「咲ー!」
なんだか聞いたような声がするなと思ったら、空からフラッピが落ちてきた。
咲の頭の上で一度バウンドすると、
「久しぶりラピ!」
咲の腕の中に納まる。
「フラッピ、久しぶりはいいけど何で頭の上に落ちてくるのよ」
いい気分で道を歩いていたら突然頭に直撃を受けた咲としては一言言いたいところである。

「フラッピが落ちてきたらそこに咲の頭があったラピ」
「そんなわけないでしょ、私目掛けて落ちてきたんでしょ」
なんだかんだと言いながらフラッピを抱っこしたままで咲はトネリコの森を歩いていく。

「ねえ、でも今日はフラッピだけ? チョッピやムープたちは?」
ゴーヤーンとの戦いが終わった後、精霊達は泉の郷に帰っていったが
ちょくちょく緑の郷に遊びに来ている。
しかし今までは四人一緒か、フラッピとチョッピ、ムープとフープという
ペアでこちらに来ていた。フラッピ一人だけというのは珍しい。

「ラピ……」
フラッピが言いよどんだので、
「あ、ひょっとしてチョッピと喧嘩でもしたんでしょ!」
意地悪を言ってみると「そんなことないラピ!」とむきになって言い返してきた。

「じゃあ、何で一人で来たの?」
「そのー……ラピ」
「?」
口ごもるフラッピに咲は今度は意地悪を言わずに黙って聞いている。

「相談したいことがあるラピ」
「相談?」
「そうラピ」
話が長くなりそうなので咲は大空の木の近くにある社に向かい、そこの階段に腰掛け
フラッピを自分の横に置いた。

「で、相談って?」
「そのー……フラッピは花の精霊ラピ」
「? ……そうだね」
やけに遠回りなところから話が始まっているような気がするが仕方がない。
しばらく付き合うことにする。

「だから、花が綺麗に咲いていると嬉しいラピ」
「うん、そうだね」
「その……チョッピにも、花の綺麗なところを見せてあげたいラピ」
「はは〜ん」
咲はにやりと笑った。

「つまり、チョッピを花の綺麗なところにデートに誘いたいってこと?」
「そ、そうラピ。というか、もう誘ったラピ!」
「誘ったの? 頑張ったじゃないフラッピ! そしたら何だって?」
「……緑の郷は桜の季節だからみんなでお花見したいって言われたラピ……」
――う〜ん、さすがチョッピ……。
決して悪意ではなく、ただ鈍感なだけというのは最強かもしれない。
感心していると、

「それで、いいお花見の場所を教えて欲しいラピ。舞や満、薫も誘いたいラピ」
「お花見の場所ならとっておきの場所を知ってるけど……でもフラッピ、
 チョッピと二人きりになりたいんじゃないの?」
「それは今回は諦めたラピ。こうなったらとことんお花見を楽しむラピ!」
「そう? じゃあまず、桜の場所に案内してあげるね」

咲が案内した、トネリコの森の一角に咲く桜はもう満開を少し過ぎていた。
一足早く散った桜の花が木の下に毛布のようなふかふかした絨毯を作っている。
偶然――なのか、必然というべきか――舞と薫がいた。
当たり前のように絵を描いている。

「あ、咲……フラッピも」
舞は没頭していて気づかないが、薫は近づいてきた二人に
素早く振り返った。

「絵描いてたの?」
「ええ。フラッピ―― 一人だけ? フープたちは?」
「今日は一人で、お花見の下見だって」
「お花見?」
薫の問いに、フラッピは

「緑の郷でお花見をしたいってチョッピが言ってたから
 みんなを誘いに来たラピ」と答える。

「へえ――ムープやフープも一緒に?」
「そうラピ。みんなでするラピ」
「ねえ薫、満は今どこにいるの?」
桜を見上げていた咲が薫に尋ねる。
「咲の家でパンを作っているはずだけど」
「今日暇かなあ?」
「パンさえ焼きあがれば、特に忙しくはないと思うわ」
「うーん、だったらここに来てもらって今日お花見した方がいいかも。
 今夜雨だって言ってたし、花が散っちゃうかも。舞も――」
と咲は舞の後ろから絵を覗き込んで、

「もうすぐ絵が完成しそうだし。そうしたら多分お花見に参加してくれると思うんだ」
薫も舞の絵を覗いた。確かに、自分より大分速く進んでいるからもうすぐ終わりそうだ。

「チョッピやムープ、フープたちもすぐ来れるでしょ?」
咲の問いにフラッピはラピ、と頷く。
「すぐに呼んでくるラピ」
「じゃあ、お願いね」
フラッピがとてとてと歩いていくのを見送ると、

「じゃあ、満に声をかけてくるね」
と咲は薫に手を振った。
「そう。……私は何かしたほうがいいこと、ある?」
「舞の絵が終わったら、お花見のこと話しておいてくれる?」
「分かったわ。『お花見』って言えばいいのね?」
「うん、よろしく!」
咲は転がるようにトネリコの森から駆け下りた。
今日にすると決めたなら早く始めたほうが沢山お花見を楽しめる。


「満っ!」
PANPAKAパンに駆け込んで厨房に入って大きな声を出すと、
パンが焼きあがるのをじっと待っていた満がびくっと身を動かした。

「咲、厨房で騒いじゃ駄目よ」
一緒にいたお母さんに注意されごめんなさいと謝り、改めて満に
「パン、いつ焼けるの?」
と尋ねる。

「もうすぐよ」
「ねえ、それ焼きあがったら暇? 何か用事ある?」
「別に用事はないけど?」
「ちょっとお花見しようってことになってるんだ。満も焼きあがったら一緒に行こうよ」
「お花見? 何、それ?」
あ、そうかと思い咲は
「桜の花がすごく綺麗に見えてるからそこでおやつでも食べようよ」
と言いなおす。ふ〜んと満は納得した様子で、

「そういうこと。舞と薫も?」
と咲に聞き、咲が頷いているのを見ると安心した様子で、
「じゃ、これが焼きあがったら行くわ」
「それならそのパンをお花見に持っていったら?」
咲の母の声が後ろからした。はい、と少し大きめな籠を満に手渡す。

「これ使っていいんですか?」
「ええ。丁度いいくらいでしょ?」
「ありがとう、お母さん!」
咲と満は厨房でパンの焼きあがり時間を待つことにした。

「お花見ムプ!」「お花見ププ!」
フラッピとチョッピ、それにムープとフープが緑の郷に現れたのは
しばらくしてのことだった。

「こっちに咲のお勧めスポットがあるラピ!」
フラッピが先頭に立ってみんなを案内する。到着すると、
「本当に綺麗チョピ!」
チョッピが感激した声をあげる。フラッピとしてはこの一言を
聞くために今まであれこれ動いていたようなものだ、
もう思い残すことは何もないラピ――という気持ちになり始めていると
ムープとフープが桜の木の枝の脇を猛スピードで飛び始めて
はらはらと花を散らせて喜んでいるので大慌てで止める。

「ムプ〜」「ププ〜」
つまらなそうな表情でムープとフープが降りてくる。
「桜を散らせたら可哀想ラピ!」
一言言うと、ムープとフープは不満そうな顔をしたものの、
「あ、フラッピ、チョッピ!」
「ムープ、フープも!」
タイミングよくやって来た咲と満を見てムープとフープがぴょんと飛び跳ねる。
ムープとフープはすぐに満の持っているバスケットの中に入り込んだ。
焼きたてパンが熱いくらいだ。

「あれ、舞と薫は?」
家から持ってきたシートを広げながら咲が尋ねる。フラッピは首を振った。
「フラッピたちが戻ってきた時はもういなかったラピ」
「どこ行っちゃったのかなあ……」
もしや、薫が「お花見」ということを誤解していて舞に間違ったことを
伝えてしまって二人でどこか全然関係ないところに行ってしまっているのでは……
とも思うが、

――でも、『お花見』って言えば舞には分かるはずだし。
と考え直す。

どうしようかなと考えているとチョッピが「チョピ!」と声を上げた。
「舞が来たチョピ!」
「薫もいるププ!」
舞と薫は二人で何か重そうに荷物を提げていて――咲と満は
それを受け取るために坂を駆け下りた。
ビニールの袋の中に入っていたのは飲み物である。

「あ、飲み物持ってきてくれたんだ!」
「うん、きっと咲たちが食べ物は持ってくるだろうなって思ったから」
揃った四人はシートの上に座り、食べ物と飲み物を広げた。ムープとフープが
せわしなく動き回り、
「これ満が作ったムプ?」「美味しいププ!」
と言っている。

「うーん、でも本当に綺麗だね。フラッピたちのおかげでお花見できちゃった」
「そうね、さっきも絵を描いていて思ったけど、ここの桜は
 すごく静かなのに華やかだわ」
そんな会話を聞きながら、早々に満腹になったらしい薫が微笑みながら木の幹に
背をもたれかけて座りなおす。
と、何かを思いついたらしいフープが薫の横に回りこみ、
下に落ちている桜の花びらを掬い上げてぱらぱら……と薫の頭にかける。

「薫、可愛くなったププ!」
「え……そう?」
戸惑っている薫を見てみんな笑う。フラッピもそうだ! とばかりに、
「チョッピ、フラッピが……」
と言いかけるがチョッピは
「舞にもお花かけてあげるチョピ!」と言っていてフラッピのことを聞いていない。
舞は目を閉じてチョッピに花びらを貰うと、
「ね、チョッピ」
とチョッピの身体を抱いて反転させ、フラッピの方を向かせた。

「チョピ?」
「フラッピが、チョッピのこと可愛くしてくれるって」
「そ、そうラピ! フラッピがチョッピのこと綺麗にするラピ!」
フラッピが一度シートから離れると手に一杯の花びらを抱えてきた。

目を閉じたチョッピにフラッピが精一杯腕を伸ばして花びらをかける。

「チョッピはすごく……」
フラッピが口ごもると、
「可愛いムプ!」「可愛いププ!」
ムープとフープが先に言ってしまった。
「ありがとうチョピ〜」
フラッピが言いたかったラピ、と地団駄踏んでいるフラッピを見ながら
咲と舞はこっそり笑った。

-完-

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