「……大丈夫、舞?」
咲は心配そうに舞の顔を覗き込んだ。
舞の目はいつもと違って少しとろんとしている。

「だ、大丈夫よ咲」
舞はそう言って寒そうにマフラーを締めなおす。
夕凪中からの帰り道、久しぶりに咲と舞二人だけだ。
満と薫は今日は学校に来ていない。薫が風邪でダウンしたらしく、満はその看病をしている。

舞も少し熱があるそうで、今日はなんだかだるそうだ。
二人は舞の家までやって来た。
「暖かくして寝てないと駄目だよ、舞」
「ええ、分かってるわ。今日はみんな居ないから一人で……」
「え!? お父さんもお母さんも和也さんも居ないの!?」
「う、うん。そうよ」
咲の勢いに押されるように舞はたじたじとなった。

「じゃ、じゃあさ、うちおいでよ!」
「そんな、お邪魔しちゃ」
「邪魔じゃないって! 一人で寝かせておくわけにいかないもん!」
咲は半ば強引に舞の手を取った。

「さ、咲」
「一緒に行こ、舞。……歩ける? おんぶもできるよ?」
「い、いいわよ」
舞は慌てて手を振った。
「辛かったらすぐ言ってね」
そう言い、咲は舞の手を握ったまま歩き始める。舞の手はいつもより少し
熱く感じられた。

「ただいま! お母さん、舞寝かせていい?」
咲はPANPAKAパンの店舗側から飛び込むとお母さんを見つける。
ちょうどお客さんは誰もいなかった。
「え? ……いいけど、どういうこと?」
お母さんは咲と、その後ろで恥ずかしそうな顔をしている舞の顔を交互に見比べた。

「あのね、舞少し風邪っぽいみたいなんだ。でも今日舞のお家誰もいないみたいだから」
「あら、舞ちゃん風邪?」
咲のお母さんは舞のそばに寄ってくるとおでこに手を当て、「そうね」と呟く。

「少し熱っぽいかな……咲のベッドでもいい? 寝てたほうがいいと思うわ」
「あ、ありがとうございます。あの……ごめんなさいこんな……」
「気にすることないわ。ゆっくり休んでいって」
咲のお母さんはにっこりと笑う。
「ありがとうございます」
舞がもう一度お礼を言ったところで、咲が「いこ!」と手を取った。

「ごめんね、私のベッドで」
「ううん、そんなこと」
咲は舞のコートやマフラーを脱がせ、とにかく自分のベッドに座らせる。
みのりはちょうど、遊びに出ていて居ないようだ。

「制服のままだと寝にくいよね……ジャージだったら私のでも大丈夫かな」
咲は抽斗からジャージを引っ張り出した。何度か洗った跡がある。

「咲、いいの?」
「いいっていいって。もう、遠慮なんか全然する必要ないんだから」
咲はベッドの上の舞にジャージを手渡し、一瞬動きを止めた。
「咲?」
「みのりが病気の時は着替えさせたりするんだけど……自分で着替える方がいい、よね」
「そ、そうね」
困ったような舞の顔を見て咲は照れ笑いするとハンガーを渡した。

「じゃあ、私ちょっと部屋出てるから……脱いだ制服、このハンガーで壁にかけておいて
 くれればいいから」
「うん、ありがとう咲」
「いいって」
咲は静かに部屋を出てドアを閉めた。
すぐに一階に降りると、
「えーっと、体温計体温計……」
普段はあまり使わない体温計と、水をコップに入れてお盆に載せる。

――とりあえずはこれでいいかな。

「舞、入ってもいい?」
軽くノックすると、「うん」と小さな声がしたので咲は中に入った。
舞はもう髪どめもはずして咲のベッドに横になっている。
自分のジャージを来ている舞の姿を見るのはなんだか不思議だ。
ジャージが少し大きく見えるのは舞の体つきが細いからだろう。

「はい、これ。体温計。あとお水ここに置いておくね」
机の上にコップを置いて体温計を手渡す。
舞は素直に体温計をわきの下に挟んだ。熱っぽそうな目を閉じる。

「……そろそろ、いいかな」
数分後、咲に言われて舞は忘れていたかのように体温計を取ると、
「ええっと……」
読みづらそうにしていたので咲が受け取った。

「8度6分……結構あるよ、舞」
「そうみたい」
舞は布団の中で少し笑った。
「なんだか、横になったら安心したみたいで……本当に風邪っぽくなっちゃった」
「お水、飲んだ方がいいよ」
ベッドの上に上半身だけ起こさせ、水を飲ませる。舞はもうあまり遠慮しなかった。

「ありがとう、咲」
飲み終えてまた身を横たえる。
目を閉じた舞の邪魔をしないように咲はそっと自分の机のそばの椅子に座った。

――こうしてると、みのりを見てるみたい。

昔、病気になった時にみのりを見ているのは咲の仕事だった。
両親もよく部屋に来てみのりの様子を見ていたが、どうしても店があるので
基本的には咲が同じ部屋にいて、みのりの様子がおかしくなると
両親を呼びに行くことになっていた。
幸い、みのりはそんなにひどい病気になることもなかったので咲が
見ているだけでよい場合がほとんどだったが。

――舞も、和也さんに見ててもらったりしたのかなあ……

「咲……」
咲の考え事は舞の言葉に破られた。
「どうしたの、舞?」
慌てて舞の近くによる……と、舞はベッドから手を伸ばした。
「手、握ってもらってもいい?」
「うん、もちろん」
咲は椅子を近くに持ってくるとそっと舞の手を握る。

「昔ね、こうして風邪引いたとき……よくお兄ちゃんにこうやってもらってたの」
「へえ、そうなんだ」
「でも不思議ね。今はお兄ちゃんより咲に手を握ってもらう方が落ち着くわ」
「……そ、そうかな」
咲は少し照れ笑いした。悪い気はしない。
「きっと、何回も繋いだからだよ……プリキュアの時に」
プリキュア、という言葉を聞いて舞はかすかに微笑む。

「咲、私ね。プリキュアの時に何度も思ったの」
「うん?」
「キュアブルームが……私のパートナーが、咲で良かったって」
「私もだよ」
咲は即答した。

「私も、キュアイーグレットが舞で良かったって何回も思ったんだ」
ふふ、と二人は顔を見合わせて笑った。
「今日、うちに泊まってく?」
咲の言葉に、さすがに舞は首を振る。

「そこまでは……それに、お兄ちゃんもお母さんももうすぐ帰ってくるし」
「そっかあ」
咲は本気で残念そうな表情を浮かべた。

「何時ごろ帰ってくるのかな、舞のお兄ちゃん」
「一時間後くらい……だと思うけど」
「そしたら、お父さんに車出してもらうよ。舞、車のほうが楽でしょ?」
「え、でもそんな……」
「遠慮しないでよ」
咲は舞の手を強く握った。

「キュアイーグレットとはいつも一緒に苦しい時を乗り越えてきたんだから。
 助け合うのはお互い様だよ」
「……プリキュアの時とはだいぶスケールが違うけど……」
「いいんだって、舞」
「……うん」
舞もきゅっと咲の手を握り返す。

咲は舞と少し見つめあった後、
「ちょっと舞の家に電話してみるね。和也さんが帰ってきてたら心配してるかもしれないから」
と立ち上がる。
「うん」
と舞は答え、空いた手を引っ込めながら咲がぱたぱたと階段を降りて行く音を
聞いていた。

――なんだか不思議……。
熱っぽいぼんやりした頭で舞は思う。
――ずっと昔から、こんな風に咲と一緒にいたみたい。
自分が咲のジャージを着ているのも咲のベッドに寝ているのもどこか当然のことのように思え、
それが舞には不思議だった。

舞の脳裏にふと光の玉がよぎった。小さい頃にお祭りで見たあの光だ。
――あの時から、ずっと咲と一緒に居たみたい……。

「にゃあ」という声に目を開けると、コロネが床の上に座っていた。
相変わらず何もかも見通しているかのような顔をしている。

「コロネ……」
コロネはぴょんとベッドに飛び乗ると、舞の上で丸くなってしまった。
そんなコロネを見ていると、舞はもう少しここでこうしていてもいいような気がしてきた。

-完-

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