「一般家庭の前に置かれたダンボール箱から1万円札が見つかるという事件が
 立て続けに起こっています。今日は××市の民家の前で同様の箱が発見されました。
 警察は発見したらすぐに知らせてほしいと発表しています」
夜のニュース。女性アナウンサーは原稿を読み終えると隣にいる初老の解説員に話を振った。

「山村太郎さん、2月10日から始まったこの事件、11日12日、今日と毎日続いて
 これで4件目になるわけですがこの事件。どうお考えになりますか」
「うーん、事件なのかどうかも良く分からないんですがねえ。
 1箱、2〜3万円でしょう。4件目だから同一人物が置いた物だとしても12万円。
 愉快犯的に世の中を騒がせようとしているとしてもスケールが小さいんですよねえ」
「2〜3万円なので発見した人が自分のものにしてしまっている事例も多々あるのではないかと
 いう意見もありますが」
女性アナウンサーが笑うと解説員は渋面を作った。
「もしかすると世の中の正直さを量ろうなんてことを考えてるのかもしれませんねえ」


「へ〜、ふ〜ん」
ドロドロンはニュース番組を見ながら感心したように呟いている。
満はそんなドロドロンの後ろを通って「おやすみ」と一言言って部屋に戻る。

満と薫は現在、緑の郷に復活したダークフォールの面々と一緒に一つ屋根の下で
暮らしている。
個性の強いダークフォールのメンバーのこと、一人一つずつの部屋を持って
気ままにしているが満と薫だけは一緒の部屋だ。

「薫? 何読んでるの?」
薫は自分のベッドに寝転がって文庫本を読みふけっていた。

「『海賊ハリケーン殺人事件』よ」
「なにそれ、ファンタジー? この前は別の本を読んでなかった?」
「この前のは今日、ミズ・シタターレに貸したわ。
 これはミステリ。海賊が殺人事件の謎を解くの」
薫は本から目を離さずに答える。
「ふ〜ん。電気消していい?」
「やめて」
「私もう寝たいんだけど」
「布団かぶって寝て。それか、他の部屋行くか」
「薫?」
満はうつ伏せの体勢になっている薫の上からのしかかった。

「ずいぶん自分勝手なんじゃない? この前の本読んでるときもそうだったけど」
「後ちょっとなのよ」
薫は文庫本を上げて満に見せる。薫が開いているページは確かに、
最後から10ページ目くらいだ。
「今、最後の詰めをしているところだから」
「ふうん?」
目もくれない薫の背後で満はにやっと笑う。

「じゃあ、明日代わりに私の言うこと聞いてくれる?」
薫は手を後ろに伸ばしてぽんと満の頭をはたく。
「分かったから、静かにしてくれない?」
はいはい――と満は薫のベッドから離れると、自分のベッドに戻り布団を被って寝ることにした。



「うーん……」
翌朝。薫はまだ半ば眠った頭を振って起きると、満を起こさないように足音を忍ばせて
そっと部屋を出た。まだ朝早い。誰もおきているような気配はしない。

「……え?」
リビングに続くドアを開けようとして薫は首を捻った。
鍵がかかっている。
――誰がこんなことを……
この家は全てのドアに鍵がかかるようになっているので誰かがかけたとしても
不思議はないのだが。鍵は二階の物入れにしまうことになっているので取ってくると、
やっと入ることができた。

「え?」
また薫は声を出してしまった。リビングの真ん中に巨大な箱が置いてある。
――なに、これ?
ぐるりと一回りしてみる。
薫よりも背の高い、恐らく2メートルくらいあるダンボールの箱だ。
薫一人がすっぽり入れるほどの大きさである。ふた部分をガムテープでとめてあるが、
あまり丁寧なとめ方ではない。

普段食事を取るテーブルとテレビとの間においてある箱はいかにも邪魔で、存在感だけを
無闇に主張していた。

ふと薫はあることを思いつき部屋の窓を調べる。やはり全てに内側から鍵がかかっている。
――密室……
昨日読んだ本の言葉が薫の脳裏に浮かんだ。だが、
――違うわね。窓を全部閉めてこの箱を置いて、部屋を出て鍵をかけただけよ。

ついつい本に引きずられそうになる自分を戒め、それにしてもこれは何だろうと
改めて見直してみる。

「おはよー、あれ? それどうしたの?」
ドロドロンが部屋に入ってきた。
「起きたらあったの。これ、昨日はなかったのかしら」
「んー?」
ドロドロンはぽりぽりと頬をかいた。

「昨日の夜はなかったよ。僕、みんなが寝た後寝たから」
「その時この部屋に鍵かけた?」
「そんな面倒くさいことするわけないだろ」
――そう、よね……
そうすると犯人は寝た振りをして皆が寝静まったのを見計らい、箱を置いて
わざわざ鍵をかけて出て行ったことになる。

――なんでそんなことを……

「で、これ何?」
ドロドロンがガムテープを剥がそうとしたので「待って」と薫はとめた。

「何だよ」
「何が入ってるか分からないでしょ」
「一万円札かもしれないよ」
「こんなに大きな?」
ドロドロンはちょっと考えた後、
「なんだか分からないから開けてみないとしょうがないだろ」
「でも……」
と躊躇う薫にドロドロンは「何、怖がってるんだよ」とからかう。
「ボンジョルノー、セニョール、セニョリータ!」
「朝からうるさいんだよ」
モエルンバとカレハーンがやってくる。
「ん、どうしたんだその箱?」
「薫へプレゼントかい、セニョール?」
「違うよ、朝起きたらあったんだって。開けようと思って」
「おう、早く開けろ」
カレハーンとモエルンバがドロドロンをそそのかすので薫は一歩引いた。
ドロドロンが一気にガムテープを剥がし箱を開ける。中から出てきたのは……、

「お菓子?」
薫も名前の聞いたことのある菓子店の名前が入った箱がいくつも入っている。

「わー、僕たちへのプレゼントかなあ」
「……それはないだろ……、何かの間違いじゃないのか」
「いいじゃないかカレッチ。貰ったって。ここにあったんだろ? なら、
 俺たちのものだよ」
――それでいいのかしら……
薫はとりあえず箱からは離れていた。どの道、お菓子の山を見て盛り上がっている
モエルンバやドロドロンを止めることは薫にはできない。
――それにしても何でこんなことに……

「こら貴様ら、何をしている!」
突然の怒鳴り声に薫は思わず耳をふさぐ。
起きたばかりのキントレスキーが憤然として部屋の中に入ってきた。

「何って……」
「ここにあったってことは俺達へのプレゼントだろ、チャチャ!」
「違う!」
断言するキントレスキーに、薫はえっと思った。

――箱を置いたのはキントレスキー……?

「キントレスキー、これは何なんだ」
真面目に訊くカレハーンにキントレスキーは、
「私からミズ・シタターレに渡すチョコレートに決まっておろう!
 日向咲と美翔舞が言っていた、逆チョコというやつだ!   ミズ・シタターレが朝一番に起きると思っていたのに!」
キントレスキーの怒鳴り声だけが部屋に響き渡る。

「……どうでもいいわ」
薫は一人呟くとそのまま部屋を出て行った。ミズ・シタターレの部屋の前も通ったが
彼女はまだ起きてくる気配がない。昨夜本を読んで夜更かししすぎたのかもしれない。
ドロドロンやモエルンバはキントレスキーをからかうことの方に熱中し始めたらしい。

「薫……? 何、今の声?」
部屋に戻ると今の声で目を覚ましたらしい満がベッドの中から身を起こした。
薫は満のベッドに座る。
「なんでもないわ。キントレスキーがちょっと騒いだだけよ」
「チョコがどうとか聞こえたけど」
「ええ、だからキントレスキーが」
「ふうん?」
満は起きたままのぼさぼさになってしまっている頭に手を当て軽く髪の毛を押さえると、

「ねえ薫? チョコ頂戴」
「え?」
「昨日、私の言うこと聞いてくれるって約束したでしょ」
「あ、ああ……」
した。確かにしたが。満も、さっき見たあのくらい大量のチョコが必要なのだろうか。

「PANPAKAパンのチョコクリームパンね」
「……ええ、分かったわ」
PANPAKAパンのチョコクリームパンは今日は全部満のお腹に入るのだろうか。
そんなことを考えている薫の首に満の腕が絡んできてどさりと薫は満のベッドの上に倒れこんだ。

-完-

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