全国どこの学校にも、怪談の一つや二つはある。
ここ夕凪中にも、当然ある。


「理科室の掃除か、やだなあ……」
放課後、夕陽の照らす教室で咲はぼやいていた。
「あら、どうして?」
満が尋ねる。二人は先生から理科室の片づけを頼まれていたのである。
舞と薫がスケッチがあるからと早々に学校を出たのに対し、
教室でのんびりしてしまっていたのが敗因だった。

「時間があるなら、ちょっと片付けておいてくれ。だいぶ散らかっていたから」
二年生の理科を教えている先生からそう頼まれてしまうと、行かないわけにはいかない。


「理科室ってさ、変な噂があるんだよ」
「噂?」
咲の足取りは重い。満はきょとんとした表情で咲の話を聞いている。

「夜になると理科室で解剖された生き物の霊が出るとか、
 人体模型が動き出すとか。何か、十何年か前に理科室で死んだ生徒がいるとか……」
「ふうん……?」
満はいまいちぴんと来ないので、曖昧な返事になる。
「解剖された生き物って?」
「蛙とか魚とかじゃないかなあ、多分」
「霊っていうのは、怖いものなの?」
「そりゃ怖いよ! 幽霊だもん!」
「幽霊って何するの?」
「え?」
咲は虚を突かれたような表情を浮かべたが、

「ほら、呪いをかけたりとか……そういう、怖い話とかTVでやってるの見たことない?」
満はだまって首をかしげた。

――ムープやフープの方がこういうことは詳しいかも。
咲はそう思い、
「とにかく、変なことをいろいろするんだよ」
と言いながら理科室の扉をがらりと開けた。

理科室は、厚いカーテンがひいてあるようで暗い。
ぱちりと電気をつけると明るくなったが、中は何かの薬品のようなにおいがする。
「ああ、これを片付ければいいのね」
理科室の机の上には咲たちの学年が実験で使った教材やプリントが散乱していた。
授業中に先生が回収したはずのプリントまで落ちている。

先生か、授業を受けた後のクラスみんなで片付ければよかったのにと
咲は思いながらも片づけを始める。

突然ぴちゃんと音がした。
「わっ!」
咲は驚きの声を上げる。
「驚き過ぎよ、咲」
満はそう言って笑って、窓のそばを指さした。窓の近くに置いてある水槽には魚が
泳いでいる。

「ああ、そっか、何だ……」
咲は照れ笑いを浮かべると、また片づけを始めた。

二人でやれば、片付けにそんなに時間はかからない。
散乱している教材やプリントをまとめて、教卓の上に置いて。
大体こんなものかなと思える程度まで片付いたところで二人は理科室を出た。

「ああ、やれやれ」
理科室から出られて、咲はうんと伸びをした。
二人そろって職員室に向かう。
「結構散らかっていたわね」
「ね。授業が終わった時にみんなで片付ければいいんだよね」
「ねえ咲。最近、よそのクラスに転校生来た?」
「え?」
咲はきょとんとした表情を浮かべる。
「来てないよ。何で?」
「え?」
今度は満が不思議そうな顔をした。

「だって、さっき理科室にあったプリントの中に知らない名前を書いているのが
 一枚あったわよ。他は全部A組の人の名前だったけど」
「え? ……」
咲は一瞬考える。
つまりそれは一枚余計にプリントがあったということで、
その名前は知らない人で……、

「満」
咲はぎゅっと満の手を握った。
「どうしたの?」
「逃げよう、満!」
「えええどうしたの咲!?」
説明している暇はないとばかりに咲は満の手を握ったまま廊下を駆けはじめた。
夕陽の差し込む廊下に二人の靴音だけが響いていた。

-完-

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