ゴーヤーンが消滅してからもしばらくの間、精霊たちは緑の郷、夕凪町に留まっていた。
「……ねえフラッピ、何か太った?」
「ラピ!?」
大空の樹の下でふりかけご飯を食べていたフラッピが咲の言葉に目を丸くした。
「ほらこの辺とかさあ」
ぷにぷにとしたフラッピのお腹を撫でると、
「くすぐったいラピ!」
とフラッピが悲鳴を上げた。
「フラッピは幸せ太りチョピ。世界樹が甦ってから緊張感がないチョピ」
となりでカレーを食べていたチョッピが言葉を挟む。
「仕方ないムプ」
と、これは木の上で自分の体ほどの大きさのメロンパンを食べているムープ。
ムープも心なしか前より丸くなったように咲には思えた。

舞はそんな咲たちのやり取りを見てくすくすと笑う。
満と薫は、大空の樹の側にある祠のそばで咲たちの会話を聞きながら
やはりパンを食べていた。柔らかい風が二人の頬を撫でる。
木漏れ日の中での昼食は、ひどく平和だった。

「はー、おいしかった。ごちそうさま」
PANPAKAパンで買ってきたパンを全部平らげて、満が満足そうにパンの入っていた袋を
くしゃくしゃと丸めて鞄に入れる――と、ぴくりと満が指を止めた。
薫も瞬間的に険しい表情を浮かべ空を見上げる。

「ラピ!」「チョピ!」
とフラッピとチョッピも何かの気配を感じて耳を伸ばした。
「フラッピ!? どうしたの!?」
「何か来るラピ!」
「変身チョピ!」
チョッピがぽんと、フラッピがどんとクリスタルコミューンに変身し
咲と舞の手の中に納まった。

「何か」は空から降ってきた。

「ウ〜ザイナ〜!!」
といつもの台詞を吐きながら、ブルームとイーグレット、満と薫に迫る。
「ウザイナー!? どうして!?」
咲と舞が変身している横で満と薫は一瞬狼狽した。
すでにこの世界にゴーヤーンはいないのだし奇跡の雫は全て泉の郷に戻ったはずである。
そうであればウザイナーが出てくるはずがない。
また滅びの力を持つ存在との戦いが始まるのでは……と、そんな悪い予感も頭に浮かぶ。
だが、満は頭を振ってその思考をとりあえず脇に置いた。今はウザイナーへの対処が先決だ。

「いくよ、イーグレット!」
ウザイナーは目覚まし時計のような形をしていた。ブルームとイーグレットが
精霊の光を身に纏い空に舞う。
「はあああっ!」
ブルームは誰よりも速くウザイナーに向っていった。
「ウザイナーッ!!」
ブルームの姿にウザイナーが吠える。時計盤の中央から出た衝撃波がブルームを襲う。
「うわっ!?」
ブルームは目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。黒い液状の物に包まれたかと思うと、
身体が水の中に浮いているようにぷかぷかと動く。

「ブルーム!」
「イーグレット!?」
満と薫が同時に叫んだ。ブルームと同時にイーグレットにも異変が起きている。
精霊の光がイーグレットを大きく包んだかと思うと……、変身が解けた。
「舞!」
空から落下する舞の下に薫が走りこむと舞の身体を受け止めた。
「満! 咲を!」
「分かってる!」
舞の変身が解けたなら、咲の変身も解けたはずだ。満は躊躇せず、咲を包み込んだ謎の
黒い球の中に飛び込むとそのまま咲らしきものを抱えて離脱する。
「咲!?」
脱出した満は腕の中の咲を見てぎょっとした。咲は変身が解けていて、それは予想通りだったが、
更に5歳くらいの姿にまで小さくなってしまっている。満を見て怯えたような表情を
浮かべた咲を満はぎゅっと抱きしめて着地した。

「ウ〜ザイナ〜……」
ウザイナーが咲を飲み込んでいた黒い液体をすうと自分の体内に納める。
「ウザイナー!!」
一際大きく吠えたかと思うと、ウザイナーは両手を上げて針状の金属をミサイルのように
四人に向って打ち出す。満と薫は咄嗟にバリヤーを張った。
「舞、咲を安全なところまで逃がして! ここは私たちが何とかするわ!」
「わ、分かったわ!」
満に言われ、舞は咲の手をぎゅっと握ると丘の麓に向って駆けはじめた。


「はあ、はあ、はあ……」
走り続けて、丘の麓。ウザイナーの姿は見えなくなった。少し安心して舞は立ち止まると、
小さな咲の手を放す。咲はきょときょとと視線を動かすと、
「お姉ちゃん、誰?」
と尋ねる。
――咲、小さくなっただけじゃなくて……記憶も、なのね。
舞はそう認識すると、咲を怖がらせないように屈みこんで目線の高さを合わせた。
「私は、美翔舞」
「みしょう……まい……?」
知らない名前だと言いたそうに咲は首を捻る。
「さっきのお化けみたいなのはなんなの?」
「あれはウザイナーっていうの。でも大丈夫、満さんも薫さんも私も、
 あなたに手は出させないから」
「満さんと薫さんって? さっきのお姉ちゃんたち?」
「そう」

その満と薫は苦戦していた。
「はあっ!」
満が手元に生み出した赤い光球をウザイナーに向ける。だが、
「ウザイナーッ!!」
ウザイナーの目が赤く光り、目覚まし時計上部の槌の部分が左右に揺れたかと思うと
光の球が時間を戻され、満の手の内に戻っていく。
満はいらだたしげに舌打ちをした。こうして攻撃を封じられるのはもう5回目くらいだ。

――だったら、直接!
薫が身を翻すとウザイナーに飛びかかる。爛々とウザイナーの目が輝いた。
「ウザイナーッ!!」
「えっ!?」
満の時間が強制的に巻き戻され、つい10分ほど前に居た場所に飛ばされた。
ちょうど薫の目の前に突然満は出現し、
「うわっ!?」
二人は空中で激しくぶつかり合って落下した。


『お〜い、聞こえるかい?』
地面に落ちた満と薫、それに舞のもとに不思議な声が届く。
あたりを見回しても誰もいない――、まるで頭に直接聞こえてくるかのようだった。
『そっちにいったウザイナーは、時計の郷にずっと潜んでた奴なんだ。
 突然暴れだして緑の郷に行っちまって、ミニッツも俺も止められなかったんだ』
ミニッツとアワーズ、と舞は思った。時計の郷の大時計を動かしている精霊だ。
『俺たちはすぐにはここから動けない。でも、すぐ助っ人を送るからそれまで頑張っててくれ』
声はそこで途切れた。助っ人? と舞はあたりを見回す。
咲が元に戻ってくれるのかと思ったが、その様子はない。……突然、舞のそばにあった
樹が光を放った。咲も舞も、その眩しさに思わず目を閉じる。
舞はぎゅっと咲の小さな手を握った。
目を開けると、そこには見なれない女の子が立っていた。
舞達と同じくらいの年格好で、肩から少し下まで伸びる髪を三つ編みにまとめている。

「あなたは……誰?」
こわごわと舞が尋ねると、女の子はどこかで見たような表情でにひっと笑った。
「本当に舞お姉ちゃんなんだね、中二の時の」
舞はその声に聞き覚えがあった。PANPAKAパンでいつも聞く可愛い声だ。
「あなた……!? みのりちゃん!?」
「うん! 舞お姉ちゃんから見ると、未来から来たことになるのかな? 私も今、中二なの」
「ど、どうしてみのりちゃんがここに!?」
「うーん、どうしてって言われると難しいな……なんか変な生き物が来て、6年前のお姉ちゃん達が
 ピンチだからとにかく手伝えって言われて」
「変な生き物?」
みのりはクリスタルコミューンを出した。フラッピが顔を出している。
「とにかく舞お姉ちゃんに会えば何すればいいか分かるって言われたんだけど」
「そういうことで変身ラピ、舞。急ぐラピ!」
「わ……分かったわ」
舞は小さな咲の手を放すと、
「咲、ちょっと私たち行ってくるけど……すぐ戻ってくるから、ここにいてね」
「え、咲って……ひょっとしてお姉ちゃん!?」
みのりは目を丸くした。咲のほうは「お姉ちゃん?」と不思議そうな顔だ。
咲はもしかすると、みのりが生まれる前まで時間が戻っているのかもしれない。
「そうよ、この子は咲」
「お姉ちゃんってこんなに小さかったんだ……」
「ほら、行くわよみのりちゃん」
放っておくとみのりが咲のことをからかいそうだったので、舞は慌ててみのりの腕を掴んだ。

「どうすればいいの?」
「コミューンをこういう風に持って……」
舞が教え、
「デュアルスピリチュアルパワー!!」
と二人の声が森に響いた。


「満さん、薫さん!!」
キュアイーグレットと、みのりが変身したキュアブルームは全速力で大空の樹の下へと
駆け上った。
「ウザイナー!!」
ウザイナーが二人の存在に気づき、そちらを向く。
「満、今よ!」「ええ!!」
地面に倒れていた満と薫が弾かれた様に飛び上がった。二人はウザイナーの注意がそれる
機会を窺っていたのだが、今ようやくその時が来たのだ。

「ウザイナー!?」
ウザイナーは満と薫のほうに視線を向けるが、
しかし突進してくるブルームとイーグレットにも気を取られ、
満と薫から視線を逸らした。
「ここを止めれば!」
満と薫はウザイナーの頭頂部に飛びつくと槌にしがみつく。巨大な槌をへし折ろうと
満と薫は力を込めた。
「ウザイナー!!」
ウザイナーは満と薫を振り落とそうと頭を闇雲に振り回した。
「薫お姉さん!」
思わずブルームが叫ぶ。
「ブルーム、行くわよ!」
「うん!! ってどこに!?」
「必殺技よ! 多分自動的に身体が動くから、私に続いて!」
「う、うん!!」

「精霊の光よ! 命の輝きよ!」
「希望へ導け、二つの心!!」
「プリキュアスパイラルハートスプラッシュ!」


「ウ、ウザイナー!!」
ウザイナーは目を光らせ、ブルームとイーグレットの技を戻そうとした。だが満と薫が
張り付いているので頭上の槌を動かすことができず時間を操れない。
「ウザイナーッ……」
満と薫がウザイナーから離脱した瞬間にスパイラルハートスプラッシュが命中、
ウザイナーは情けない声を上げて目覚まし時計を残して消えてしまった。

「満さん、薫さん! 大丈夫だった!?」
変身を解いた舞とみのりが駆け寄ってくる。
「ええ、大丈夫だけど……」
満はそう答えると興味深そうにみのりに目をやった。
「あなたは?」
「えへへ」
みのりは笑う。それを見て薫ははっと思い当たった。
「まさか……みのりちゃん!?」
「ピンポーン!」
みのりは満面の笑みを浮かべた。
「お姉ちゃんたちがピンチだって聞いたから来ちゃった」
そう答えるみのりの目の高さは薫より少し低いが、あまり変わらない。
なんだか不思議だった。
ぽん、とみのりの持っているコミューンから未来のフラッピが姿を現す。
「さあ、あんまり長居もしていられないラピ。そろそろ帰らないとラピ」
「うん、そうだね」
「……もう帰るの?」
「うん、薫お姉さん。こっちにいる私のこともよろしくね」
無言で頷く薫に、そうだ、といいことを思いついたようにみのりはたったったと
近づくと、ぎゅっと薫に全身で抱きついた。
「みっ……!?」
驚いて声も出なくなった薫を離すとみのりは悪戯成功とでも言いたそうな表情を浮かべ、
「じゃあね!!」
と元気よく舞と満に手を振ってそのままフラッピとともに姿を消した。
あまりに簡単に姿を消したので、舞と満は思わず辺りを見回してしまったが、
本当に帰ったらしくみのりはどこにも居なかった。


「みんな!」
はあはあと息を切らせながら咲が走って上ってくる。
「みんな、さっきのウザイナーは!?」
「え、倒しちゃったけど」
「そうなんだ……良かった」
満の言葉に、咲はほっとしてため息をついた。
「ねえ、私気がついたらいきなりこの丘の麓にいたんだけど何があったの?」
「咲、覚えてないの?」
舞が驚いて聞くと、うんと咲は頷いた。
「ウザイナーと戦ったところまでは覚えてるんだけど……それから後、どうなったの」
「ええとね。助けが来てくれたの」
「助け? 助けって?」
咲が尋ねる。舞は「すごく頼もしい人だったのよ」と名前は言わなかった。
「え〜、誰。教えてよ。私の知ってる人?」
「ええ」
微笑して舞は頷いた。身近な人なのに、咲には見当もつかない様子なのがおかしかった。

「ん〜、誰かなあ……あれ? 薫?」
咲は薫が先ほどから全然動いていないのに気づくと声をかける。
だが薫は固まってしまったかのように反応しなかった。
「薫? お〜い」
目の前で手を振ってみるが反応はない。困惑して咲が満を見やると、
「ちょっと刺激の強いことがあったから。しばらくこのままかもしれないわ」
と満は答えた。
「刺激? 何? 何があったの?」
咲は顔一杯に疑問符を浮かべて舞と満を見比べる。二人ともおかしそうにくすくすと笑っていた。

-完-

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