夕凪町名物、ひょうたん岩。満と薫はかつてプリキュアと敵対していた頃から
この場所がお気に入りだった。

それは今でも変わらない。

「満」
「あら」
日が沈もうとしている頃、ひょうたん岩の上に座って夕陽を眺めていた満のそばに
薫がやって来た。薫は岩の上にとんと着地する。
辺りはだいぶ薄暗くなってきていたので人に気づかれる心配はあまりなかった。

「ここだと思った」
薫はそう言って満と背中合わせになるように座る。
満はうんと伸びをして、
「気持ちいいものね、ここ」
と潮風に身を任せる。

ぴちゃり、と岩の下で魚の跳ねる音がした。

「今日はこの岩の辺りに魚が集まってきてるみたい。さっきから何度も音がしているの」
「へえ」
薫は少し身を乗り出して岩に打ち付ける波を見た。海面は暗く沈み込んでいて、
ここからだと海の中までは見えそうにない。

「みのりちゃんは? ちゃんと勉強教えてあげたの」
薫は今日、みのりに勉強を教える約束をしていたのである。
二人で図書館に出かけて行ったので、満はその間咲とパンを作ったり
ここに来ていたりしたというわけだ。


「ええ。もっとも、教えることなんて何もなかったけど」
「――え?」
満は怪訝そうな表情で薫を見た。
「何もなかったわ」
と薫は繰り返す。

「そもそも、何の『勉強』だったの?」
「読書感想文よ」
「え?」
満はきょとんとした表情を浮かべた。厄介な作文であることは確かだが、
誰かに教えてもらってどうにかなるような種類の「勉強」だろうか。読書感想文は。

「そんなの、薫に教えられるの?」
「まさか」
薫はあっさり否定した。
「じゃあ、何してたの?」
「どの本がいいか一緒に選んでたのよ」
「ああ……」
感想の部分を書くのは手伝えなくても、それなら確かに相談に
乗れるのかもしれない。満は半分くらい納得した。

「でも薫、みのりちゃんくらいの年の子がどんな本読むかなんて知らないでしょう?」
「ええ。あらすじを読んで、どれが面白そうか一緒に考えたの」
「ふうん……」
太陽はほとんどその姿を海に沈めようとしていた。

「それで、何て本にしたの?」
満も、子供がどんな本を読んでいるのかはほとんど知らない。
薫が何の本を選んだのかは少し興味があった。
「『青い鳥』って本よ」
「どんな話?」
「あらすじを読んだだけだけど――、男の子と女の子の兄妹がいて、
 幸福の青い鳥というのを探そうと旅するお話よ。なんでも、青い鳥は
 家にいたらしいわ」
「……ええ?」
満はそのあらすじを聞いて呆れたような声をあげた。

「だったら最初から家にいれば良かったじゃない」
「そうね……、でも、その過程が面白いんじゃないかしらそのお話は。
 みのりちゃんもそう言っていたし。それに」
「それに?」
満は聞き返した。

「私たちと似ている感じもして」
「どこが?」
「太陽の泉をずっと探していたけれど。結局、太陽の泉は」
薫の言葉に促されるようにして満は岩の下の海を見た。魚が跳ねたらしく水しぶきが
また上がった。

「太陽の泉は、ずっと私たちの目の前にあったのよね」
満はそう呟く。先ほど薫から本のあらすじを聞いた時は何て変な話だろうと
思ったのだが、そんなものなのかもしれないと満は思い直した。

頭上にあった月がすっかり存在感を増し、涼しい光をひょうたん岩に
投げかけ始めている。

二人はどちらからともなく帰ろうと言い、二人が今住んでいる家へと帰っていった。

-完-

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