「12月17日 日ようび はれ ときどき 雨
  今日は、おねえちゃんとまいおねえちゃんと、かおるおねえさんとみちるおねえさんと
 いっしょに、バスにのってどうぶつえんに行きました。
  どうぶつえんには色んなどうぶつがたくさんいて、うさぎにキャベツを上げました。
 わたしがいちばん好きになったのはおさるさんです……」

「みのり、勉強?」
風呂上りの咲が声をかける。みのりは部屋の机に向かって鉛筆をゆっくりと動かしていた。

「うん、日記! 今日楽しかったから、ちゃんと書いておこうと思ったの。
 お姉ちゃん、」
「うん? 何?」
「満お姉さんと薫お姉さんと、喧嘩なんかしてないよね?」
「し、してないよ! 何で満たちと喧嘩なんて」
だったらいいんだけど、とみのりは少し口を尖らせた。

「今朝、満お姉さんも薫お姉さんも、あんまり元気なかったんだもん。
 帰り道ではいつもみたいだったけど」
「あ、それは……」
咲は言葉に詰まる。本当のことを言うわけにもいかない。

「うーん、二人とも体調でも悪かったのかなあ?」
「薫お姉さんたち病気なの?」
みのりが心配そうに眉を顰める。このごまかし方はまずかった、と咲は思い、

「うそうそ、そんなことない、大丈夫だよ。帰りちゃんと元気だったじゃない。
 ……あ、分かった、きっと二人とも眠かったんだよ! 朝、早かったから」
「それはお姉ちゃんでしょ!? 今日もみのりが起こすまでずっと寝てたじゃない」
「う〜……、でもみのり、本当に心配しなくて大丈夫だよ。私も舞も、満たちと
 喧嘩なんかしてないから」
咲の言葉にみのりはやっと納得したようで、
「そうだよね、……ねえお姉ちゃん、次はいつ薫お姉さんたちと遊べるの?」
「今日遊んだばっかりじゃない」咲は苦笑した。

「みのり、本当に薫に遊んでもらうの好きだね」
「だって、薫お姉さんなんだもん。それに……」
「それに?」
みのりはごく自然の事を話すように続ける。
「それに、ずっと一緒に遊べなかったし」
あ、と咲は思った。みのりの記憶の中では満と薫はずっと居たことになっている。
7月に会ったときから、変わらず学校に通っていたことになっている。
しかし、記憶の中に二人の具体的な様子はない。
だからみのりの記憶では、二人はずっと居たが、みのりと会うことはなかった――
という風に、なっている。咲や舞と喧嘩していたのかもしれないくらいには
考えているかもしれない。

「そ、そっか……」
「うん! だからね、薫お姉さんたちがよく来てくれるからすごく嬉しいの!
 今度はいつ来てくれるのかな〜」
「また誘ってみるよ」
「うん!」
「あ、そうそうみのり、お風呂入っちゃいなさいって。お母さんが言ってた」
「は〜い」
みのりは着替えを持つと、ぱたぱたと部屋から駆け出していった。
入れ替わりにコロネが入ってくる。フラッピとムープ、フープも姿を現す。

「はふう〜……」
咲はベッドの上に、うつ伏せに倒れ込む。

「どうしたんだ」
コロネが低い声で聞きながらベッドの上に上がってきた。

「そんなに疲れたのか、動物園が」
「動物園っていうか、満と薫の話がね……」
「ああ」
諒解した、というようにコロネはベッドの上で丸くなった。ムープとフープがそんな
コロネの上に乗る。いつもと違ってはしゃぐ様子がない。

「二人ともどうしたラピ? 元気ないラピ」
「満と薫ムプ。かわいそうムプ!」「フィーリア王女に何かできないか聞いてみるププ!!」
ムープとフープは今にも泣きそうだった。
「王女なら眠っているぞ」
二人の下に居るコロネが冷静に答える。「話をするだけでも疲れるらしいからな」
少し不満そうな二人に、フラッピは困ったような表情を浮かべながら、
「二人の気持ちは分かるラピ。でも、泉の力を信じるしかないラピ」
「どうして満と薫はダークフォールなんかにいたムプ!」
「最初から緑の郷で生まれてれば良かったププ!」

ムープとフープは今やほとんど怒っているようだった。フラッピがまあまあとなだめる。

「今そんなことを言っていても仕方がないラピ。それに、満と薫がダークフォールに
 いなかったらムープとフープを助けることもできなかったラピ」
「……」

ムープとフープは下を向いて黙ってしまった。咲はベッドの上に座り直す。

「大丈夫だよ、きっと……多分」
ムープとフープの頭を撫でながら呟く。

「運命は変えられる。強い心を持って、希望を持ち続ければ願いはかなうって、
 昔王女様に言ってもらったじゃない」
あの時も、満と薫がいなくなったんだった、と咲は思った。

「そうしたら、私達また会えたじゃない。満と薫に。
 だから今度も頑張ろう。泉の力で、奇跡はきっと起きる。
 みんなで頑張れば二人の運命も変えられるよ」

「ムープ、頑張るムプ!」「フープもププ!」
「みんなで頑張るラピ!」
おー!と咲が手を挙げたところでコロネが「来たぞ」と呟く。
フラッピ、ムープ、フープは慌てて隠れた。風呂上りのみのりがやって来る。

「は〜、気持ちよかった。あれ? お姉ちゃんまた寝てたの?」
「ね、寝てない寝てない。ちょっとベッドで考え事してただけ」
「ふうん、……日記書いちゃおっと」
興味なさそうに言うと、みのりはまた机へと向かう

「ねえ、そういえばみのり」
咲は気になっていた事をみのりに問いかける。
「なあに?」
「どうして猿の絵、私達の顔にしたの?」
「だって、お猿さんたちみんな仲良しだったんだもん」
「仲良しだから?」
「うん、お姉ちゃんたちもお猿さんたちみたいに仲良しなのかなあって思って」
みのりは満面の笑みで無邪気に答え、机に向かう。

咲はベッドの上のコロネを膝の上に抱え上げ、背中を撫でながら
「仲良しだよ、私たち。運命変えちゃうくらい」
前半はみのりに聞こえるように、後半はコロネだけに聞こえるように呟いた。

-完-

 ←押していただけると嬉しいです。



短編SS置き場へ戻る
indexへ戻る