――満と薫に会いたいムプ……
ムープは突然そう思うことがあった。

緑の郷に着てから大分経つ。怒られながらもそれなりにここでの生活に
馴染んでは来た――と思う。
何しろ、ムープには見るもの聞くものが珍しい。
緑の郷の人たちも、ちょっとした道具も、ちょっとした景色も。
そんなわけでムープはよくフープと一緒にフラッピの目を盗んでは
日向家を探検していた。
沢山の人が出入りする店内を上から見ていたこともあるし、
日向家の食卓を部屋の隅からこっそり見ていたこともある。

いつも最後はフラッピに見つかって怒られるのだったが。


「フラッピ……」
「何ラピ?」
今日は少し大人しい声でフラッピに聞きたいことがあった。

「ムープたちは、いつ空の泉に帰れるムプ?」
「それは、フラッピたちと咲や舞みんなで力を合わせて七つの泉を
 取り戻してからラピ」
「ムプ〜」
ムープはぷっと頬を膨らませた。

「早く帰りたいムプ」
「それはフラッピたちも同じラピ。みんなで一緒に帰るラピ」
「満と薫にはいつ会えるムプ?」
「それも、みんなで力を合わせてダークフォールから二人を助け出してからラピ」
「ムプ……いつになるムプ?」
「分からないラピ。でもいつか必ず会えるラピ!」
「ムプ……」
いつも通りのフラッピの言葉に、ムープはがっかりしていたようだった。

「二人は今もさびしい顔してるムプ?」
「ラピ?」
「ムープたちが空の泉にいた時の満と薫はいっつもさびしそうな顔してたムプ」
「二人で寄り添ってたけど、いっつもさびしそうだったププ」
二人の会話にフープも言葉を添える。
「ラピ……」
フラッピは詰まった。ムープとフープに言われて初めて気づいたことだった。

「フラッピ、二人は今もさびしそうな顔してるムプ? だったらかわいそうムプ」

「聞こえちゃった……ね」
舞が家に来たので咲は玄関まで出迎えに行っていたが、
部屋のドアの前で舞と二人、立ち止まっていた。
フラッピとムープ、フープの会話はドアを通して聞こえてしまっていた。
本当ならあまり大きな声を出さないように、と言うところだが
内容が内容なのでそういう注意をする気にもなれなかった。

「フラッピ、ムープ、フープ」
「あ〜、舞とチョッピラピ!」
フラッピは二人とチョッピを見てぴょんと飛び跳ねると、コミューンから元に戻った
チョッピの手をとると
「遊ぼうラピ! ムープもフープも!」
わざとらしいほどはしゃいでみせた。
「そうするムプ!」「何して遊ぶププ?」
「この部屋の中で、かくれんぼするラピ!」
四匹は最初の鬼を誰がするかで一揉めした後、フラッピがまず鬼になることで落ち着いた。

「もう夏休みも半分近く終わっちゃったね」
「そうね……」
遊んでいる四匹の中で、咲と舞は咲が持ってきた冷たい麦茶を飲んでいた。
舞は、とりたてて用事があって来たのではない。ただ咲と会いたくて家を訪ねていたから、
二人でただこうやって話しているだけで良かった。

「満と薫がいなくなってから、もう一ヶ月にもなるんだね」
「そうね」
「二人と一緒に海にも行きたかったし、お祭りにも行きたかったな……、
 きっと楽しんでくれたのに」
「咲……」
「ま、舞!?」
咲は舞の顔を見て慌てた。今にも涙が出そうに、その顔は歪んでいる。
「ご、ごめんね舞! 私その、変なこと言っちゃって」
「ううん、全然変なことなんかじゃない」
目の隅にじわりと浮かんだ涙を舞は指で軽く拭った。

「満さんと薫さんと、一緒に夏休みを過ごしたかったね、咲」
「舞……」
「冬休みは一緒にいられる……かな」
「い、いられるよ!」
咲は思わず大きな声を上げてしまった。
声の大きさが主張の信頼性に繋がるとでも言うように。

「冬休みは絶対一緒だよ! 二人と年越し蕎麦食べて初詣してお雑煮食べて、
 お節も食べようよ!」
「咲……食べることばっかり」
「あ、あはは」
ごまかすように咲は笑う。釣られて舞も笑ったので、咲はようやく安心した。


「舞、お願いがあるチョピ」
「どうしたの?」
その夜のこと。本を読んでいた舞にチョッピが話しかけてきた。

「ムープとフープが、満と薫に会いたがっているチョピ」
「そうね……」
「舞に、絵を描いて欲しいチョピ」
「え?」
きょとんと見返す舞に、チョッピは更に言葉を続けた。

「さっきフラッピと相談したチョピ。空の泉で、満と薫が笑っている絵を描いたら、
 ムープとフープもきっと喜ぶチョピ!」
「そうね……」
舞はチョッピをきゅっと抱きしめた。
「そうね、チョッピ。きっとムープたちも喜ぶわ。
 きれいで、明るくて、楽しい絵にしましょう。
 満さんと薫さんが帰ってきたときに実現するように」

しばらくして、舞は絵を持って日向家を訪れた。
「空の泉、一回見ただけだからちょっと違ってるかもしれないんだけど」
そう言いながら絵を広げる。
柔らかい色彩で描かれた絵。泉を中心に木々が生え、岸辺に満と薫がいる。
笑顔を浮かべて、制服を着て。

「ムプ! これ、ムープとフープムプ?」
ムープは興奮したように絵の中の黄緑色の丸い精霊とピンク色の精霊を指した。
「そう。ムープとフープと満さんと薫さんと、
 四人揃ってこんな風に空の泉を見ることができますように」
「ムプ〜。早くこんな風になりたいムプ」
「それにはみんなで力を合わせることが必要ラピ」
「フラッピはそればっかりムプ」
「ムープ! フラッピは大事なことだから何回も言ってるラピ!」
また追いかけっこが始まってしまった。
咲と舞は苦笑して四匹を見る。

「でも、本当に早くこうなったらいいね」
「なるわ。私と咲と……みんなで、頑張れば」


「お姉ちゃん? あれ、いない」
咲は舞を見送りに出てしまったが、そのことを知らないでみのりは部屋に入ってくる。
――なんだ、舞お姉ちゃん帰っちゃったんだ。つまんないな〜。

遊んでもらおうと思ったのに。
そう思いながらみのりはふと、咲の机を見る。
机の上には、舞が持ってきた絵が置いてあった。ムープとフープへのプレゼントだ。

――あれ? この絵……
場所は、知らない場所だ。絵本にでも出てきそうな雰囲気の場所だ。
けれども描かれている人物には見覚えがあった。

――みのりのスケッチブックにいつの間にか描いてあった人たちだ、これ……
  誰なんだろう……

自分のスケッチブックに描かれていたその人たちは静かに笑っていた。
この絵でも、笑っている。
良く知らないけど、きっといい人たちなんだ。

みのりはそう思って、部屋を出て咲を探すことにした。

-完-

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