プリキュアの二人は、意外と強い。観察するたびそう思う。
今日もドロドロンがプリキュアを襲った――そして負けた。ドロドロンが負けること自体は
別に意外でもなんでもない。いつものこと。期待もしていない。

ただ、今日いつもと違ったのは、私たちがプリキュアを倒すためのお膳立てをしたことだ。
彼女達の「大切なもの」を、奪った。二人の心は簡単にばらばらになった。
今ならドロドロンでも倒せるかもしれない、私たちはそう思っていた。
だが、二人はいつの間にか思いを一つにしていた。ドロドロンはいつもの通り敗退して、終わり。
プリキュアの二人は花畑に行ったらしい。どうでもいいけれど。

「ちょっと、空の泉を見てくるわ」
「何かあったの、薫」
「何もないけれど。少し気になるだけ。泉の様子が。泉の郷の奴らが入ってきたりしないように」
「……そう」
「満はどうする?」
「ここにいるわ」
ひょうたん岩の上から薫の姿が掻き消えた。海の上を越えてきた風が私に吹きつける。

空間が歪む気配がした。薫だと思って見てみると、全く違っていた。

「おやおや、満殿。お一人でしたか。薫殿はどうされているのです?」
ゴーヤーン――嫌味を言うことと、アクダイカーン様に取り入ることにかけては才能を持っている
ダークフォールの一員。
「薫は空の泉に戻ったわ」
「喧嘩でもしたのでございますか?」
「そんなわけないでしょ。私たちが」
「どうでございますかなあ――」
ゴーヤーンは私を見つめ、嘆息した。
「何か言いたいことでもあるのかしら?」
「何しろ、あなた方は気まぐれだ。今、仲が良くても明日には仲たがいしていないとも
 限りますまい」
「……そんなことはないわ。それに、薫は今ちょっと戻っただけよ」
「しかし、空の泉はお二人の居ない間私がきっちり管理しておりますが」
――だから嫌なんじゃないの、
声に出さずに私は思った。
ゴーヤーンが管理しているから、空の泉が荒らされているのではないかとでも
薫は思ったのかもしれない。
彼の別邸みたいにされたら堪らない。
風も光もない泉ではあっても、あそこは私たちがアクダイカーン様から預かった場所だ。

「お二人とも、気まぐれでございますからなあ――空の泉がそんなに気になるのなら、
 大人しく泉にいらっしゃれば良かったものを」
私はゴーヤーンを見た。いつもと同じ、へらへらとした笑いを浮かべている。

「私たちは誰の指図も受けないわ」
「しかしアクダイカーン様のご命令はお聞きになる」
「私たちはアクダイカーン様の忠実なしもべよ」
「それでは私はどうなのです」
「あなたはアクダイカーン様の部下であってもアクダイカーン様ではない。
 あなたの命令を聞く気はないわ」
はっきり言ってしまった。すっきりした。

だがゴーヤーンはまだ揉み手をしながらにやにやとしている。
「何よ」
「それでは、薫殿はどうなのです?」
「どう、って?」
「アクダイカーン様はあなた方の生みの親にしてダークフォールの主。
 私たちはアクダイカーン様の部下。それは良く分かりました。
 では、薫殿は、あなたにとって何なのです?」
「何、って……」
答えに詰まった。私にとって薫は……何なのだろう?
薫のことをなんと言う言葉で呼べばいいのか、私はそんな言葉を持っていないことに気づいた。

「あなたは薫殿の指図ならお受けになる」
「そんなことは」
「いいえ、お受けになる。それでは薫殿はあなたにとって何なのです」
へらへらとした笑いが私に向けられる。
突然、この人は暇潰しに来ただけだという直感が私に生まれた。

「何でもないわ」
「ほほう」
「ところで、今日は何か用事なの?」
「ドロドロン殿の首尾はどうかと思いまして……」
「まだ、緑の郷がここにある。それだけで分かるでしょ」
「そうですな。満殿は相変わらず頭がよろしいですな」
「用がないなら、帰って。ドロドロンの話を聞きたいなら、本人に直接聞いて」
「それでは私はここでお暇しましょう」
言葉とともに、ゴーヤーンの姿が消えた。本当に暇潰しだったらしい。

――遅い……
そう思い始めていた頃、ようやく空間を歪めて薫の姿が現れる。
「はい、これ」
抱えていた紙袋を私に手渡した。キュアブルームの家でパンを包むのに使っているものだ。
「どうしたの?」
「空の泉に行った後、キュアブルームの様子を探りに行ったのよ。
 そしたら、売れ残ったからもし良かったらって渡されたの」
「ふうん……様子を探りに、ね」
「ええ」
私は紙袋を開けた。パンが二つ現れる。焼き立てだ。売れ残りなんかではない。
「空の泉はどうだった?」
「何も変化はなかったわ。――何も」
「なら、いいけど」
私はメロンパンを取り、クリームパンを薫に渡した。薫は黙って受け取る。

「ねえ、薫……」
「何?」
背後に薫の気配を感じる。薫もきっとそうだろう。
「薫って、何?」
「え?」
「さっきゴーヤーンに言われたのよ。薫は私にとって何なのかって。
 私は答えられなかった」
「そう」
「……」
薫の発した短い言葉は、それ以上私の話を聞くのを拒絶していた。
私は黙ってメロンパンを頬張る。
どういう理由で薫に渡したのかは分からないが、――おいしかった。
パンを入れていた紙袋を滅びの力で消した頃、不意に薫の左手が私の右手を掴んだ。
「薫?」
「満……さっきの話だけど」
「さっきの……って、いつの?」
「さっきのよ。私は満にとってなんなのかって話」
「ああ、あれ」
「ずっと――考えていたんだけど」
「ずっと!?」
「ええ、ずっと」
私は半ば呆れた。残り半分、嬉しかった。

「私は、満と産み出された時から一緒に居る存在。今までも、これからもずっと
 二人きりで居る存在。――これでは、駄目なのかしら?」
「……」
「駄目かしら」
「……そうね、私と薫は――ずっと二人きり」
私は薫の手を握り返した。昼間プリキュアがしていたみたいに、私たちは手を繋いでいた。

もう、陽も落ちる。辺りには波の音だけが響いている。私たちの身体が闇に紛れ始めた。

-完-

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