――薫は絶対に私が止めるっ!
満は突進してくる薫の進路を塞ぐように身を寄せた。手を大きく開くと暴れ馬のようだった
薫が一瞬動きを止める。

――ふん、これでもう動けないわよ、薫……
正面に来た満の顔を睨みつけると薫は手の中のものを素早く満から逃がす。

「咲っ!」
満の言葉に合わせるようにそれを奪取しようとした咲を舞の腕が阻んだ。
頼りない動作でそれを取ると、
突撃するようにその場にやって来た薫に手渡す。だが満がそれを黙ってみているわけがない。
渡された薫が体勢を立て直そうとしたところに飛び掛るようにして手の中のものを
叩き落すと、そのまま後ろにいるはずの咲にそれを託す。

フラッピとチョッピ、ムープとフープは息を飲むようにしてことの成り行きを
見守っていた。久しぶりに緑の郷に来たと思ったらトネリコの森で四人が何か争っている。

「喧嘩は止めるチョピ!」
チョッピが叫んでも、興奮している四人には聞こえていないようである。

高く跳んで手の中のものを本来あるべき場所に返そうとする咲を見て薫も跳んだ。
咲が手にしていたものがはたかれるようにして零れ落ちる。
下でそれをキャッチしたのは満。咲のやり直しとばかりに跳び上がり――、

「止めるムプー!」
えっと満が思ったときにはもう遅い。満の投げ上げた軌跡とムープの位置は丁度一致し、
「ムプ!?」
見事にぶつかったムープはふらふらと地面に落ちる。
満がシュートしたボールも地面で大きくバウンドした。

「ムープ、大丈夫!?」
慌てて四人が駆け寄ってくる。フラッピとチョッピ、フープも。
「あれ、フラッピたち来てたの?」
満が地面の上で目を回しているムープを抱き上げるのと同時に
咲たちは精霊がいるのに気づいた。

「来てたの、じゃないラピ!」
「久しぶりに来たら2対2で喧嘩しているから驚いたチョピ!」
「喧嘩……?」
咲も舞も薫も目を丸くした。満はムープをさすっていてあまり会話を聞いていない。
「喧嘩なんて」「してないけど……?」
舞と薫が口々に答えるが精霊達は納得していない様子で、

「だって、喧嘩してたププ。ボール取りあってたププ」
「四人とも小さな子どもじゃないんだから、ボールは仲良く使うラピ!」
真面目な顔でお説教をする――聞いていた三人はぷっと吹き出した。

「ラピ?」
「やだなあ、もう。喧嘩してたんじゃないよフラッピ。これはスポーツ。
 バスケットボールしてたんだ」

「バスケットボールチョピ?」
チョッピが不思議そうな顔をした。
「でも、それは5対5でやるスポーツチョピ」
「うーんと、だから、人数少なくても2対2ならゲームになるからそれで
 やってたんだよ」
困り顔で咲が説明を始めた。

「ほら、この木の枝が丁度輪っかみたいになってるでしょ? ここを
 ゴールにしてバスケットをしてみたら面白いかも、って思って
 やってみてたんだ」
「ラピ……喧嘩じゃないラピ?」
「喧嘩じゃないってば」
その時、満の手の中からムプムプと声がした。

「ムープ、気がついた?」
満に声をかけられてムープはちょっとむくれて、
「痛かったムプ」と答える。

「ごめんねムープ」
「でも、満たちは喧嘩してたわけじゃないムプ?」
「そうよ、一緒に遊んでただけ」「良かったムプ」
地面に転がったボールを薫が拾い上げた。

「ところで、満。さっきのシュートは入ったの?」
「入ってないわ」
「じゃあ、まだ0-0のままね」
バスケットボールを2,3度軽くドリブルすると、薫は木の枝にできた輪に向って
シュートを放った。体育の時間に習ったとおりのフォームだ。
綺麗な放物線を描いてボールが輪の中に吸い込まれていく。

「薫、かっこいいププ!」
褒められて恥ずかしくなったらしい薫は照れ隠しにボールを突いている。
「ねえねえ、薫。今だったらひょっとしてダンクシュートもできるんじゃない?」
「ダンクシュート?」
薫はできないわと否定した。実際、体育の時間に仁美や優子にもそう言われて
挑戦してみたことはあるのだ――しかし、さすがに届かなかった。

――滅びの力を使えば雑作もないことだけど……

飛んでしまえばダンクシュートなど簡単にできるに決まっている。
しかし普通の人間と同じように振舞っている限りは薫の身長とジャンプ力では
ダンクシュートは難しい。

「でも、このゴール学校のよりも低いでしょ?」
ほら、と咲が手を伸ばして高さを測るような格好をした。
「そうね、咲と比べると分かりやすいけど結構低いみたい」
「薫、やってみれば?」
舞と満に言われ、ぽんぽんと左右の手にボールを移し変えていた薫が
ボールを持ったまま真面目な顔をして止まった。

――少しドリブルして勢いをつけないと……

そう判断し二、三歩後ろに下がる。
良く見ようというのかムープが満の手から離れて飛び立った。
ドリブルとともに走り始めた薫の身体がゴールの下で跳ね上がり、
――押さえ込むようにボールをゴールの中に押し込む。

「わっ、すごい、ダンクシュートできてる!」
薫は落ち着いた顔でボールを拾い上げてから、興奮している咲に向って
ぽんとボールを投げた。
「ムープもバスケットボールやってみたいムプ!」
「フープもププ!」
すっかり喜んだムープとフープがぴょんぴょんと飛び跳ねている。
咲はムープにボールを渡してみたが、持ちきれずに落としてしまった。
落ちたボールの上に乗り両手で掴んで持ち上げようとしているが
大きすぎてどうしても持ち上がらない。
「ムープはボールの上に乗って転がしていったほうがいいラピ」
その様子を見ていたフラッピがちょっと意地悪を言うと、ムープは
ますます意地を張った。

「絶対にこれを持ち上げるムプ!」
ムプムプと頑張るが、ボールは持ち上がらない。
フープもムープと一緒になってボールを持ち上げようとするが、やはり無理だ。

満がムープとフープごと、ふわりとボールを持ち上げた。

「ムプ〜」
「ププ〜」と、ボールの上でムープとフープががっかりしている。
「諦めなさい。あなたたちにはまだ無理よ」
「ねえ、でもフラッピはもてるの?」
咲に言われてフラッピは「もちろんラピ!」と胸を張る。

「フラッピは大きいから、そのボールなら持てるラピ」
「バスケットボールって結構重いんだよ」
咲が満からボールを受け取ってフラッピの前に置く。
真打登場ラピ、とばかりにフラッピはぐっとボールに手を当てると……
「ラピ?」
顔を真っ赤にして力を入れるが持ち上がらない。
ムープとフープがムプププとそれを見て笑っている。

「ほら〜、フラッピだって無理じゃない」
咲に言われてフラッピはますます顔を赤くして力を入れる。

「フラッピは絶対持ち上げられるラピー!」
ぐぐぐ、とゆっくりボールは持ち上がった。ムープとフープが目を丸くしてみている。

「ラピ!?」
途中まで上げたところでフラッピはボールの重みで後ろにひっくり返った。フラッピの
手を離れたボールがころころ……と坂道をおりて行く。

「ああ、いっちゃうラピ!」
「早く追いかけなくちゃ! トネリコの森の一番下まで落ちちゃうよ!」
「行くわよ、満、咲!」
薫と満、咲とフラッピ、それにムープとフープはボールを追いかけて坂を
駆け下っていく。
なんとなくタイミングに乗り遅れた舞とチョッピがそこに残された。
辺りが一気に静かになる。
顔を見合わせて、舞とチョッピは思わず笑ってしまった。
「チョッピ、久しぶりなのにね。こうやってみんなで集まるの。
 全然そんな感じがしないね」
「そうチョピ、ずっとこうやってみんなで遊んでるような気がするチョピ」
「フラッピたちもバスケットボールできるといいんだけど……」
「バスケットボール楽しいチョピ?」
「うん。私は苦手だけど、みんなと一緒にやってるとなんだか楽しくなるわ」
「ボールがもっと小さくなればきっとみんなでできるチョピ」
チョッピに言われ、舞は少しの間考え込んだ。

「そうね、ムープやフープたちでもできる大きさならいいんだから……」
あ、と舞は声を上げた。
「ソフトボールだったら、あれならみんなでできるんじゃないかしら」
「あの大きさならできそうチョピ」
「問題はボールが早くなりすぎて危ないことかしら……」
「チョピ……咲が剛速球投げたら危険チョピ……」
うーん、と舞は考え、
「だったらルールを変えて、パスの時は必ず一度バウンドさせるようにする、とか」
落ちていた木の枝を拾ってみて地面に絵を描いてみる。

「バスケットボールのコートってこうなってるでしょ、
 その間にボールを回すんだけど、……例えば咲がソフトボールを使って
 誰かにパスをするとこんな感じで……」
説明していたはずの言葉がいつの間にか消え、舞はバスケットボールの
コート内でソフトボールを投げる咲の絵に集中し始めた。

「はあ、はあ、……もう、結局一番下までボール落ちちゃったじゃない……」
ボールをようやく見つけて戻ってきた咲たちが元の場所に来ると、
舞は地面の上にお絵かきをしていて肩の上に乗ったチョッピがそれを
見ている。

咲とフラッピは顔を見合わせてにっこり笑った。
「前と同じだね。なんだか、フラッピたちが久しぶりに来たなんて信じられない
 みたい」
「ムープもそう思うムプ!」「フープもププ!」
「フラッピたちも全然成長してないし」
「そんなことないラピ! フラッピは逞しくなったラピ!」
胸を張るが、あまり前と違ったところは見えない。
「え〜、全然変わってないよ、前と」
「そんなこと言ったら咲だって全然成長してないラピ!」
「そんなことないわよ!」

満と薫はかすかに笑いながらバスケットボールをパスし合い、
シュートの練習をする。いつの間にかムープとフープが頭の上に
しがみついて一緒にプレイしている気分になっている。

春の昼下がり、咲たちと精霊達はのどかな時間を過ごしていた。

-完-

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