カレハーンにとって、伸びゆく力ほど嫌なものはない。
本当なら緑の郷に繁茂する木々をすべて枯らしてしまいたいくらいだ。
プリキュアと精霊たちがいる町の近くの森を歩きながら彼はそう思った。

泉の郷の精霊たちを捕らえ、太陽の泉のありかを聞きだす。
それが現在彼に与えられた使命である。
太陽の泉のありかさえ分かっていればプリキュアにしろ妖精にしろ
叩き潰してしまえばいいようなものなのだが、
その一点の情報が欠けているために彼は自分の持つ力を
制限して使わざるを得ない。実にそれは、苛々する。

――くそっ……。
今日何度目かの舌打ちをカレハーンはした。先日はプリキュアを
うまく分断したものの、結局は合流されてしまった。
だからこの辺りの地形について良く知ろうと今日は歩き回って
いるのだが、木々が多く見通しが悪い。結果的に、どの道が
どうつながっているのか良く分からない。

――全部枯らしてしまえばいい。
カレハーンは心底そう思った。だがそうはせずに歩き回る。
もう葉をたくさんつけているばかりの樹もあれば、新芽をつけた
ばかりの樹もある。そうやって歩いているうちにカレハーンの腕に
枯れたように見える――だがしっかりと新芽を付けた――枝が
引っかかった。

「ふざけるな!」
吐き捨てるようにそう言うと乱暴に腕を振り枝を払った。
枝は耐えられなくなったようにぽきりと折れ地面に落ちる。
カレハーンは自分がした小さな暴力にごくわずかな満足を覚えつつも、
その些細な結果にまた舌打ちをして歩きはじめる。落ちた枝は
地面の上に残された。

カレハーンが立ち去ってからしばらくして雨が降りはじめた。
落ちた木の枝の上にも雨は優しく降り注ぐ。やわらかい地面の上で、
枝はじっと雨を受け止めていた。

 * * *

「今日行く場所は、雨の日の方がきれいな場所なのよ」
数か月後。みのりと咲は舞と一緒にスケッチのために森の中へと向かっていた。
途中、満と薫も合流して五人でアジサイの咲き乱れる場所へと向かう。

雨は降ったり止んだりを繰り返し、天気はすっきりとしなかった。
だがその分、雨に濡れたアジサイは舞の言うとおりに
生き生きとして見えた。
アジサイを見たみのりは喜んですぐにスケッチに取り掛かる。
どの木も大輪の花を今が盛りとばかりに輝かせている。
どの花を描こうか、目移りしながらもみのりは一つの樹を選ぶと
鉛筆で何とかその姿を写し取ろうとした。
舞はみのりに少しアドバイスをしてから自分でも絵を描き始める。咲は
アジサイに魅入っている。

満と薫は少し離れた場所でそんな一同を見ていた。

誰も気づかない。
大きく育ったアジサイの木々の中に、ごく小さなアジサイの木があることに。
カレハーンの折りとった枝は地面に落ち、再び地中に根を伸ばしていた。
今年はまだ花をつけていないが、小さな葉を伸ばしたその姿は
もうただの枝ではなく小さな木である。
運が良ければ、いずれは花をつけることになるだろう。

伸びゆく力はうるさい。
カレハーンが見たら吐き捨てそうな光景が、誰にも気づかれないままに
そこでは進行していた。


-完-

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