プリキュアがゴーヤーンを倒し、泉の郷が元の姿に戻ってからほぼ半年。
咲がキャプテンを務めるソフト部の地区大会も無事に夕凪中の優勝に終わり、
満と薫は二人で過ごす家に戻ってきていた。

「咲、本当に嬉しそうだったわね」
「そうね。四月からずっと目指していたから」
口々にそう言いながら荷物を置くと、薫は冷蔵庫からお茶を出して来てコップに注ぐ。
それから自分の方をじっと見ている満に気づくと、
「欲しいの?」
と尋ねる。
ううん、と満は首を振ったので薫は少し意外に思った。

「薫、何か気づかない?」
そう言って満は視線を自分たちが入ってきた玄関の方に向ける。
リビングと玄関を隔てているドアは少し開いていて、息を殺してそちらを見ると
何か生き物の気配がするような気がした。

――何かいる。悪いものではなさそうだけど……
そう薫が感じていると、満がくすくすと笑いを漏らす。

「早く入ってきたら?」
満がそうドアの向こうに呼びかけると、ぴょん、と小さな影が部屋の中に入ってきた。

「チョッピ」
薫はその姿を見て驚きの声を漏らす。
チョッピが二人の家に来るのは珍しい。もしかすると初めてかもしれない。

「へえ、チョッピだったの。精霊の誰かだとは思ってたんだけど」
満が床の上のチョッピに手を伸ばすとチョッピがぴょんと跳んで満の腕に抱かれる。
満はそんなチョッピをそっとテーブルの上に置いて、薫と二人して
テーブルの前の椅子に座った。

フラッピやチョッピたちは、今日の咲の試合を応援しに精霊の郷から
こちらに来ていた。咲が勝ったのを見届けて大喜びしてからまた精霊の郷に
帰って行ったはずである。
「チョッピ、さっきフラッピたちと一緒に精霊の郷に帰ったんじゃなかったの?」
薫がそう尋ねると、チョッピは「チョピ」と一言つぶやいてから、

「フラッピたちには先に帰ってもらったチョピ。
 チョッピはどうしても二人に話したいことがあったチョピ」
という。二人はその言葉に自然に真面目な顔になった。

チョッピのパートナーは舞である。
プリキュアに変身することがなくなった今でも、そのことは変わらない。
だからチョッピが舞ではなく二人に何か相談に来たのなら
それはとても特殊な事態だ。

「実は――、」
チョッピの言葉に二人ともじっと耳を傾ける。

「もうすぐ舞の誕生日チョピ、だからプレゼントを贈りたいチョピ」
え? と薫の口から言葉が漏れた。満はぷっと吹き出す。
「チョピ?」
チョッピは二人の反応に不思議そうな顔で、
「おかしいチョピ?」
と尋ねる。

「いいえ、」と薫は手を振る。
「ちょっと意外だったものだから。もっと危険なことでも迫ってるのかと思ったのよ」
「危険チョピ?」
チョッピはますます不思議そうな顔で首をひねる。

「それで、チョッピは舞に何をプレゼントしたいと思ってるの?」
話を進めようと満が尋ねると、
「泉の郷にきれいなお花がいっぱい咲いてるチョピ、だから花束にして渡したいチョピ」
チョッピはにこにこして答える。

「いいじゃない。でも、どうしてそれを私たちに言いに来たの?」
「チョピ」
チョッピは少し恥ずかしそうな表情を浮かべると、
「泉の郷には花束を作るようなリボンみたいな材料がないチョピ。
 だから、二人に準備しておいてほしいチョピ」
と答える。へえ、と満は思った。薫の方は「ええ、もちろん」と即答している。

「良かったチョピ。ありがとうチョピ」
「なんで、咲じゃなくて私たちに言いに来たの?」
満は不思議に思っていたことを尋ねた。ムープやフープはともかくとして、
チョッピは咲の方がいろいろなことを頼みやすいような気がする。

「咲は、舞にプレゼントのこと言っちゃいそうチョピ。舞には内緒にしててほしいチョピ!」
なるほどね、と満はうなずく。と同時に、
――薫もうっかり言っちゃいそうだけどね……
ともちらりと思うが、それは自分がフォローしようと考える。

大体どんな色の花を選んで花束にするか薫に聞かれるままに答えてから、
チョッピは泉の郷へと帰って行った。


咲の地区大会から舞の誕生日まではそれほど時間はない。
翌朝、薫は「今日、学校の帰りにチョッピに頼まれた花束をつくる材料を買いに行くわ」
と満に告げた。

「あ、もう買いに行くの?」
「早い方がいいと思うの」
「どこのお店に行くかは決めてるの?」
パンをかじりながら満が尋ねると、

「ええ、舞とよくいく画材屋さんに確かそういうラッピングの材料もあったから」
「ふうん」
夕凪町のことには大抵満の方が詳しいのだが、こういうことになると薫の方が詳しい。
「いいのありそう?」
「たぶん。――どうしてもなかったら、もう一つ別のお店もあるし」
「舞に相談するのはだめよ?」
満が念を押すと、

「分かってるわ」
当然のように薫は答えた。


しかし、分かっていないのである。あるいは、分かっていても行動が伴わないのである。
満と薫はこの後すぐに学校に向かい、通学路で咲と舞と合流した。
最初は咲のソフトボール大会の話をしていたが、やがて今日の放課後の話になり、

「ねえ薫さん、今日一緒にスケッチに行かない?」
と舞が薫に目を向ける。
「あ、今日は画材屋さんに行くつもりで……」
満はそれを聞いてぎょっとした。
「あ、そうなの? じゃあ私も一緒に」
「あ、あのね舞!」
満は強引に舞と薫の会話に割って入ると、

「今日は私と薫と二人で行くつもりなの」
と言って薫の腕に自分の腕をからませる。
「そ、そうなの」
舞は満の勢いに押されたように驚いて答えた。咲も目を丸くしている。

「だから、今日は」
「え、ええ。分かったわ」
舞がそう答えてくれたので満は心底ほっとして、薫を肘で小突いた。

 * * *

「全くもう。チョッピから言われたこと全然分かってないじゃない」
放課後、二人きりで画材屋さんに行く道すがら満は薫にさんざん文句を言った。
あの後も薫は何度か、舞の誕生日プレゼントのことをうっかり口にしそうになっていたのだ。
そのたびに満がごまかした。

「……ごめん」
さすがに悪いと思ったのか、薫も素直に謝る。
「舞の誕生日当日まで気をつけないとだめよ。薫と舞が二人きりになることだって多いんだし」
「分かってる」
そうこうしているうちにお店に着いた。
広い店内を薫は迷いなく進んでいく。満は日頃あまり見ることのない画材が珍しくて
あちらこちらに目を配りながらも薫について行った。

ラッピング用品のコーナーは店の奥の方にある。
花束を包むフィルムや、リボンもそこにあった。

「チョッピ、水色の花が綺麗に咲いているからそれを中心にって言ってたわね」
薫は真剣な表情でそう言いながら、何色もあるリボンを見る。
それから花束を包むフィルムや紙――レースのようなものもある――を見て、
じっくりと考える。

よくこんなに何種類もあるものだと満が内心舌を巻くほどたくさんの商品を一つ一つ
丹念に見てから、薫はいくつかの商品を手に取り、組み合わせてみては棚に戻し、
それを何度か繰り返してようやく決めたようで
「これとこれとこれでラッピングしたらいいと思うんだけどどう思う?」
と満に尋ねる。

「いいんじゃない?」
満はそう答えた。花が水色だというので、薫が選んだ赤色のリボンは逆に映えそうだ。
それにしても、と満は思う。
今日舞に何度もプレゼントのことを話してしまいそうになって困っていた薫とは
まるで別人のようにしっかりして見える。

「カードも用意しておこうかしら……チョッピ、ひらがななら書けると思う?」
「たぶん、大丈夫だと思うけど」
「じゃあ、あっちに」
薫はさっさと店の中を移動してカード類が置いてあるコーナーに行く。
満はあわてて、後を追った。

-完-

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