日向姉妹はよく喋る。ダークフォールとの戦いが終わった三学期、
咲と舞はPANPAKAパンの庭先のテーブル席で咲の妹のみのりの話を聞いていた。
「それでね、先生が二年生の最後に『将来の夢』を作文で書いてきなさいって」
「ふうん。みのりはどうするの?」
「んーっとね、どうしようかなあって思って。こういうのって難しいんだよね。
 なりたいものは沢山あるけど、あんまり夢みたいな夢って恥ずかしくって言えないから」
「どうして? なりたいものを素直に書けばいいんじゃない?」
舞がきょとんとした表情を浮かべると、
「猫になりたいって言う訳にはいかないし……」
え? と舞が聞き返すとみのりは少し恥ずかしそうに顔を赤くする。
「コロネ拾ってきたばっかりの頃、みのり猫になりたい猫になりたいって
 言ってたんだよね〜」
と咲がからかうと「もう」とみのりは頬を膨らませる。くすりと笑って舞はコロネを見た。
咲の家の飼い猫のコロネはいつものように店先で日向ぼっこをしながら眠っている。
「でも猫ほど無茶なことじゃなくても、あんまり夢みたいなことは言えないし」
「もうそんなこと言って〜」
と咲は少しあきれ顔だ。
「まだまだ小二なんだから、好きなこと言えばいいじゃない」
「え〜。でも、お姉ちゃんだって『将来は物理学者になってノーベル賞です!』なんて言える?」
う、と咲は言葉に詰まる。体育はともかくとして五教科は全般的に苦手である。
そのことはクラスメイトにはよく知られたことだから、そんなことを言おうものなら
「無理無理」とみんなから突っ込みが入るのは目に見えるようだ。
「言えない……」
「ほら」
みのりは満足げだ。「でも……」と舞が呟く。
「うちのお兄ちゃん、高二にもなって『宇宙飛行士になりたい』って夢みたいなこと
 言ってるけど」
「舞のお兄さんは違うよ!」
咲はついつい必死になった。
「そう?」
「うん、和也さんって本当に宇宙飛行士になれそうだもん!
 夢みたいじゃないよ、ねえみのり」
みのりもうんうんと頷く。みのりは咲から舞の兄の噂話をよく聞いているのである。
「そうかなあ……じゃあみのりちゃんや咲だって、どんなこと言ってもそんなに
 夢みたいだってことにはならないんじゃないかしら。これから頑張ればいいんだし」
どんなに頑張ってもノーベル賞は無理そうな気がすると咲は思ったが、
みのりは「うーん」と半分納得したような声を出した。
「お姉ちゃんや舞お姉ちゃんの将来の夢は?」
「私? えっと、ソフト部で地区大会優勝して……後は舞と満と薫と同じ高校に行って……」
「それじゃ将来の夢って言うよりここ一、二年じゃない。舞お姉ちゃんは?」
「私は……咲や満さんや薫さんとずっと一緒に過ごして……」
それも将来の夢というには何かが違うように思えて舞は恥ずかしそうに途中で口を噤んだ。
「ねえ、今日は満お姉さんと薫お姉さんは?」
二人の名前が出たからか、みのりが尋ねる。
「二人とも今日は日直だから少し遅くなるって。……そろそろ来てもいい頃だと
 思うけど」
「じゃあみのり、薫お姉さん達お迎えに行って来て将来の夢聞いてみる!」
みのりは座っていた椅子からぴょんと飛び降りて道の方に向かって走っていく。
「もう、自分の言いたいこと言ったらどっか行っちゃうんだから」
と咲は呆れ顔だが、舞はくすくすと笑っていた。
「でも。……ね、咲。満さんと薫さんと、こんな風に一緒にいられるなんて……
 本当に、夢みたいね」
「……うん。そうだね」
咲は強く頷いた。満と薫。ダークフォールからプリキュアを倒すために現れた刺客。
二人と普通の友達として暮らすことは、咲と舞にとってかなうかどうか分からない希望であり、
夢のような話だった。
二人が夢を現実にできてから、まだ日は浅い。

-完-

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