ダークフォールの戦士の使命は太陽の泉を奪い、すべてを滅ぼすことである。
彼らとプリキュアとの激闘はプリキュアの勝利で幕を閉じた。
ダークフォールに産み出された者たちは満と薫の二人を除いてすべて消滅した――はずであった。


満と薫が夕凪町での人間としての暮らしに慣れ初めて来た頃、彼らは
突然夕凪町に戻ってきた。
カレハーン、モエルンバ、ドロドロン、ミズ・シタターレ、キントレスキー。
ゴーヤーンとアクダイカーン以外のダークフォールの住人が再び集結したのだ。
彼らがどうして復活できたのか、詳しいことは分からない。
「精霊達が私たちと共に生きることを望んだのよ」
というのがミズ・シタターレの弁であるが、それはおそらく彼女の勝手な思い込みである。
何はともあれ戻ってきた彼らを放っておくわけにはいかず、満と薫は
彼らと一つ屋根の下で暮らすことにした。
初めは満と薫も緊張しながら彼らと共に暮らしていた。いつまた彼らが緑の郷を
滅ぼそうと考え始めるか分かったものではない。その時は、大事に至る前に
自分たちが彼らを倒す――と、そんな覚悟も固めていた。

だが、彼らの方にそんなつもりはなかった。彼らの主は産みの親であるアクダイカーン。
彼らに何かを命じることができるのはアクダイカーンただ一人である。
その主がいなくなった現在、彼らは自分のしたいことをして楽しむだけで
特に緑の郷を滅ぼそうという意思はなかった。
夕凪町のはずれにある巨大な館で、七人の奇妙な暮らしは平和に続いていた。


「たっだいま〜、見てみてこんなの買ってきたよ!」
ある日、買い物から帰ってきたドロドロンはスキップするように玄関の中に
飛び込んできた。
途中で会って一緒に帰ってきたらしいカレハーンは上機嫌なドロドロンとは
対照的にうんざりしたような顔だ。
「ドロドロン、お前は街中で飛んだり跳ねたり踊ったりするなよ。
 一緒にいて恥ずかしいだろ」
「もう、カレッチってば恥ずかしがり屋さんなんだから〜」
「カレッチと呼ぶな!」
不服そうに腕組みしているカレハーンの腕をドロドロンがちょんちょんと突付くが
カレハーンはそれを振り払った。そのまま二人は玄関から居間へと直行する。
この家では一人一部屋――満と薫は二人で一部屋――が割り当てられているが、
家族が居間に集まっていることも多い。
この日も、帰ってきた二人を除く全員が居間に集まってパンを食べたり
水芸の道具を磨いたり、思い思いのことをしていた。

「見てよ、これ!」
再度、ドロドロンが部屋の中央で買ってきた雑誌を掲げる。
パンを食べている満とキントレスキーをスケッチ中の薫が軽く目を向けた。
「プリキュア……特集……?」
「そうそう、何かプリキュアの雑誌みたいだよ! カレッチのバイト先で売ってるの
 見つけたから買ってきたんだ!」
プリキュアと聞いて満が「見せて」と手を伸ばした。ドロドロンが満に渡すと、薫は
スケッチブックを置いて満の傍に歩み寄って雑誌を覗き込む。
キントレスキーは満の隣で黙々とチョココロネを食べ続けていた。

「あ、プリキュアってこの……キュアピーチたちのことなのね」
満は半分安心したが半分がっかりした。咲たちが特集されているのかと思ったのだ。
雑誌をひっくり返して裏表紙を見ると、隅の方に小さく「四つ葉町プリキュア記念会」と
書いてある。聞いたことない出版社ね、と薫が呟いた。

「ああ、それはいわゆるミニコミ誌っていう雑誌だからな。
 自費出版に近い。何で俺のバイト先にあったかは知らんが、誰かが注文でもしたのかもな」
カレハーンの言葉に、へえ、と満と薫の喉から声が漏れた。
キュアピーチたちのファンの四つ葉町住民が頑張って出したのだろうか。
ページをめくると、ピーチたちのほかにも
「プリキュアのライバル!? 謎の美少女!」
というキャプションのついたイースの写真が大きく載っている。
説明を読むと、夏にあったダンス大会会場破壊事件を境に彼女は姿を見せなくなり
その行方は杳として知れない。らしい。

「ねえねえ、こういう子ってさあ」
ドロドロンが近づいてきてイースの写真を指差す。
「偉そうにしてるけど、陰でちゃっかりプリキュアと仲良くなったりしてるんだよね」
「……どうでもいいわ」「本当にどうでもいいわね」
薫と満はそう言い交わしてドロドロンをあしらうとまたぱらぱらとページをめくる。と、
「プリキュアの仲間!? みなとみらいでの大バトル!」
という文字のあるページを挟んで突然紙面が賑やかになった。
みなとみらいでのフュージョン戦の時、何枚か写真が撮られていたらしい。
それを集めたものらしく、たくさんのプリキュアたちの姿が紙面に並んでいる。
キュアブルーム、キュアイーグレットの姿も勿論そこにあった。
満は一枚の写真を見て、
「へえ、ブルームもイーグレットも格好よく写ってるわね」
と呟く。画質は粗いが、その分ブルームとイーグレットの
颯爽とした様子が際立っているような気がする。
「この写真だとブルームがブラックとコンビみたいだよね」
ドロドロンがまた別の写真を指差した。「黒の戦士、キュアブラック(仮)」と
キャプションがついている。仮称ということになっているのは正式な名前が分からないからだろう。きちんと名前が分かっているのはピーチたちだけらしく、キュアアクアやキュアミントが
「キュアブルー(仮)」「キュアグリーン(仮)」ということになってしまっている。

「確かにそう見えるわね。咲となぎささん、変身前も良く似てるけど……」
満と薫が今度はドロドロンに真面目に答えている横で
今日の分のチョココロネを食べ終えたキントレスキーが皿を片付けようと立ち上がる。
……と、彼はいきなり身を翻し満の前に置いてあった雑誌をばっと取り上げた。
「ちょっと、キントレスキー」
抗議めいた声を満があげるがキントレスキーは意に介さず、
「できるな、この者」
と呟いて雑誌をぽんとテーブルの上に置いた。
「できるって?」
雑誌を手に取りながら聞き返した満にキントレスキーは
「いい目をしている。戦士にふさわしい」
と流しに皿を放り込みながら答えるとまた戻って来て再び雑誌を覗き込むと
「うむ」
と一人頷いた。
「キントレスキー?」
いやな予感に薫が彼の様子を窺うと、
「出かけてくる」
と彼はジャージをばさりと羽織った。
「どこへ?」
「決まっているだろう。このプリキュアのところだ。鍛えてやらねばなるまい」
「なぎささんのところ!? 迷惑になるからやめなさいよ」
「何を言っておるか満!」
キントレスキーは大音声で満に反論した。満も薫も思わず耳を手で塞いでしまっていた。
「戦士たるもの、常に自己の向上の為に鍛錬を重ねると決まっておる。ましてこの者、」
とキントレスキーは雑誌の本文の一行に指を走らせた。
「未確認だがキュアブラックはチョココロネが大好きという情報もある」
という一文だ。

「チョココロネを好むのはまさに戦士の証だ。満、お前のように軟弱なパンを好む者とは違う」
「……っ!? メロンパンの何が悪いって言うの!?」
満は戦士とみなされたいわけではなかったが、メロンパンの悪口を言われたとなっては
黙っていられない。視線をきっとキントレスキーに向ける。

「分からない辺りがお前はまだまだ未熟なのだ」
平然と彼は答えるとそのまま部屋を出て行こうとする。
「待ちなさい、迷惑だから」
薫が彼の腕を掴んだが、
「まだ分からんのかお前たちは!」
とキントレスキーは腕を回して薫を振り払った。
振り飛ばされた薫は空中で体勢を立て直し、とんと軽い音を立てて床に着地する。

「良いか。先に産まれ経験を積んだ戦士の重要な使命は、まだ経験の少ない年若い戦士を
 鍛え上げることだ。だから私は絶対にこの者を鍛えてやらねばならんのだ!」
びしっと指をさして満と薫にそう告げると、「とうっ!」という声と共に
キントレスキーの姿は掻き消えた。瞬間移動で若葉台に向ったらしい。
彼の力を持ってすればプリキュアの居場所を特定することもそう難しいことではないのだ。

「もう、キンちゃんったら。見所のある子を見つけるといつもああなんだから」
どうしようと思っていた満の手からミズ・シタターレが雑誌をするりと掴み出す。
道具の手入れはもう終ったようだった。
「ふうん、この子。まあ私の敵じゃないわね」
キュアブラックのページはあまり興味がなさそうに読み飛ばす。その様子に満と薫の
二人は心底ほっとした。キントレスキーとミズ・シタターレが二人して
若葉台に押しかけたら迷惑にも程がある。
……と、ページをめくっていたシタターレの手が止まった。
まさか。と満たちはびくびくしながらシタターレの次の言葉を待つ。
「あら。プリキュアにも育ちのいい子はいるみたいじゃない」
ぱさりと彼女の手から落ちた雑誌のページはキュアブルー(仮)、要するにキュアアクアに
スポットライトを当てたページだ。例によって未確認情報だと断りを乗せた上で、
「水の矢を操るキュアブルー(仮)の正体はお金持ちのお嬢様だという説もある。
 『セレブ』かもしれない」
と書いてある。

「水の矢ね……面白い武器を使うものねえ」
「……シタターレ、あなたはかれんさんの所に行くつもりなの?」
止めてほしい。その思いが満と薫の全身を駆け巡る。
「あら、勘違いしないでほしいわね」
シタターレはぱちりと扇子を開いて口を隠しながら楽しそうに笑った。
「私はキンちゃんみたいにこの子を鍛えになんか行くつもりはないわ。
 ただ、庶民とばっかり付き合うのも疲れるからたまには優雅なウオータータイム……、
 ティータイムを過ごすだけよ」
高笑いしながらミズ・シタターレの姿が掻き消える。

「放っておけよ」
非常にまずい。そう思っている満と薫のそばにカレハーンがやってきて雑誌を手に取った。
「調子に乗ったあいつらなんか、止められるもんか。プリキュアだってそうそう簡単に
 やられやしないだろう」
「でもだからってそのままにしておくわけには……」
「なあカレッチー! 俺らもどっかに行こうぜ!」
これまでずっと黙って話を聞いていたモエルンバが踊るように歩み寄ってカレハーンの
首に手を回す。
「やめろ熱い! 燃えるだろうが!」
カレハーンはモエルンバから慌てて離れた。
「相変わらず熱くなりやすいんだからなあセニョール」
「だまれ! お前のせいだろう!」
「じゃあ俺はこいつらんとこ行くぜ」
モエルンバがカレハーンの持っていた雑誌の一ページを指差す。
本の前半、キュアピーチたちの特集ページだ。
「キュアピーチたちはダンスの要素を戦いに取り入れている分析もあるぞ!」という
ページである。
「ダンスの要素だってさ。ダンサーの血が騒ぐねえ、チャチャ! カレッチも一緒に
 遊びに行こうぜ!」
「お断りだ! お前がそっちに行くって言うなら俺は、えーと、こいつらだ、こいつらの
 所にいく!」
カレハーンが開いたのは雑誌のほぼ終わりのページ、「新しいプリキュアが……!?」という
ページである。心の花を枯らさないために戦っているプリキュアがいるらしい。

「まあたまた、適当なこと言っちゃってさあセニョール」
「て、適当じゃない! 心の花とやら、どれだけ枯らさないでいられるか見てやろうと
 いうんだ!」
モエルンバにこれ以上絡まれるのはごめんとばかりにカレハーンは姿を消した。

「仕方ないなあセニョール、ダンサーに会ったらすぐそっちに行くぜ、チャチャ!」
モエルンバも姿を消す。部屋の中は急に静まり帰った。
「もうみんな、うるさいんだから」
ぶつぶつ言いながらドロドロンが雑誌を手に取り、
「やっと落ち着いたよ」
と独り言をいいながらソファに座る。

「満……どうしよう」
薫が不安げな表情で満に目をやる。満は大きなため息を一つついた。
「どうしようもこうしようも……行かなきゃ。プリキュアのみんなに迷惑かける前に」
「でも私たち二人だけじゃ……」
「咲と舞にも手伝ってもらって、手分けして何とかするしかないわ。
 話が大きくなる前に止めないと」
「……そうね」
薫もため息を一つつき、二人は揃って部屋を出て行く。今日は長くなりそうだ。
後にはドロドロンだけが残った。


「うわ〜可愛い。ねえ満、薫、これ見てよ。ホホエミーナだって!」
しばらくして喜色満面、雑誌を差し出したドロドロンの前には誰もいなかった。
「え、満? 薫?」
ドロドロンは部屋の中をきょろきょろした後、どうやら自分だけがここに
残されたらしい――ということに気づく。

「なんだよ、この雑誌持ってきたのは僕だぞ! みんな勝手にこれ読んで遊びに行ってさ!」
ばしん、と雑誌を床に叩きつけてみるも誰もいないので何の答えも返って来ない。
ちえっとドロドロンは雑誌を拾い上げると、一人になった家で思う存分いじけることにした。

-完-

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