最近、みのりには秘密があるらしい。咲はここ一週間ほどなんとなくそれに気が付いていた。

「みのりー、お風呂あいたよ」
「は〜い!」
みのりと二人で使っている部屋の扉をがちゃんと開けると、みのりが
何かを抽斗の中に隠したらしい音がしてからみのりの声がする。
「お風呂お風呂〜!」
どこかわざとらしくはしゃいで部屋を飛び出していくところも怪しい。最近はいつも
こんな感じだ。

――何、してるのかなあ……。
みのりが何を隠しているのか気にかかるが、抽斗を開けて見ようという気はしない。
咲としては、敢えて秘密を暴こうと言うつもりはないのである。みのり本人が
言ってくるのを待ちたい。
――でも、なあ。まさかとは思うけど……。
咲も、みのりに隠し続けていることはある。それは昔のようにたまたま言わなかったから
結果的に秘密になってしまったのではなく――そういうことならいくらでもある――、
意図的にみのりには内緒にしていることだ。

プリキュアのことである。フラッピと一緒に済むようになってからというもの、
咲はずっとみのりの眼を気にして、みのりの眼に精霊たちやプリキュアが
触れないようにしてきた。

――まさか、とは思うけど……。
べっどにごろりと寝転がる。みのりが何らかの事情で伝説の戦士になって
しまったかもしれない。それは咲が思いつく中で一番悪い状況のように思えた。

――でも、それだったら。
咲はそうも考える。
――私だって伝説の戦士だったんだから、何か知らせがあったっていいよね。
こう考えて自分を納得させようと思ってみるが、しかし、泉の郷の住人達には
どこかとぼけたところがあるので、仮にみのりが伝説の戦士になったとしても
その関係者からは何も連絡が来ないような気がした。

咲はふうと息をつくと、部屋の中に視線を巡らせた。舞に描いてもらったみのりと
二人の絵が目に入る。
――まだ小二なんだよね、みのり……
年が離れていることもあって、みのりに対する咲の態度はどうしても保護者的な
ものになる。みのりが伝説の戦士になっていたら、と考えると咲は心配で
仕方がなかった。


「みのりちゃんが?」
「うん。みんな何か聞いてない?」
翌日の昼、咲はいつもの三人を誘って屋上に上るとそこでお弁当を食べながら
みのりのことを相談してみることにした。舞と薫はお弁当を食べながら、満は朝
PANPAKAパンで買ってきたパンを食べながら話を聞いている。
「みのりちゃんに秘密……」
薫はじゃがいもの煮物を箸の先で掴んだまま、考えるような視線を雲に投げかけた。
「薫も聞いてない?」
「ええ、何も。特には」
「そっか……舞や満は?」
「何も」「聞いていないけど……」
二人が口々に答えるのを聞いて、そっかあ、と咲は呟いた。
「ねえ、まさかとは思うけど。またダークフォールみたいなところが世界を滅ぼそうと
 しているとかそんなことってないよね?」
「え?」
三人は咲の唐突な言葉に目を丸くした。すぐに満は薫の方へと目を向ける。
「何か感じてる、薫? 邪悪な気配とか。私は何も感じないけど」
「いいえ」
迷いもためらいもなく薫は即答した。
「そういった気配は何も感じていないわ。ただ……」
「ただ?」
咲が水を向けると、薫は淡々と答えを続けた。
「私たちは滅びの力ならごく小さなものでも気づくと思うけど、他の邪悪な力は
 もう少し大きいものでないと分からないかもしれない。だから、ごく小さな力が
 この町の近くのどこかにある可能性は否定できないけれど……」
「でも、咲。どうしてそんな心配を?」
舞がきょとんとした表情のまま尋ねると、
「みのりの秘密っていうのが、もしかして何か……その、みのりもプリキュアみたいな
 伝説の戦士になったんじゃないかなって思って。それで私に何か隠してるんじゃ
 ないかなって思うんだよね」
「えっ!?」「ええっ!?」
満と薫は咲の言葉を聞いて驚きの声を上げたが、舞はミニトマトを口に運んで
わずかに首を捻っただけだった。
「でも、それだったらみのりちゃんが危ないじゃない!」
「そうよ咲! 戦いとかそういうのはみのりちゃんにやらせるようなことじゃ」
薫と満は咲にそう詰め寄る。
「私だってそう思うよ! でも、みのり本人がなにも言わないし」
「……ねえ、」
舞が静かに言葉を挟んだ。
「そこまで考えなくてもいいんじゃない?」
「……え?」
虚をつかれたように咲が舞の方を振り返る。
「みのりちゃんだって、四月になればもう小学三年生だもの。お姉ちゃんに
 言いたくないような秘密だって一つや二つあってもおかしくないんじゃないかしら。
 そういう、伝説の戦士とは関係のないことで」
「え……? そうかなあ」
今度は咲が舞の言葉に首をひねる番だった。満と薫は咲と舞の顔を交互に見比べている。
「うちはお兄ちゃんと私の兄妹だから、咲やみのりちゃんみたいな姉妹とは少し違うと
 思うけど。部屋も小さい頃から別々だったし……、でも、小学校に入る前から
 お兄ちゃんに内緒にしていることはそれなりにあったような気がするから、
 みのりちゃんもそういうことじゃないかなって思うの」
「そう……かなあ。でもあんなの初めてで……」
「みのりちゃんも少しお姉さんになったんじゃない? もう少し様子を見て、
 それでもみのりちゃんが何かと戦っているように思えたら、その時対応を
 練ったほうがいいんじゃないかしら」
「うーん……」
咲はまだどこか納得できていないような表情だったが、
「もう少し様子見てみるよ」
と答えた。満と薫は黙って二人の会話を聞いていた。

 * * *

その日の午後、夕凪中の生徒たちが帰宅し始めるころ。夕凪中の校門の前にはみのりの
姿があった。校門を出てきた中学生たちが物珍しそうに小さな紙袋を下げたみのりの姿を
見ていく。みのりはそんな視線にめげず、じっと校門の傍に立っていた。

「あれ? 何やってんだ?」
聞き覚えのある声がした。
「健太お兄ちゃん」
「咲なら今日部活だって言ってたから出てくるの遅くなるぞ。たしか、美翔も一緒に……」
「ううん」
みのりは首を振った。
「お姉ちゃんじゃなくて、薫お姉さんを待ってるの」
「薫? ――霧生なら、結構前に教室を出たけどな」
「えっ」
みのりは小さな叫び声をあげてうろたえた。
「ずっと見てたのに……すれ違っちゃったかなあ」
「ほんとうに『ずっと見てた』のか?」
健太が確認するように尋ねると、
「うん。六時間目の終わりのチャイムが鳴ったころからここにいたんだもん」
もう三十分も待ってるんじゃないか、と健太は思った。
「霧生、裏口から出たのかもしれないぞ。トネリコの森に行くときはあっちから
 行くときもあるっていつだったか美翔が言ってたから」
「本当!? じゃあみのり、トネリコの森に行ってみる! 健太お兄ちゃんありがとう!」
「お、おう」
健太の返事を聞くゆとりもなく、みのりは森の方へと駆けだしていた。
――霧生、別のところに行ってるんじゃないといいけどな……
健太はそう思いながら帰宅の途についた。

 * * *

「あっ」
みのりがトネリコの森に着くと、薫はすぐに見つかった。大空の樹の上に座って
スケッチブックを広げている。驚かそうと思ってみのりはそうっと薫に近づいたが、
かさりと足元の葉っぱが音を立ててすぐに気づかれてしまった。
「みのりちゃん」
「えへへ」
見つかってしまったことが恥ずかしくてみのりは照れ笑いを浮かべると、
「あのね、薫お姉さん」
と手に持った紙袋を差しだした。
「え?」
「これね、みのりが作ったんだよ。薫お姉さんにあげる」
「いいの?」
「うん! そう思って作ったんだもん」
ありがとう、と薫は袋を受け取ると中の箱を取り出した。ピンク色の包装紙で
丁寧に包んである。
「ラッピングもみのりがしたんだよ、本見ながらだけど」
「へえ、すごい」
素直にそう言いながら包装を解いて箱を開ける――と、中からはクッキーが出てきた。
「あのね、最近みのりのクラスでクッキーを作って好きな男の子にあげるのが
 はやってるんだ。それで、友達と一緒に作ったの」
みのりが説明すると、薫はますます不思議そうな表情を浮かべ、
「私がもらっていいの?」
「うん! クラスの男の子にあげたい子はいないし、薫お姉さんにあげたいと思って
 作ったんだもん」
「……ありがとう。食べてもいい?」
静かな笑みをたたえて薫がそう尋ねると、みのりはうんうんと頷く。5枚入っている
クッキーのうちの1枚を薫は手に取ると、一口かじった。
「おいしい」
「本当!? やったあ」
「本当においしいわ。みのりちゃんも食べたら?」
「ううん、それは薫お姉さんのだから」
1枚を食べ終え、そういえば、と薫は改めてみのりを見る。
「このこと、咲に秘密にしてたの?」
「うん、だって薫お姉さんのこと驚かせたかったから。お姉ちゃんに言うと、
 薫お姉さんに話しちゃうかもしれないんだもん」
そういうことか、と薫はほほえんだ。咲の心配は幸い外れたようだ。
お茶でも持ってきておけば良かったと思いながら、薫は2枚目のクッキーに手を伸ばした。

-完-

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