「てるてるぼうず〜てるぼうず〜♪」
ノックの音がしたのでみのりは歌うのを止めると「はーい」と答えて自室の扉を開ける。

「あっ、薫お姉さん!」
廊下には夕凪中の制服を着た薫が立っていた。いつものように学校帰りにPANPAKAパンに来たらしい。

「おやつがあるから下にいらっしゃいって」
「は〜い!」
元気良く答えて部屋を飛び出したみのりに、薫は「お勉強してたの?」とたずねる。

薫たちがPANPAKAパンに来た場合には、みのりは友達と遊びに出かけているか降りてきて一緒に
お手伝いしたり遊んだりしようとするかどちらかだ。
今日のように一人で部屋に閉じこもっているのは珍しい。

「う〜んと、ね……お勉強じゃないんだけど」
「じゃあ、お絵かき?」
「ううん、それも違うよ」
みのりは首を振る。二人は連れ立って階段を降りた。

「後で、薫お姉さんにも見せてあげるね」
「え? ……ええ」
みのりは「今はまだひみつ」と言わんばかりの表情を浮かべると、とことこと走って咲たちの
待つテーブルに向う。

「みのり、てるてる坊主できたの?」
咲の言葉にみのりは慌てて両手を振ったが薫にばっちり聞かれてしまったのを感じて、

「もう。後で薫お姉さんに見せてびっくりさせようと思ってたのに」
と、不服そうだ。
「あ〜ごめんごめん、そうだったの?」
「いーっぱい作ったの薫お姉さんに見せてあげようと思ったのに」
「ごめんってば。……薫?」
咲はみのりをあしらい、テーブルから十数歩のところで固まってしまっている薫に声をかけた。

「どうしたの? 食べようよおやつ」
「え、ええ……」
薫は我に返ったように動き始めた。舞は「?」という表情を浮かべていたがすぐあることに
気がつく。

――もしかして薫さん、てるてる坊主のことしらないんじゃ!?
慌ててシュークリームを5つの皿に分けている満の様子を窺うが、その表情からは
知っているとも知らないとも分からなかった。

――満さんなら、多分知らなくてもうまくごまかしてしまえるわよね。
  でも薫さんはそういうの苦手だから……

どうやって説明すればうまく薫に伝えられるだろうか。舞の気ばかりが焦り始める。
「……それでね、窓一杯になるように作ろうと思ったから、20個も作ったんだよ!」
席についてさっそくとばかりにみのりは話し始める。シュークリームがお留守だ。

「そんなに作ったの? もう、作りすぎじゃない?」
「そんなことないよー、ねえ、薫お姉さん」
咲にからかわれてみのりは薫に助けを求める。

「……そのてるてる坊主っていうのは何のために作ってるの?」
薫の直球の質問に、舞は思わずシュークリームを吹き出しそうになった。

「え?」
「あ、あ、えーと、どこかに行く用事があるのって意味よね!? 
 てるてる坊主って晴れるようにお願いするためのものだから」
不思議そうな顔をしたみのりに舞が大慌てで説明する。後半部は薫にあてた説明だ。
みのりは舞がごまかしたことに気づかずに、にっと笑みを浮かべた。

「あのね、明日クラスの友達と一緒にお花見に行くんだよ!」
「お花見?」
「うん、近くのキャンプ場なんだけどね、八重桜がとーってもきれいなんだって!
 それで、みんなでお弁当持っていって食べるんだ!」
みのりは家族で出かけることが少ないだけに、こういうお出かけは大好きだ。
今日から興奮気味でいることが言葉のはしばしから良く伝わってくる。
薫はにこにことみのりの明日の予定を聞いていた。咲はしょうがないなあといった様子だが、
舞も満も楽しそうにみのりの話を聞いているのでそのまま邪魔をしないことにした。

「薫お姉さん、おやつ食べたら部屋に来てね」
「ええ、そうさせてもらうわ」
5人のおやつが終ると、約束どおり薫はみのりと一緒に二階の部屋に上がっていった。
咲と舞、満の3人がその場に残る。
「明日、晴れるといいわね。みのりちゃんがあんなに楽しみにしてるんだもの」
満の言葉に咲は「う〜ん」と答えた。

「どうしたの?」
「天気予報はばっちり雨なんだよね……」
「……そう」
満は残念そうに目を落とし、空になったシュークリームの袋を片付ける。

舞は窓のそばで空を見上げた。確かに、灰色の雲が少しずつ近づいてきている。


「すごいでしょ!」
みのりは得意げに机の上のてるてる坊主を見せた。大小20個のてるてる坊主はマジックで
丁寧に笑顔が描かれていて同じ顔は一つもない。

「丁寧に作ってあるわね」
薫の言葉に「えへへ」とみのりは照れ笑いを浮かべると、「あのね、これ」と
一つのてるてるぼうずを差し出す。
これはまだ未完成で、形はできているが顔は描いていなかった。
「薫お姉さんにお顔描いてほしいの」
「え? 私が?」
「うん! はい、マジック」
マジックを渡されてどんな風に描けばよいか薫は一瞬逡巡したが、すぐに目の前のみのりの
顔を見ながらその表情をてるてる坊主の上に再現する。ごく簡略化したものになったが、
薫としてはみのりの顔に見えるてるてる坊主が一応できた。

「これでいいかしら?」
「うん、ありがとう! そしたら、こっちの窓に全部並べるんだ!」
みのりが糸とはさみを持ってくる。薫はみのりの指示通りにカーテンレールに20体の
てるてる坊主を並べていった。

「かんせ〜い! ありがとう薫お姉さん!」
最後の一個を取り付けるとみのりが両手をあげて飛び跳ねる。

「これで明日きっと晴れるね!」
「ええ、そうね」
「楽しみだなあ……、ねえ、明日この服とこの服、どっち着ていったらいいと思う?」
薫はみのりの服選びにも付き合い、結局この日はずっとみのりと過ごしていた。

「また明日」「また明日ねー」
夕方、満と薫、舞はPANPAKAパンから家路につく。薫は心配そうに空を見上げた。
おやつの頃よりずっと灰色の雲が広がっている。
「明日、晴れるかしら……」
舞が薫の気持ちを察したように呟くと、満は「さっきの天気予報は雨だって言ってたわ」
と答える。

ふう、と薫がため息をつく。あんなに楽しみにしているみのりのことを思うとなんとしてでも
明日は晴れにしたい。だがそんなことが薫にできるはずもなく……、

「薫と舞だったら、雲なんて風で散らしちゃえるんじゃないの」
満の言葉に「え?」と薫は顔を上げた。

――そうか、雲の中央で風を吹かせれば……
一瞬真面目に考える。だが、
「さすがにそれは無理よ〜」
困ったような舞の言葉で薫はそうよねと思い直した。

「やっぱり無理かしらね」
「ええ。そういうための力じゃないもの」
ふうと薫はもう一つ大きなため息をついた。

舞とも別れ、満と薫は二人で暮らしている家に着いた。
「薫ー。今日の夕食はなんにするの? 薫?」
食事当番のはずの薫が台所に向わず机に座ったのを見て満は怪訝な表情を浮かべた。

「食事は?」
「その前にやることがあるの。満も手伝って」
白い布を探し出してくると適当な大きさに切り始める。端切れを詰めて首を結び、
マジックで顔を描いててるてる坊主が一つ完成だ。

「これが、みのりちゃんの言ってたてるてる坊主?」
「そうよ。窓一杯につるすといいらしいから。満も作って」
「なんで私が……」
「完成するまで食事は作らないわ」
まったくもう、といいながら満も見よう見まねでてるてる坊主を作り始めた。
元々器用な二人のこと、30分もすれば必要なだけのてるてる坊主が出来上がる。

咲の家と同じようにカーテンレールにつるして完成だ。

「これで気が済んだ? 薫お姉さん」
からかうような満の言葉に薫は一瞬むっとした表情を見せたが、「ありがとう」とだけ言って
台所で食事を作り始めた。
残った満はちょんちょんと窓のてるてる坊主をつくる。

「これで明日晴れなかったら承知しないわよ……」
てるてる坊主相手にすごんで見せて、窓の向こうの月を眺めた。月は雲に隠れてはいるが
その光を地上まで届けている。雲が少しだけ薄くなったように満には思えた。

-完-

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