「ほら、後ちょっとでしょ」
「うう〜……」
咲の部屋に咲と舞、満と薫の4人が集まって小さなテーブルを囲んで顔を突き合わせている。
最近は良く見る光景である。
一緒に勉強をすると言えば聞こえはいいが、三人でよってたかって咲の勉強を
見ているといっていい状態だ。
舞はたまに分からないところが出てくることがあるので
その時は薫が舞を、満が咲を教えるという形になる。

咲は先ほど満に教えてもらった数学の問題を応用した問題に取り組んでいた。
ここまでできたら今日の勉強はお終いと事前に決めている最後の問題なので
後少し、後少し、という思いが募る。
舞もつい今しがたまでうんうんとその問題を考えていたが、
ぱっとひらめいて解けてしまったので今はみんなで咲を待っている状態だ。

咲のベッドの上で丸くなっているコロネが大きくあくびをする。その周りで
静かに勉強が終わるのを待っていた精霊たちもそろそろしびれを切らす。

「おなかすいたププ」
「まだムプ?」
フープの言葉を合図にするように、ムープがぴょんとベッドから飛び下りテーブルの上に乗った。

「まだ!」
少しいらだちながら咲は答えてムープをずいと満の方におしやる。
「早くおやつ食べたいムプ」
「ムープ、咲もうすぐできるから」
満はムープを腕に抱えて頭を撫でながら咲を見守る。
アドバイスをするのは簡単だが、自分で考えることも大切だ。
今日は似たような例題を難問も解いたから、少し何かがひらめけば
その例題と同じパターンの問題と分かるはずなのだ。
ムプムプとムープは満の腕の中で小さな声を上げていたが、
「分かった!」
という咲の大声にびくんと身体を動かす。

「分かった、分かったよ満!」
咲は右手に持った鉛筆を振り回しながら大声をあげる。
「うん、分かった! ……気がする!」
少しだけ弱気になりながら咲は鉛筆を握り直し、ノートの上に今の自分の
考えを書きつけていく。
途中計算間違いをして途方に暮れたこともあったが、
「あ」
と気づいてまた戻ってやり直す。

「……できた!」
答えが出てから鉛筆を置いて咲は満をちらりと見る。
満は咲が解答を書き始めた時からずっとその内容を読んでいたので、

「合ってるわよ、咲」
とすぐに答えた。
「あ〜、やっと終わった」
やれやれと言いたそうに咲は床に手をついてふうと息をついた。

「咲は時間がかかるラピ〜」
フラッピが少し恨みがましそうにそう言うと、
「そりゃそうだけど」
と咲は少し不満そうだ。
「咲、でも随分早く解けるようになったのよ」
舞はそんな風に言って咲をフォローした。フラッピ達は基本的に泉の郷に帰っているので、
緑の郷に来るのは時たまだ。
咲が一生懸命勉強しているのを知っている舞としては、少しずつでも咲が問題を
解けるようになっているのをアピールしたいところである……まだ、目に見えて成長したと
言えるほどではないが。

「まあ、頑張ってるのは分かるラピ」
「でしょ?」
咲は胸を張って立ち上がると、
「おやつ取ってくるね!」
と部屋を飛び出すように出て階段を下りていく。満の腕の中で「おやつムプ!」と
ムープが嬉しそうに言って腕から飛び出し、テーブルの上にちょこんと乗る。

「泉の郷ではどんなおやつを食べるの?」
満はテーブルの上のムープの頬を軽くつつく。ムープはムプムプと満の指の感触を楽しんでいる。
「木の実や果物がいっぱいあるチョピ」
チョッピはコロネの横にちょんと座ったままで代わりに答える。
「それは緑の郷にあるのと同じようなものなの?」
薫が尋ねると、フープがふわっと浮かび上がってちょこんと薫の両手の上に収まった。
「全然違うププ。今度は一緒に食べるププ!」
「……私たちが食べても大丈夫なの?」
「ププ?」
フープは薫の質問の意味が分からなかったようにきょとんとした表情を浮かべた。
「精霊じゃない私たちが食べても大丈夫なのかしら」
「身体に悪いことはないと思うラピ」
「フィーリア王女に聞いてから食べてみたらいいチョピ」
フラッピとチョッピが薫の質問に答えた。

「よっ……と」
お盆を両手で持っている咲が、少し開いたドアから身体を滑り込ませようとしているのに
舞が気づいてすぐに立ち上がるとドアを開ける。
「はい、咲」
「ありがと、舞」
咲はえへへと笑って部屋の中に入ってくる。

「何かね、お母さんがお友達からもらったお土産なんだって! 今日のおやつ」
お盆の上には四人分のお菓子とお茶が入った湯呑みが置いてある。
咲はムープをどかして、それらを順番にテーブルに並べはじめる。
「へえ、何?」
テーブルに置かれた見慣れないお菓子に満は物珍しそうに眼を輝かせた。
黄色いおまんじゅうのようにも見えるが、その質感はおまんじゅうのそれではなく
パンケーキか何かのように見える。

「えっとね、仙台のお土産なんだって。月の形をイメージしたお菓子らしいよ」
「月ムプ?」
テーブルの端にいたムープが敏感に反応した。
「そういえば、これ」
と満が自分の目の前にあるお菓子を手に取る。思っていたよりもふかふかとした
触感だった。
「ムープの額の月の色に似てるわ」
ムープの顔の近くにそのお菓子を置いてみる。ムプムプ、とムープは喜んだ。
「ムープのマークはお月様の色だから、お月様に合わせて作ったらムープのマークに
 似るムプ!」
「そうね」
いただきます、と言って満はお菓子を一口かじる。他の三人もそれぞれに食べ始めた。

「ん、これカステラなんだ」
咲が一口かじってそうつぶやく。カステラに包まれたクリームは甘い。
「ムープも食べる?」
満は、ムープがあまり食べたそうにしているので小さく切って渡すと、
「ムプ!」
とムープは喜んでそれを自分の顔の前に掲げると
自慢するようにフラッピとチョッピ、それにフープに見せて、それをさらに小さく
四つに分けると精霊たちみんなで分ける。

「おいしいラピ!」
「本当チョピ!」
「おいしいププ!」
精霊たちが口々に言う。コロネもねだるようににゃあと鳴いたが、
「コロネはだめ。虫歯になっちゃうから」と咲に言われてふんとそっぽを向いた。

「本当においしかったラピ」
フラッピは量が少し物足りなかったものの満足したようにそう呟いて、コロネの横腹に
背中を預ける。
「お月さまのお菓子だからムプ」
ムープが得意げにそう言ったのにフラッピは、
「花のお菓子があったら、きっとおいしいラピ」
と言い返す。
「そうムプ?」
「絶対そうラピ! フラッピみたいな青い花のお菓子があったら、絶対おいしいラピ!」
「青い花……?」
咲たちはその言葉を聞いて思わず考えた。

紫陽花、朝顔、ヒヤシンス。
青い花はいくらもあるが、思い出してしまうのは
「青いバラ……?」
舞が呟いた、その花だ。

「ラピ!?」
「どっちかっていうとそれはミルクのお菓子って言う感じよね」
「そうね、秘密の味がするのかしらね」
満と薫が具体性に欠けた言葉を交わす。

「ああ、じゃあミルクパンみたいなので薔薇の形に作って、ブルーベリージャムか
 何か使ったらミルクの青いバラになるんじゃないかな?」
咲の言ったことをみんな頭の中で想像し、
「美味しそうね」
と舞がにっこり笑う。
「うん、おいしそう」
「食べてみたいわね。ミルクのお菓子」
「ラピ!?」
フラッピは満と薫が口々に言った言葉に目を丸くして、
「フラッピみたいなお菓子だってきっとおいしいラピ!」
と脚をばたばたさせる。

「はいはい」
と咲はしょうがないなあというように笑って見せた。

「でもさあ、フラッピって何の花なの?」
「ラピ?」
咲の言葉にフラッピは首を傾げる。
「イーグレットは白鷺だし、チョッピもそれで白いのかなあって思うんだけど。
 ブルームって何の花って決まってないし、フラッピは青いし、何の花なのかなって思って」
「ラピ……」
そんなこと聞かれても、と言わんばかりにフラッピは戸惑う。

「ブルームはひまわりみたいに見えるわ。満開の」
舞の言葉に満も薫も頷く。
「でも、ひまわりって黄色いよねえ」
「青いのってあるのかしらね」
咲の言葉に満が答える。
フープは薫の手の上で小さく丸くなっていた。

「世界中のきれいな花を全部集めたらフラッピみたいな色になるラピ!」
フラッピは怒ったようにそう叫ぶ。
「だから、『何の花』っていうんじゃないラピ! フラッピはフラッピラピ! 花の精ラピ!」
そんなフラッピの様子に咲はぷっと吹き出すと、
「そうだね、フラッピはフラッピだね」
と笑って、
「もうちょっと食べる?」
とお菓子をまた小さくちぎって宥めるようにフラッピに渡した。

 * * *

「薫〜……」
おやつがすんでみんなで大空の樹の下にやって来たとき、フープはふわふわと薫の
そばに飛んできた。
「どうしたの?」
「薫は、フープはどうしてピンク色なんだと思うププ?」
「……どうして?」
「風に色はないププ。どうしてピンク色なのか、フープはよく分からないププ」
そういうことか、と薫は思う。フープの様子がさきほど少しおかしかったのには
気づいていたが、理由は今ここでやっとわかった。

「……それは私には分からないけれど」
薫の答えに、フープはがっかりとした表情を見せる。

「でも、フープのピンク色は好きよ」
「ププ?」
フープは視線を上げて薫を見ると、
「ありがとうププ」と言って薫の胸に飛び込んできた。


-完-

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