夜の闇に眠るトネリコの森。その中心の大空の樹も今は黒々とした葉を抱えたままで
眠りについている。……と、その幹の下側に柔らかい光が生れた。

ころころと木の幹から出てきた二つの光の珠はすぐに精霊の姿になる。

「着いたラピ!」
「久しぶりチョピ」
フラッピとチョッピはきょろきょろと辺りを見回す。空にかかった満月のおかげで道に迷うことも
なさそうだ。
「早くいくラピ」
「そうするチョピ!」
急げ、急げ――と転がるように2人は坂道を駆け出した。

人に見られることもなくフラッピとチョッピは咲の家にたどり着くことができたが、
そこで2人の足ははたと止まる。
「咲の家、夜は鍵をかけてるラピ」
「……入れないチョピ?」
フラッピはぴょんと飛び跳ねて玄関のドアノブに手をかけるがやはりドアは動かない。
ぽてんとフラッピの体が地面に落ちた。

「困ったチョピ……」
「舞の家はどうラピ?」
チョッピは首を振る。
「舞の家も、いつも鍵かけてるチョピ」
「困ったラピ……」
フラッピはちょこちょこと家の周りを回り始めた。どこかに隙間でもないか探し回る。

「あ、そうラピ!」
「何か思いついたチョピ?」
フラッピはある部屋のガラス戸の下に移動した。
「もしこの部屋でコロネが寝てたら、気がついてくれるかもしれないラピ」
「コロネ、いるチョピ?」
「分かんないラピ、でもいるかもしれないラピ」
フラッピは飛び跳ねて窓に飛びつき、「コロネ、いるラピ?」
と小さな、しかし少し大きな声で言う。もう一度。
「コロネ、いないラピ? 咲に会いたいラピ」
「コロネ、今咲たちに会わないと大変チョピ!」
ガラス戸が少し揺れた。フラッピとチョッピは慌てて隠れる。

「うーん、コロネどうしたんだ? 何もいないじゃないか」
窓を開けたのは咲の父だ。コロネがぴょんとガラス戸から外に出た。
「散歩か? じゃあ、気が済んだら帰ってくるんだぞ」
咲の父は少しだけ戸を開けたままにして部屋の中へ戻っていった。

「わーい、コロネありがとうラピ!」
「ありがとうチョピ!」
出てきたフラッピとチョッピを見てコロネはふっと息をつくと、あああと大きなあくびをして
ガラス戸の下に丸くなる。
「ごめんラピ、コロネ。ありがとうラピ」
フラッピとチョッピはコロネの体を踏み台にして簡単に家の中に入ることができた。
そのまますぐに咲とみのりの部屋に移動する。部屋に入る前にフラッピは
一度止まると、
「気をつけて、咲だけを起こすラピ」
とチョッピに念押しした。チョッピも「チョピ」と返事をし、そっと部屋の戸を開ける。

「咲、起きるラピ」
咲のベッドに飛び乗って咲の体を揺さぶってみるが、起きそうな気配がない。
「咲、起きてチョピ! 早くしないと大変チョピ!」
咲はやはりおきそうにない。フラッピは覚悟を決め、咲の上で飛び跳ねた。
「咲! 起きるラピ!」
「うーん……? もう、何?」
「やっと起きたラピ?」
「あれフラッピ……チョッピも……どうしたの、こんな夜中に」
咲はまだ半分寝ぼけている。

「どうしたの、じゃないラピ。大変ラピ!」
「大変……!?」
やっと目が覚めたらしい。咲の目が大きく見開かれる。
「何が!? 何があったの!?」
「も〜、お姉ちゃん、どうしたの……?」
眠そうなみのりの声が聞こえてきて咲は大慌てでフラッピとチョッピを布団の中に
押し込める。

「ご、ごめんちょっと変な夢見ててね」
「もう……」
みのりは不機嫌そうに布団に潜ってしまった。
「お休み。私ちょっと、水飲んでくる」
咲はそう言ってフラッピとチョッピを抱きかかえると部屋を出、そのまま家から外に出た。

「で、大変ってどういうこと!?」
久しぶりに会ったという感慨も何もなく、咲は腕の中のフラッピとチョッピに問い詰める。
「それが、良く分からないラピ」
「分からない?」
「フィーリア王女に、キュアブルームとキュアイーグレットをすぐに連れてきなさいって
 言われたチョピ」
「すぐに?」
フラッピとチョッピが揃って頷く。
「じゃあすぐに舞も呼ばなくちゃ」
駆け出そうとしてはたと咲は立ち止まった。
――どうやって?
電話をしたら迷惑だろう。舞だけを何とかして起こしたいが、舞の部屋は二階である。
「……ちょっと、待ってて」
フラッピとチョッピを待たせると咲は一旦部屋に戻り、ソフトボールを持って戻ってきた。
「それ、どうするラピ?」
「舞の部屋の雨戸にこれを当てたら舞が気がついてくれるんじゃないかな……、
 音を立てすぎないようにしないといけないけど」
「咲にしてはいいアイディアラピ!」
「いいアイディアでしょ? ……って、『咲にしては』って何よ、フラッピ!」
そんな事を言い合いながら咲たちは舞の家に着き、無事に舞に気づいてもらうことができた。

「デュアルスピリチュアルパワー!」
大空の樹の下で咲と舞は懐かしい姿へと変身を終える。久しぶりに身に纏う
プリキュアの服はなんだか恥ずかしかった。

「さあ、行くラピ!」
「待って!」
大空の樹に入ろうとするフラッピとチョッピを咲と舞は押し留めた。
「ラピ?」
「満と薫は?」「そんなに大変なことなら2人も一緒に!」
咲と舞の言葉を聞いてフラッピとチョッピは「それが……ラピ」と口ごもる。

「どうしたの?」
「フィーリア王女が、来れるのはプリキュアだけだって言ってたラピ」
「そうチョピ。満と薫があの時みたいにムープとフープの力で変身できればいいけど、
 今のムープたちではできないから満と薫が来たら危険だって言ってたチョピ」
「……危険?」
咲と舞は顔を見合わせた。一体何が起きているのだろう。うん、と咲は1つ頷く。
「分かったよ、フラッピ、チョッピ。私たちだけで行こう」
舞を見ると、舞もまた力強く頷いた。2人は手を繋ぎ、大空の樹に正対した。

「ここを通れば、フィーリア王女がいる場所にいけるって言ってたラピ」
「……行こう!」
2人は大空の樹に吸い込まれた。


「……ここは?」
辿りついた場所は2人には予想外だった。宇宙空間だ。星々の煌く海を抜けて、
2人の体は小さな岩のような小惑星の上で止まった。

「咲、あれ」
舞がある方向を指差す。恒星が……この小惑星にとっての「太陽」だろう、
ぎらぎらと灼熱の光を発している。眩すぎてまともに正視することもできない。

「少しずつ……大きくなっているような」
舞の言葉に咲も頷いた。そしてすぐに目をそらす。
「暑い……ね」
プリキュアに変身していなければこの暑さには耐えられないだろう。
今でさえ、咲と舞の体はこの熱に悲鳴を上げている。

「星が死にかけているんです」
フィーリア王女の声がした。小惑星の裏側からゆっくりと現れる。
「フィーリア王女」
「久しぶりですね、咲、舞」
咲の言葉に王女はにっこりと笑う。1人だけこの暑さを意に介していないようにも見えた。
「あの、私たちはここで何を……?」
舞の問いに、フィーリア王女は足元の小惑星を指した。

「届けて欲しいのです。満と薫に。この惑星の石を」
「え!?」
咲と舞は目を丸くした。どういう話なのか検討もつかない。
「あの太陽は、この世界のごく初期から存在した星です。……暗黒の宇宙から初めて
 生れた輝かしい星の1つです」
フィーリア王女は相変わらず涼しげな顔だ。

「今、その星が眠りにつきます。あの星の周りの惑星に誕生した命の記憶を抱いて。
 ……満と薫に、この星の記憶を届けて欲しいのです。滅びの力から生れた輝かしい命に

「あっ……」
咲と舞にはフィーリア王女が2人をここに呼び寄せた理由が分かったような気がした。
咲と舞で1つずつ、足元の石を拾う。
「ありがとう、咲、舞」
フィーリア王女の声がした。途端に目の前の風景がぼやけ、咲と舞は気づくと大空の樹の
前にいた。

「……」
なんだか夢のような気がして咲も舞も無言で顔を見合わせる。だが、手の中に握った石が
夢ではないことを証明している。ぽん、と咲も舞も変身を解いた。
「明日、渡そう」
咲が言うと、舞も小石を握りなおしてうんと頷く。

何も知らずに熟睡しているだろう満と薫を想像して咲はなんだか楽しくなった。
「ねえ、フラッピもチョッピも、今日はこっちにいるの?」
「いるラピ」「いるチョピ」
「ちょっとここで、のんびりしようか」
「そうね、咲」
昔良くしていたように咲と舞、フラッピとチョッピは大空の樹のすぐ側にある
祠の階段に腰を下ろした。
風が4人を撫で、月がその姿を明るく照らしている。

-完-

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