってしまいたい。
早くしないと、この瞬間にも今年の利用者が一杯になってしまうのではないかと
そんな感覚があった。

すぐに管理人さんにお願いして二人分のスペースを取ってもらうと、
早速名前を書くための木札を貸してもらえたので二人はそれを持って自分たちの
スペースに行くとすぐに名札を立てる。
「種、どうしよっか? 買ってきてもいいって言ってたよね」
「育てやすい種がいいわよね」
そんなことを話している途中に舞があ、と視線をずらす。「ん?」と咲は舞の視線の先を
追った。舞が見ている方にクラスメイトの姿を見つけて咲は満面の笑みを浮かべると、
「おーい! 満、薫!」
と大きく手を振る。満と薫は一瞬目を合わせたが、すぐに咲たちの方に歩いてきた。
「偶然だね! 二人もひまわり育てることにしたの?」
「そういうわけじゃないわ」
薫が不愛想に答えるのに対し満は、

「見に来ただけよ」
とわずかに笑みを浮かべて答える。
――ここじゃなくて、あなた達を見に来たんだけど。
という満の本音はもちろん誰にも言うことはない。
「あ、この公園のこと見に来たんだ」
咲は勝手に合点すると、
「じゃあさ、一緒にひまわり育ててみない?」
とすぐに誘う。
「どうでもいいわ」
薫は興味なさそうにそっぽを向くが、
「え、でもちょっと興味あるんでしょ? だったらさ〜」
咲は満に向けて人懐こい笑みを浮かべて見せる。
「そうね」
と満も笑顔を見せてそれに応じた。「……満」と薫が不快そうな声をあげたが
「いいんじゃない、こういうのも」
と満は軽く薫を交わす。
「え、本当に一緒にやってくれるの?」
「ええ、なんだか面白そうだもの」
「薫は?」
どうでもいいと薫は答えたかった。ひまわりに興味などない。
――でも、満をプリキュアのそばで一人にするわけにはいかない。
仕方がないと薫は思った。
「……満がやるなら」
「やった! じゃあ早速手続きしに行こう!」
咲は小躍りしそうなほどに喜ぶと、すぐに二人を管理室に連れて行った。

 * * *

ひまわりの栽培が思っていたよりも面倒なことは満と薫にはすぐに分かった。
種を土に植えていれば勝手に生えてくるというものではない。種をまく前に土をよく
耕さないといけないし、定期的に水をあげることも必要だ。どうしてこんなに面倒な
ことをするのかと、薫はある時舞に尋ねた。
咲と満はちょうど水を汲みに行っていていなかったので、その場にいたのは二人だけだ。
「どうしてこんなことをするの?」
「どうしてって?」
「どうしてこの花を育てるの? 毎日ここに寄って、水をかけて」
「ひまわりってね、」
舞は出てきたばかりの双葉を撫でるように触ってから薫を見上げた。
「夏になると、お日様みたいなすごく大きな花を咲かせるのよ。
 それを見てみたいと思うの」
「見てみたい?」
薫は聞き返す。うん、と舞は頷いた。
「それだけ?」
「それだけで十分だもの。……薫さんは見てみたくない?」
「さあ」
薫は肯定も否定もしなかった。舞はそんな薫を見てそっと笑うと、鉛筆を取って
ノートに今の双葉の様子のスケッチを取り始めた。キュアイーグレットは絵を描き始めると
途端に無防備になる。今ここで何かをすることもできたが……、
――まだその時ではないわ。

と薫は力を使うことを控えた。今、アクダイカーン様の命令を受けて動いているのは
ドロドロンだ。プリキュアを倒すのはおそらく無理だろうが満と薫の番はその次だ。
それに、プリキュアとして変身できない時の彼女を倒してもあまり意味はない。
「薫さん、今日の双葉はこんな感じかしら」
いつの間にかスケッチを終えた舞が薫にノートを見せる。薫は本物の双葉と絵の中の双葉を見比べると、何も描き足すところがないと感じて無言でノートを舞に返した。

 * * *

ひまわりが病気になった。種が悪かったのかもしれないという話だった。
それなら抜けばいいと薫は思った。だが、咲と舞はひまわりを何とか治そうとした。
それを見ているうちに、満と薫もいつの間にか手伝うことになっていた。


「……今日もずいぶん手伝わされたわね……」
プリキュアは人遣いが荒いとでも言いたそうに夜のひょうたん岩で満がぼやく。
「そうね」
満に背を向けて座ったままで薫が答える。病気のひまわりは、まだ良くなったのかどうか
分からない。他のひまわりには少し遅れているが背は伸びてきていた。
"もうすぐつぼみをつけるんじゃないかしら"
と、キュアイーグレットは今日そんなことを言っていた。
「どうしてあんなことにあんなに一生懸命になるのかしら、プリキュアって」
「さあ……、」
どうでもいいわ。薫はそう言葉を繋いだ。
「こんなこともすぐ終わる」
満と薫がプリキュアと対峙する時は近づいている。その時が来れば、
世界は滅びの力に包まれる。ひまわりなど消え去ってしまうだろう。
あのひまわりが花を咲かせることはない。
「そうね」
満は夜空を見上げた。今日は雲に覆われていて月も星も見えない。

二人がプリキュアと戦う時は、刻々と近づいていた。

-完-

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