月の精ムープと風の精フープが普段暮らしている空の泉には精霊たちがたくさん住んでいる。
ムープとフープは普段彼らと遊んで暮らしていたが、たまに来る緑の郷、いわゆる
人間の住む世界にはまた別の遊び相手がたくさんいた。

「ムープ、こっちに蟻さんがいるププ!」
「蟻さん行列してるムプ〜!」
緑の郷には色々な生き物がいる。特に大空の樹を中心とするトネリコの森には
たくさんの生き物が息づいていて、空の泉で生まれ育った彼らにとっては
その姿は魅力的だった。動いている様子をじっと観察していることもあったし、
時には捕まえてみようとすることもあった。

「かまきりさん逃げられちゃったムプ……」
「仕方ないププ」
ムープとフープの手が短すぎるせいなのか、大抵はうまくいかなかったけれど。
「……今、何か動いたムプ!」
「追いかけて見るププ!」
背の高い草の影に動いた姿を見てムープがぴゅっと飛ぶ。フープも一緒になって
後を追いかけていった。
影の正体はトカゲで、謎の生き物に空から追いかけられているので
泡を食って逃げているのだがムープとフープに悪気はなく、

「トカゲさん待ってムプ〜」
「遊ぼうププ!」
草を掻き分けながらムープとフープはトカゲを追い続けました。
全体的にまだ小さく、尻尾にかけて青光りしながら虹色に輝く綺麗なトカゲだ。
「捕まえたムプ!」
ぴょんと飛びついたムープの短い手がトカゲの尻尾を抑えた。
「これで遊べるムプ」
とムープが落ち着いたのもつかの間、トカゲは尻尾を切り離してぱっと逃げ出す。
「ムプ!?」
ムープが驚いて自分の手を見ると、虹色の線が入った尻尾だけが残っていた。
「トカゲさん逃げちゃったププ。痛そうププ」
フープはトカゲが逃げた方を見て心配そうにしている。
「尻尾切っちゃったムプ」
悪いことをしたような気がしてムープが地面の上に残された尻尾を見ると。
尻尾がぴくぴくと生きているかのように動いた。

「ムプッ!?」
「ププッ!?」
驚いているムープとフープの眼の前で尻尾はまたぴくぴくと動いた。
「ムプー!」「ププー!」
怖さのあまり二人はその場を逃げ出して頼れる人のところに向った。


「コロネ〜」
泣きそうになりながら二人が向ったのはPANPAKAパンで飼われている猫のコロネである。
見かけも性格もどっしりとしているので、ムープとフープは咲の家に住んでいた頃
よくコロネに遊んでもらっていた。
咲の部屋で眠っていたコロネの下にさっともぐりこんで隠れる。
コロネは二人に気づいて目を覚ましたが、にゃあと鳴いただけでそのままにしていた。
暖かい毛皮に包まれて少し落ち着き、互いに顔を見合わせた。

「どうするムプ?」「どうするププ?」
どうすると言ったって、いい案は浮かんでこない。それでもあの尻尾が動いていたのは
確かなことだ。
「あの尻尾、生きてたムプ?」「間違いないププ」
「ひょっとしてあの尻尾からトカゲさんが生えてくるムプ?」
「そうかもしれないププ!」
あの虹色の尻尾からトカゲが生えてくる様子を想像してムープとフープは怯えた。
ぴくぴくと動きながらムープとフープを追いかけて来そうな気がする。
「ムープ、もしかしてあの尻尾がいくつにも分かれてそこから
 トカゲさんがたくさん生えてくるかもしれないププ」
悪い想像は加速する。虹色の尻尾がいくつにも分裂してそこからトカゲが生えてきて
追いかけてくる場面を想像してムープはめまいがした。

「どうするムプ?」「どうするププ?」
話が一回りしてまた元のところに戻ってきた。ムープとフープは深刻な顔を
見合わせる。
二人の上でコロネがごろごろと喉を震わせた。
「コロネが何か言ってるムプ」
「何て言ってるププ?」
コロネの下から外に出てその顔を見る。コロネは咲の枕の上に移動するとまた丸くなった。
「……咲たちに相談してみるムプ?」
「そうした方が良さそうププ」
慌てていた思考からやっとその結論が出て、ムープとフープはぴゅうっと窓から飛び出すと
学校にいるはずの咲たちを探した。

ムープたちは、ちょうど下校途中の咲と舞、満と薫を発見した。都合よく
四人だけで歩いていて他には誰もいないので、
「咲ー! 満ー!」
「舞ー! 薫ー!」
とすぐに急降下する。
「ムープ! フープ!」
「騒いじゃ駄目よ!」
と咲と舞は慌てて急降下してきた二人を鞄の中に入れた。
「そんなこと言ってる場合じゃないムプ!」「大変ププ!」
ムープたちが更に騒いだので咲たち四人は顔色を変えた。
「どうしたの」「まさかフィーリア王女に何か?」
四人は立ち止まって道の隅で咲と舞の鞄を囲む。満と薫は特に真剣だった。

「そうじゃないムプ」「トカゲさんが大変ププ!」
トカゲ……? と咲たち四人は顔を見合わせた。ムープたちの焦りようと
マッチしない言葉だ。
「トカゲさんの尻尾が切れて、虹色の尻尾がぴくぴく動いてたムプ!」
「このままだと尻尾からトカゲが生えて、トカゲさんがどんどん
 増えるかもしれないププ!」
「あ、あのねムープフープ」
咲と舞が苦笑を浮かべた。
「トカゲの尻尾って切れてぴくぴく動くものなのよ。そこからトカゲが生えてきたりは
 しないから大丈夫」
「そうムプ?」「そうププ? 安心していいププ?」
ムープとフープが鞄から少しだけ顔を覗かせる。
「大丈夫だよ、安心して」
咲が言うと、「良かったムプ」「良かったププ」
とムープとフープは安堵の笑みを浮かべた。

「それでムープとフープは今日は何しに来たの?」
再び歩き出しながら満がムープとフープに尋ねる。ムープとフープはまだ
かばんの中に入ったままだ。
「遊びに来たムプ」
「学校の時間だと思ったから、トネリコの森で待ってたププ!」
「ああ、そうだったの」
薫が納得したように頷き、「トネリコの森では十分遊んだの」とかばんの中に聞いてみると、
「トカゲさんでびっくりしたからあんまり遊んでないムプ」
「もうちょっと遊びたいププ!」
と返事がした。
「しょうがないなあ」
咲は困ったように呟きましたが他の三人が笑みを浮かべていたのを見て、
「じゃあこれからみんなでトネリコの森に行こっか」
と決めます。かばんの中から嬉しそうな声が聞こえてきた。
「でも、悪戯しちゃ駄目だからね」
咲がそう釘を刺すと、
「悪戯はしてないムプ」「遊びたかったププ」
と不満そうな声が帰ってきた。分かれ道に差し掛かり、四人はトネリコの森に行く道を
選んで曲がって行く。

-完-

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