「ムープ、追いついてみてププ〜」
「待ってムプ!」

空の泉に異変が迫っているのをムープとフープは気づかなかった。
ただいつものように二人で飛び回っていた。
「ムプ?」
いつも射している光が消えた。ムープが思わず上を見る。
「ププ?」
風も止まった。フープが辺りをきょろきょろと見回す。
次に二人の目に映ったのは信じられない光景だった。
天空からの意地悪な高笑いと共にどす黒い紫色をした球が降りてくる。
「ムプ!?」「ププ!?」
球は巨大な吸引力を持ち空の泉の水を吸い上げていく。周りの精霊達も次々に
吸い込まれていく。ムープとフープは必死で近くの岩にしがみついた。

「み、みんなが吸い込まれて行くムプ!」
「手を離しちゃ駄目ププ!」

「ほんっとうに無力なんだから、精霊たちなんて」
滅びの力による吸引が収まった。
岩の影からムープとフープがそっと覗くと、元々泉の真ん中であったところに
ダークフォールの住人――ミズ・シタターレと言う名は後で知った――が降り立っている。

ミズ・シタターレは満足げに辺りを見回す。つられてムープたちも周りを見ると、
空の泉はすっかり様変わりしていた。緑の郷と同じくらい美しいと言われていた泉の姿は
もう見る影もなく、ただ枯れ果てた世界が広がっている。

「これで私がダークフォール一の実力者であると、ゴーちゃんもアクダイカーン様も認めるでしょうね」
ふふん、と笑うとミズ・シタターレは長い袖を翻した。その姿が水柱となりそのまま崩れて消える。
ムープとフープは顔を見合わせた。
しばらくの間岩場の影でじっとしていた。
やがてフープが小さな声を出した。

「いっちゃったププ?」
「そうみたいムプ……」

二人は恐る恐る岩場から顔を出してみる。ミズ・シタターレの姿はなかった。
誰の姿もなかった。
空の泉を重苦しい沈黙が覆っている。遠くで何かが崩れる音がして、
二人はまた岩の影に戻った。地面に何かが倒れる振動がムープとフープにも伝わってくる。

二人は岩の影から動かないことにした。


空の泉を探索してみるようになったのは数日が経ってからである。
ミズ・シタターレが本当にどこにもいないと言う確信らしきものが芽生えてからだ。
まず自分達と同じように空の泉に残っている精霊達を探す。
しかし声を上げるとダークフォールの者に見つかるかもしれないとも思ったので、
二人はあまり音を立てないように飛びながら仲間を探していた。
「みんなどこ行ったププ……?」
枯れ果てた泉の世界には誰の姿も見当たらない。
二人きりですみずみまで探すには空の泉は広大である。精霊が本当に残っているのかも分からない。
二人は何度か、諦めかけた。しかし翌日も誰かを求めてふわふわと飛んでいた。

満と薫に助けられたのが何日目のことであったか、今となってはもう分からない。
灰色の服を着た鋭い目つきの彼女達はどう見てもダークフォールの一員であった。
しかしムープとフープは彼女達についていくことにした。

実際のところ満と薫の生活もムープとフープのそれとそんなに変わるものではない。
大抵は倒れた樹の上に二人で座っている。たまに思いついたように空の泉を見回る。
満、薫、という名は互いの事をそう呼び合っていることから分かったが、
二人の間に会話が交わされることもほとんどなかった。
ただ淡々と日々を過ごしているだけである。

「今日こそ、満と薫に話しかけてみるムプ!」
「そうププ! 頑張るププ!」
二人はそう決意することもあったが、いざ満と薫に話しかけようとすると中々勇気が
出てこない。
ムープはいっそ、もう一度危険な目に遭おうかなんてことも考えた。
満と薫がまた助けてくれればお礼を言いながら話しかけることができるかもしれない。
――しかし、満と薫が気づかなかったら危険すぎるとフープに反対された。
「でもフープ、このままじゃいつまでたっても満たちとお話できないムプ」
「だからって危ない目に遭うのはやりすぎププ!」

「満殿、薫殿。空の泉の様子はいかがでございますか」
たまにゴーヤーンが満と薫の様子を見にやってくる。満と薫はそのたびに不機嫌そうに答えている。

「別に」「何も変わったことなんてないわ」
「そうでございますか。……残っている精霊は始末しましたか?」
ムープとフープは岩の影で思わず身を固くした。
「したわ」「何を今更」
「いえいえ、お二人は気まぐれですから泉の管理を怠ったりしているのではないかと……」
「疑っているの」
薫の右手に光が集まり始めた。ムープとフープが覗いていると、ゴーヤーンが怯えたように、
「冗談でございますよ」
などと言っている。
「カレハーン殿が伝説の戦士プリキュアに敗れましたからな。今はモエルンバ殿が
 緑の郷に行っておられますが。
 万が一にも精霊を討ち漏らすことのないよう、厳重な警戒をお願いしますよ」
「分かっているわよ」
満が答えると同時に「それでは」とゴーヤーンの姿は掻き消えた。
ムープとフープはそっと息をつき身体の力を抜く。

「やっぱり満たちはムープたちのこと守ってくれてるムプ」
「今度こそ満と薫にお話してみるププ!」
ひそひそと話し、樹の上に座る二人の様子を見てみると何か考え事を
しているように俯いている。
ムープとフープは顔を見合わせ、また話しかけるのを躊躇った。


翌日、目覚めると満と薫の姿はいつもの場所から消えていた。
「満たち、どこ行ったムプ?」
「探してみるププ……」
二人はまた空の泉を巡った。今度探しているのは漠然とした誰かではなく満と薫だ。
しかし、前と同じようにやっぱり見つからなかった。
「満たち、いなくなっちゃったムプ……」
「早くお話しておけばよかったププ……」
本当に二人きりになってムープとフープは空の泉の片隅でひっそりと身を寄せ合っていた。

* *

「ムープ、フープ、私の作ったパン食べてみる?」
日向家の台所から出てきた満がムープとフープに声をかける。
「食べるムプ!」「食べるププ!」
と二人は当たり前のように答える。
「はい、どうぞ」
満はバターロールをムープとフープの真ん中に置く。

両端からムープとフープはパンにぱくついた。
二人の動きに合わせてパンも少しずつ動く。それについて行くように
ムープたちも動く。
満が見ていると、ムープたちとバターロールは徐々にテーブルの端へと近づいていった。
本人達はそれに気づいている様子はない。
動きが面白いのでしばらく様子を見守る。ぱくぱく食べながら移動し続けあるところでとうとう、

「ムプ!?」「ププッ!?」
テーブルから落ちた。満が待ち構えていたように手を差し出す。
ムープもフープもバターロールも、満の手と腕の中にすぽっと納まった。

「気をつけないと駄目よ」
「ありがとうププ」
フープは満の手から降りると、テーブルの上に再び置かれたバターロールにぱくつく。

「ムープ?」
満はムープも降ろそうとしたがムープは満の手から離れず、そのままぴょんと向きを変えて
満の方を見た。

「やっぱり満はいっつもムープたちのこと助けてくれるムプ」
「別にそんなこと、ないわよ」
満はムープを静かテーブルに降ろすと、「気をつけて食べなさい」と言って
再び台所に戻ってしまった。

「満は照れ屋さんムプ」
「そういうところが可愛いって今度言ってみるププ!
 この前のテレビでもそんな言葉があったププ!」
「じゃあ、今度言ってみるムプ!」

再びパンを食べ始めようとしたムープだったが、フープがもう大半を食べ終わってしまっていた。
「もう一つ貰ってくるムプ!」
ムープは満を追いかけて台所に飛び込んだ。


-完-

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