「この雪が消えるみたいに、私たちもいつか消えちゃうのかな……」
満の掌に落ちた雪は体温に暖められて次々と見えなくなっていった。

満は何となく感じていた。カレハーン、モエルンバ、ドロドロン、
そして今日はミズ・シタターレとキントレスキー。
ダークフォールの幹部たちは次々と消滅して行った。

自分たちだけが、消滅を免れるとは満には思えなかった。
滅びの力がなくなることによって消滅するのか、それともアクダイカーンによって
存在を消されるのか――どちらかは分からないにしても、おそらく、
自分たちは消滅してしまう。

満はそう思っていた。
咲と舞なら、何とかしてくれるかもしれない。
伝説の戦士プリキュアの力を持ってすれば、奇跡を引き起こしてくれるかもしれない。
心の片隅でそう思ってはいても、他方、その可能性が限りなく低いことも考えずにはいられない。

雪を受け止めている満の掌はすっかり冷たくなっていた。


今夜はクリスマスパーティーである。パーティーというのは初めてだったが、
要するに親しいもの同士で食事をしながら歓談する会であると、
満はすぐに諒解した。
薫も納得したらしく、自分にとって一番親しい者――みのりと先ほどから部屋の
片隅で何か話し込んでいる。

「霧生さん、これおいしいよ。食べてみたら?」
仁美がフライドチキンを勧めてくれた。取って一口かじってみる。
少し熱いくらいの肉は香ばしく、美味しかった。

「そうね、美味しいわね」
「咲のお父さんもお母さんもマジ料理上手だからねー、うらやましいよね。
 霧生さんもここのパン好きでしょ?」
「え……まあ……」
「いっつもお昼ごはんはここのパン食べてるもんね」
それは私たちがお弁当を持ってくる習慣がないから結果的にここで毎朝パンを
買うことになっただけで、別に好きということでは……いや好きだけど……

「仁美、ちょっと手伝ってー」
満があれこれ考えているうちに仁美は優子に呼ばれて行ってしまった。
テーブルに載っている色々な料理に満は手を伸ばす。どれも、温かかった。

――少し顔が火照ってるみたい……

部屋は暖房がよくきいている。熱い料理を続けて食べたこともあって、
満は冬には不自然なほど身体が熱くなっているように感じた。

少し身体を冷まそう。そう思って、満はパーティーをしている部屋を出た。
勝手知ったる他人の家。お手伝いをしたことも咲の部屋で勉強をしたこともあり、
日向家の間取りは分かっている。

満は足音を立てないように階下に降りると、玄関からそっと外に出ようとした。
が、トイレからちょうど出てきた咲に出くわす。

「あれ、満!? どうしたの? 何かあった?」
こっそり会場から出てきた満を見て咲はひどく心配そうに尋ねる。
何でもないの、満は大げさなほど手を振って否定した。

「ちょっと、部屋の中にいたら暑くなっちゃって。すこし涼しいところに行きたいと思って」
「あ、なるほどね……じゃあ、私も一緒に行く!」
咲は満の腕を掴み、強引に引っ張る。
「ちょ、ちょっと咲……」
玄関を開けると、いつもとは少し違った光景が広がっていた。
雪はもうやんでいたが、それでもPANPAKAパンの庭は白く覆われ、
どこか異世界のような様相を呈していた。

「わっ! こんなに積もってたんだ!」
子供のように、咲がはしゃぐ。駆け出しそうになる。腕を掴まれている満が転びそうになる。
咲が謝る。

「ほらっ、満!」
咲は手を離すと足元の雪を掬い上げぱっと満にかけた。
「わっ! 冷たい! ……もう」
満も同じように雪を掬い上げると咲に投げる。雪だまは過たず咲の顔に正面から
当たった。あわっというような変な叫び声を咲が上げる。

「えへへ……寒いけど、気持ちいいね、雪」
顔についた雪を拭って咲が笑う。満はその笑顔を見ていると
心の中に風が通っていくような気持ちになった。

「今夜はこれで終わりかなあ。もっと降ってくれたらうれしいのに」
「そうなったら、どうするの?」
「去年は一杯雪が降ったから、みのりと一緒に大きな雪だるま作ったんだよ。
 毎年作ってるんだけど、みのりも大きくなってきてるから、雪だるまも
 どんどん大きくなってるんだ。去年は仁美と優子と雪合戦もしたし……」
「雪、好きなの?」
咲と満は話しながら家の周りを歩いていた。

「うん、大好き! 色々遊べて楽しいもん」
満は白い息を吐き出した。
「すぐに消えちゃうのに」
「え?」
「この雪もきっと、朝になれば消えてしまうでしょう?
 もっと深く積もったとしても、いずれは」
「うーん……そうだけどさ、」
咲は頭をかいた。
「雪があると、遊んだりして友達やみのりと楽しく過ごせるから、だから好き。
 もっと沢山雪が降ったら、満と薫も分かるよ」
「分かるかしら」
「分かるよ!」
咲は断言した。満は咲に気づかれないようにそっと微笑んだ。

「そういえば、さっきの人……舞のお兄さん」
「あ、和也さん!」
「あの人のことで落ち込んでたの?」
「いいいいや、そういうわけじゃないんだよ!?」
咲はわざとらしいほど手を振って否定する。

「ただ、前に誕生日プレゼント貰ったから今日お返ししたいなって思ってて……」
「ふうん。……もう悩み事はなくなったのよね?」
「うん、ケーキも食べてもらえたし……」
「咲はもう大丈夫ね」
咲は満の言葉に含まれている意味には気づかなかった。
気づかないまま、自分のしたい話をした。

「ねえ満、覚えてる? 夏、舞の家で星を見たときのこと」
「ああ、あの時……」
あの時初めて、咲と舞が私たちのために戦ってるって知ったんだった。
そう思い返していると、

「あの時、みんなのことを星に例えていったじゃない?
 満は神秘的だから月」
「そういえばそうだったわね」
「あの時、和也さんが私のこと太陽って言ってくれたんだよね」
「そうだ……っけ」
「私凄く嬉しかったんだ。和也さんに言ってもらったっていうのもあるんだけど、
 なんだか満と近いような気がして」
「私と?」
「うん、私が太陽で、満が月!
 大空の樹の下で会った時から思ってたけど、なんか運命みたいって思ったんだ」
「月……」
満は空を見上げた。
雪は止んだが、まだ雲が垂れ込めている。
「今日は月見えないね」
「月は、太陽の光を反射して光ってるんだそうね」
「うん、そうだね」
「太陽がなければ月は輝けない……でも、月がなくても太陽は輝き続ける」
「満?」
咲はなんだか話が変な方に進んでいっているように思った。

「たとえ月がいなくても、太陽がいれば問題はないのよね」
「……それは違うと思うよ」
「どこが」
咲は考え、考え満に言った。

「太陽は地球を全部照らせるわけじゃないもん。
 月がなかったら、夜の部分に入ったとき、みんな闇夜で迷っちゃうよ」
「そういう側面もあるかもしれないけどね」

「寒くなってきたね、満」
咲は満の手を握る。咲の手は満よりもずっと暖かかった。
二人はしばらく無言だった。もうすぐ家の周りを一周する。

「ねえ満……」
もうすぐ玄関に着く、というところで咲は立ち止まった。
「私も、舞もね、泉の郷を元に戻してフラッピとチョッピを喜ばせたくて
 プリキュアになったんだけど」
「うん」
「それも大事なんだけど、今は、満と薫とずっと一緒にいたいって思ってるんだ」
「咲」
「この前言ってくれたじゃない。私たちの力、信じてくれるって。
 私たち、精一杯頑張るよ。そして、絶対満と薫と一緒に過ごせるようにするんだ。
 だから……」

咲は満の耳に口を近づけて囁いた。

「さっきみたいに寂しくなるようなこと、もう言ったらだめだよ?」
「う、うん……」
満はなぜだかどぎまぎとした。咲の口が満の頬に軽く触れたような気がした。

「舞と薫、私たちのこと捜してるかな〜」
咲が玄関の戸を開ける。二人は柔らかな光に包まれた。


-完-

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