無闇に真っ直ぐな男であった。
他人の迷惑を顧みぬほど己の目標に忠実な男であった。

コロネはその男に何度も会っている。初めてPANPAKAパンにその姿を現した時から
ただならぬ気配を漂わせていた。普段のんびりと寝ているコロネが思わず毛を逆立て、
身を起こさねばならぬほどである。
客や日向家の主人は男のその気配にはまるで気づかず、男も平然とチョココロネを
買っていったのではあるが。

男は咲、舞との最初の戦いの場にコロネも連れて行った。今から思うと
あれはわざとだったのであろう。
緑の郷に来て男が初めて「できる」と認めた存在がコロネであったからこそ、
連れて行ったのであろう。

コロネは日向家の皆が危険に晒される時にはいつでもその身を投げ出す覚悟である。
たとえ相手が最強の戦士であろうとも。
しかしながら、その後男はPANPAKAパンで買い物をしていくばかりで
コロネと戦うことはなかった。

――雪か……

コロネは白いものの落ちてくる空を見上げる。
彼には今ではもう一人、守る者があった。今は彼の中で眠っている、フィーリア王女である。
咲、舞、それにこのフィーリア王女や精霊達、さらには満と薫を狙って
ダークフォールからは次々と刺客が送られてくる。
しかしその中で一番の戦士も、今日、消えたという。咲と舞から先ほど聞いた。

――あの男、どうなったことか。

男は戯れにコロネを餌付けしようとしたことがあった。
どこかで手に入れたらしいキャットフードをコロネの目の前にちらつかせたのである。
普段日向家で貰っている食事よりも高価なものであった。

コロネがふん、とそっぽを向くと男はいたく気に入った、と言うように
「敵からの施しは受けぬというのか。流石だな」
と呟く。次に男が来たときにはチョココロネをくれてやろうか、とコロネは思っていた。
しかしその、次の機会は訪れることがなかった。


男は一度消滅したのである。その時は咲と舞に正面から勝負を挑み、
満足して消えていった。コロネも男が現れることはあるまいと考えていたものだった。
しかし、男は復活した。それも悪い方に変質して復活した。

胸に妙な印をつけ、復活した男はもはや以前のような男ではなくなっていた。
力を求めること、それは変わっていない。
日々トレーニングを積む姿も同じである。
しかし、彼はきわめて手軽に新しい力を手に入れていた。
他のダークフォールの住人達が復活後、新たな力を手に入れていたように、
彼もまた咲や舞の必殺技に耐えるだけの力を得ていた。

――その力は放棄するべきではなかったのか……?
コロネは思う。
鍛えることなしに手に入れた力はこれまでの彼のトレーニングを否定するものなのではないかと。
彼が己の肉体を鍛えることで最強の戦士となることを目指すのなら、
そんな方法で力をつけてはいけなかったのではないかと。

復活してからもトレーニングは続けていたようだが、彼は本来の彼ではなくなってしまった。
咲と舞との最後の戦いでも、以前見せた、力を出し切った姿へと変貌することは
なかったそうである。
変貌しなかったのではなくできなかったのではないかとコロネは思った。

新たな力を得た代償に、これまで自分が持っていた大事な何かを失ってしまったのでは
ないだろうか。

「コロネ、何見てるムプ?」
「雪が降ってるププ!」
咲とみのりの部屋で窓の外を見ていると、ムープとフープがやってきた。
コロネの背中の上に慣れた様子で乗ってくる。

「明日になったら雪で遊べるププ!」
「初めてムプ、楽しみムプ!」
コロネは自分の上で幼い二人が会話しているのを静かに聞いていた。

「ダークフォールの敵もみんないなくなったから安心して遊べるムプ!」
「……今日の敵は強かったププ、咲が危なかったププ」
「でも大丈夫ムプ、みんなで咲を守ったムプ!」
「そうか」
コロネは呟いた。
「みんなで守ったのか、咲を」
「そうムプ!」「そうププ、舞はかっこよかったププ!」
「……」

消えたダークフォールの者達がどこへ行くのかコロネは知らない。
彼らがどうなるのかも分からない。
人間達が言う天国とか地獄とかいったものが彼らにもあるのかもしれないと
ぼんやりと思うばかりである。

――今度復活するときには……

再び彼が甦るものかどうかも分からない。しかしコロネは、彼が戻ってくることを
どこかで期待していた。

――己の力のみで戦う姿が見たいものだ。


「でも今日の敵、これからきっと付き合うと思うププ!」
「どうしてムプ?」
「消えるとき、二人とも顔を赤くして見合わせてたププ!
 恋が芽生えるとそうなるってテレビドラマで言ってたププ!」

――ほう? それはそれで面白い。

雪は静かに降り積もっていく。
キントレスキーの本来の姿、砂金のように、窓からの光を浴びてきらきらと輝いていた。

-完-

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