【お読みになる前に】
このSSには映画「アナと雪の女王」のあらすじが書いてあります。
未見の方にはネタバレとなる情報も含まれているかもしれませんのでご注意ください。



ゴーヤーンを倒してしばらく後の夏。満と薫は夕凪町に暮らしていたが、
共に暮らしているのは二人だけではなかった。
どういう理由か分からないままに復活したカレハーンやモエルンバ達、
ダークフォールの幹部の面々とともに町はずれの大きな家で一同は過ごしていた。
アクダイカーンもゴーヤーンもいなくなってしまった今、
彼らが緑の郷を滅ぼす理由も特にない。
彼らは緑の郷で思い思いの仕事をし、それなりに楽しく暮らしていた。

「今夜、テレビを使いたいから空けておいてほしいんだけど」
ある日の夕食。ドロドロンが作ってくれたコロッケを口に運びながら
薫はこんなことを言った。この家のテレビは一台で、全員見たい番組がばらばら
ということもしばしば起きるので、こうして事前に使用予定を宣言しておくと
一応その時間帯の主導権を握れるということになっていた。
今食卓にいるのは満と薫、それにドロドロンとミズ・シタターレの
四人だけで他の三人はまだ帰ってきていない。

薫がテレビを見ているときに残りの三人が帰ってくればひと悶着起きる可能性もあるが、
それはそれでなんとかしようと薫は思っていた。
とにかくまず、ここで一度主導権を確保しておくことだ。

「『ダーウィンが歩いた!』の後なら僕はかまわないよ」
とドロドロンが毎週見ている動物番組の名前をあげる。
「私もいいけど、でも、今夜何か面白そうな番組あった?」
ミズ・シタターレが首をひねった。

「みのりちゃんからDVDを借りたの」
と薫は答える。
「何の」
「『アナと雪の女王』よ」
映画館で公開しているときは結局見に行けなかったものね、と満と薫は
目を合わせて頷きあった。

「あ、それ! 大ヒットしてた映画じゃない!」
立ち上がらんばかりの勢いで興奮して話に食いついてきたミズ・シタターレに
満と薫は内心驚きながらも表情には出さず、

「ええ、そうよ」
と満が答える。
「それ私も見に行きたかったんだけどいけなかったのよね。キンちゃんの都合も
 つかなかったし」
「……そうなんだ」
映画館は女性客で満員御礼だという話を聞いていたが、その中にキントレスキーが入っても
大丈夫だったのだろうかと満は思った。そもそもキントレスキーはミュージカルを
楽しむことができるのだろうか。

「そのDVD、私も見るわよ。いいでしょ」
「構わないけど」
薫はそう答えて頷いた。シタターレが一緒に見ていれば余計な妨害は入らないだろう、
とも思った。

 * * *

「アナと雪の女王」は、アレンデール王国の国王夫妻の長女エルサの持つ魔法の力――
雪や氷を操る力――を巡る物語である。
彼女にとってそれは生まれつきの力だったが、
それを使いこなすことはできない。魔法の力を持たない周りの者たちも、
彼女にそれを操る技術を教えることはできなかった。
エルサは自らのコントロールできない力を恐れ、妹のアナを傷つけないよう部屋の中に
引きこもり彼女のことを拒絶するのである。

「意外と辛気臭い話だったのねえ、これ」
ミズ・シタターレはテレビの前のソファにどんと陣取り、どこからか持ち出してきたポップコーンを
片手にそんな感想を漏らす。
「せっかく魔法の力があるんだからフル活用して芸でもすればいいじゃないの」
「しょうがないでしょ。この人、人間なんだからなかなかそんな風には思えないわよ」
隣に座る満がシタターレの持つポップコーンの紙容器に手を入れて一掴み取り、
ぱくりと食べながら答える。
「人間? そんなこと言ってた?」
「言ってないけど。何も言ってないってことはそうなんじゃないかしら」
薫はシタターレを挟んで満と反対側で、(うるさいわね……)と内心思いながらも
とにかく話に集中しようと黙って画面を見つめていた。

テレビでは、魔法の力が人に知れることとなったエルサが城を飛び出し山奥に
壮麗な氷の城を築きそこに住まうという展開になっている。
城を飛び出した彼女が海の上に氷を張りそこを駆けていくシーンにシタターレは
やっと見たい場面が来たというようにぐいと身を乗り出した。

「ほら、うまく使えるようになったじゃないの! その調子でうるさい人間どもを
 見返してやんなさいよ!」
だが映画はシタターレの思う通りには進まない。エルサは壮麗な氷の城から、
やはり一歩も動こうとはしなかった。

「だーかーらー!」
ミズ・シタターレはどんどんと床を踏み鳴らす。
「城つくって引きこもってんなら、やってること同じでしょうが! ありのままに
 人間どもを倒しに行きなさいよ!」
「だからエルサは静かに暮らしたいだけなのよ、たぶん!」
それからいくつかのエピソードの後に、軍の追手がエルサを襲い彼女は魔法の力で
戦うのだったが、

「いまいちふっきれないのよねえ、この子」
というのがシタターレの論評であった。
「もっとうまい戦い方があるじゃない。指導したくなってきたわ」
「そしたら全然違う映画になっちゃうでしょ……」
満はまたポップコーンの容器の中に手を入れたが、それは既に空になっていた。
シタターレはふふんと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
そして物語は進み、混迷を極めた事態は真実の愛でハッピーエンドを迎えるのであった。

ラストシーンを見たシタターレが感動した表情を浮かべているのに満は驚き、
「えっと……ずっと文句言ってたけど、もしかして面白かったの?」
と尋ねる。
ほう、とシタターレはため息を一つついた。
「私もキンちゃんとの真実の愛があればもっと強くなれるかしら……」
とうっとりした表情で答えるシタターレを見て、

――好きにして。
と満は思う。薫は無言のまま、
――満とシタターレの会話しか頭に入らなかった……
とがっかりしていた。

 * * *

翌日。薫はみのりにDVDを返した。
「ねえねえ、薫お姉さん。面白かった?」
「そ、そうね……見ながら、家族のことばかり考えていたわ……」
薫がそう答えると、
「やっぱり! みのりもね、お姉ちゃんのこと考えながら見てたんだよ!」
とみのりは満面の笑みを浮かべた。

なお、数日後にみずした屋のかき氷には「雪の女王風大盛りかき氷」という
メニューが追加されていたようである。

-完-

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