年の瀬である。

満と薫が二人で暮らしている家では薫がばたばたと掃除に動き回り、
満はというとクリスマスの後いったん泉の郷に戻っていたムープとフープが
またこちらに尋ねてきたので二人をテーブルの上に置いてはためつすがめつしていた。

「満」
ガラスを拭いていた薫がそんな満を見咎める。
「なーに? 私の分の掃除ならやったわよ、昨日」
勝ち誇ったように満は答える。昨日は薫が描きかけの絵を仕上げたいとそちらに
取り掛かっていて、満が掃除していたのである。

「時間あるんだったら、お正月に必要なものを少し買ってきてくれない?」
「今年はどうするの?」
二人の家では、お正月と言っても大々的に飾り付けをすることはない。
店で少しそれらしいものを買ってきて飾り付ける、その程度だ。
おせちとかお雑煮とか言ったものは咲や舞の家でごちそうになることが多い。

「鏡餅くらいは置いた方がいいんじゃない?」
「んー」
満はテーブルの上のムープの上にフープを重ね、さらにその上にみかんを置いてみた。
きょとんとした表情のムープとフープを見てくすりと笑いながら、
「ムープとフープで、大体鏡餅みたいに見えるけど」
そう告げると、薫がちらりと満とテーブルの上を見る。
重なり合ったムープとフープはいかにも可愛らしかったが、薫はそのことを表情には出さず、

「くだらないこと言ってないで買ってきて」
とだけ答える。
「はーい」
と満がしぶしぶ答えて立ち上がると、ムープとフープがみかんを落としてテーブルの上から
ぴょんと飛びあがった。

「ムープも行くムプ!」
「フープもププ!」
「そうね、一緒に行きましょ」
ということで、三人で買い物に行くことになったのだ。


三人で買い物、とはいってもムープとフープは基本的に満の持っているバッグの中に
身を潜めている。
辺りに人がいなくなれば外に出てきてもいいが、人通りの多い商店街では
中々難しい。
それでもムープとフープは、バッグの中から少しだけ顔を出して
外の様子をうかがっていた。

「いつもと全然違うププ」
「美味しそうな匂いもするムプ!」
「そうね、本当に」
満もひそひそとバッグの中の二人に囁く。商店街はお正月支度一色といった様子で、
色々な店に飾られている紅白の幕が明るい。
美味しそうな匂い、はどこかからかみりんの匂いが漂ってきているのだった。
実演販売か何かしているのかもしれない。

薫に言われた通りに鏡餅と、それから二、三、お正月めいた食材を買うと
満は踵を返して商店街から離れた。
商店街は熱気に満ちているが、離れていくとしだいに十二月の寒さが身に染みてくる。
満はきゅっとマフラーをきつく締めた。

「満、あっちにいきたいムプ!」
人気のなくなった辺りでムープがバッグからぴょんと飛び出してくる。
「あっちでどっちププ?」
後から出てきたフープはきょとんとした表情だ。
「この前見た、お人形があったおうちムプ!」
ムープが答えると、フープはぱっと顔を明るくして「行きたいププ!」
と言った。

「どこ? その家?」
満は二人の言っていることが分からなくてきょとんとした表情を浮かべた。
こっちムプ、こっちププ、と教えてくれる二人に満はついていった。
何でも、この前緑の郷に来た時に見つけた家らしい。

だが、

「あれ? ここだったムプ……」
「お人形さんなくなってるププ!」
二人が連れてきた家には何もなかった。ムープとフープの話によれば
塀の上に人形がいくつも並んでいたらしいのだが、影も形もない。

「ここにあったムプ!」
「ムープとそっくりな人形だったププ!」
満に向かって、二人は力説する。満は家の様子を見て、大体の事情を察した。
「きっとそれ、クリスマスの飾りだったのよ」
「クリスマスだけムプ?」
ムープが残念そうな顔をする。
「ええ。すごく綺麗にしてるお家だもの。そういう季節の行事に合わせて
 飾り付けをして、終わったらまたはずしてるんじゃないかしら」
「残念ププ……」
フープはいかにもがっかりとした表情を浮かべる。

「満にも見せたかったムプ」
「本当にムープにそっくりだったププ」
「来年、また飾ってくれるといいわね」
人の足音がしたのでムープとフープはまたバッグの中に戻ったが、
中で二人があれこれ言っている声はまだ満に聞こえてくる。

「すぐに片付けちゃうのがっかりムプ」
「ずっと飾ってればいいのにププ」
「いっつもずっとお祭りってわけにはいかないのよ、きっと」
満はバッグの中のムープとフープに囁きかけた。

「そうムプ?」「ププ?」
「よく分からないけど、多分ね。それに、これからすぐお正月っていう次の行事が
 来るんだし」
「ムプ〜」
まだ残念そうなムープとフープの気配を感じながら、満は師走の街を家に向かって歩いて行った。

-完-

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