「くっ……」
体が動かない。アクダイカーンがこんなにも強かったなんて……。
「薫……、薫……」
わたしは辛うじて動く右腕を地面に伸ばして薫の手を求めた。
左腕と左足はアクダイカーンの攻撃で崩れてきたらしい岩に押し潰されたまま、
地面にうつ伏せに叩きつけられた格好で。
わたしたちプリキュアは二人が揃っていないと力が十分に発揮できない。
だが薫の声は聞こえなかった。
さっきの攻撃を受けたとき、薫もわたしと同じくらいの衝撃を受けたはず……、
どこか遠くに飛ばされて……?

「もう動くこともできないようだな」
頭上で低い声がした。
見上げると、禍々しく憎々しい、巨大な黒い影がわたしの傍に来ている。
「……ぐっ」
喉の奥で低い音が鳴る。言ってやりたい。ありとあらゆる悪口雑言をぶつけて
やりたい。
自信たっぷりな今のこいつをせめて言葉ででも打ち砕いてやりたい。
だが大きな声を出すだけの力も今のわたしには残されていなかった。

「とどめをさしておいてやろう」
アクダイカーンにエネルギーの塊のようなものが集まっていく。
さっきの攻撃よりもずっと大きい……きっと今のわたしでは受け止めきれない
だけの……
私は目を閉じて下を向いた。

「満ーっ!」「薫!?」
瞼の外の世界が一瞬真っ白になった気配と薫の声。周りに次々と粉々になった
岩や石が落ちてくる音。
わたしは声をあげて反射的に目を開けた。
最初に視界に飛び込んできたものは私のすぐ近くに血まみれになって
目を閉じて横たわる――薫。

「薫、ちょっと薫!?」
わたしを抑えていた岩は今の攻撃で弾け飛んでしまっていた。
まともに動かない左半身を引きずって薫の傍に近寄る。

「ほう、これはこれは……」
また頭上であの声がする。私の手が薫に触れても薫はぴくりとも動こうとしなかった。
「どういうことよ!あんた薫に何したのよ!」
「お前を先に片付けようと思っていたのに」
「薫!お願い、返事して!」
体を揺さぶってみる。耳のすぐ近くで大声を上げてみる。

「お前をかばってまともに攻撃を食らうとは。
 お前を助けたところで結果は同じだろうに」
「薫!薫!」
私は薫に呼びかけ続けた。

「無駄だ、もうじき死ぬ」
「何を……」
馬鹿なこと言ってんのよ。薫が死んだりするはずないでしょ。わたしを残して。
「……、今なら助けることもできるが」
「え?」
わたしは見上げた。闇そのものといった巨大な姿を。
「助けてやってもいい。お前たちが望むなら」
「そんな……」
そんなこと、本気で。
「お前たちがアクダイカーンを受け入れるというのなら」
「そんなこと……」
できない。わたしたちはプリキュアなんだから。

「お前が望まないなら仕方がない。死を受け入れるがいい」
わたしは薫を見た。薫は目を開こうとも動こうともしないのに、
温かい血だけが流れ出してくる。
……もうじき、これさえも止まってしまう……?

「待って」
わたしは薫の方を見たまま、アクダイカーンを振り返らずに呼びかけた。
「ほう」
「薫を……助けて」
「ほう」
「薫を助けて!このままじゃ薫が死んじゃう!」
「よく言った」
その声にはぞっとするほど冷酷な響きが含まれていた。
寒気を感じて見上げると、アクダイカーンから黒い触手のようなものが
わたしと薫に向かって伸びてきていた。

「……あ……っ……」
それが額に触れた瞬間、頭の中を何かの衝撃が貫きわたしは意識を失った。

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目が覚めたとき、わたしは闇の中にいた。
ここは……?わたしは……?
わたしは……満。アクダイカーン様のしもべ。
そこまではすぐに思い出すことができたが、どうして今ここに居るのか……
頭の中がぼんやりとして全く思い出せない。

「う……」
わたしのすぐ横で誰かの声がした。わたし一人だけだと思っていたので驚いた。
目を凝らして見ると、わたしと同じような服を着た女の子であるらしかった。
起きてきた彼女は後頭部を抑え、あたりを見回し――どこか、
途方にくれているように見えた。
「あなたは、誰?」
問いかけてみる。彼女は少し驚いた顔をした。
「わたしは……わたしは、薫。アクダイカーン様のしもべ……」
「そう。わたしもよ」
「へえ」
あまり感情の読めない声で彼女は答えた。

「……」「……」
わたしが黙ると沈黙が続くだけだ。
わたしたちはしばらくの間寄り添うように座っていた。

「あなたは、知ってる?わたしたちがどうしてここに居るのか」
「……、必要ない」
短い答えだった。しかしそれで十分だった。確かに、必要ない。
アクダイカーン様の僕であるということ。
それが一番大事なことで、それさえ知っていれば他のことは
どうでもいいはずだ。

不意に彼女が立ち上がった。わたしから離れて歩き始める。
「どこへ行くの?」
「アクダイカーン様のところへ」
「待って。わたしも一緒に」
振り返った彼女の目にわたしは一瞬たじろいだ。「必要ない」と言われそうな気がした。
「ああ。……そうしよう」
わたしは立ち止まった薫の横に並び、そのまま二人でアクダイカーン様のもとへと向かった。
わたしたちが忠誠を尽くすべき主人のところへ。

-完-

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