命の炎は水のようにダークフォールの床に雫となって零れ落ちる。
「目覚めよ。……薫。満。目覚めるのだ」
産み出されたばかりのダークフォールの小さな生命はアクダイカーンの声に従い
目を見開いた。

「あなたは、誰?」
今回の者達は声もはっきりとしている。前作った者は発音がひどく聞き取りにくいもので
困ったものだった。

「我が名はアクダイカーン。お前達は我が忠実なるしもべ。我に従え」
「しもべ」「しもべ……」
人の話も良く聞く。満と薫が自分の言った事をそのまま受け取るのを見て
アクダイカーンは満足した。

「お前達には空の泉を預ける。行け」
満と薫は素直に立ち去った。今の満と薫の命はアクダイカーンの命の炎から分離された
ばかりの状態である。
アクダイカーンの意思に従い行動している限り、二人の命の炎は二人を導く。
空の泉にも、誰の案内がなくとも辿りつけるであろう。しばらくの時間が経てば
そんな力はなくなってしまうが。


「アクダイカーン様、あの者たちをどうして生み出したのです?」
ゴーヤーンが闇の中からすっと姿を現した。揉み手をしながら、しかし明らかに、
気に入らない、といった顔をしている。

「空の泉を泉の郷の者どもから守り、管理する者が必要だ」
「ミズ・シタターレどのが張り切っていらしたようでしたが」
「あの者には水の泉を与えた」
「しかし……」
「ゴーヤーン。不満があるのか?」
アクダイカーンの目が赤く燃え上がった。
「いえいえ、とんでもない」
誇りも何もなく平身低頭し、ゴーヤーンはアクダイカーンの怒りをやり過ごす。
「しかし、太陽の泉を隠されたとは厄介ですな」
「こういうときのためにあやつらがいるのだ。カレハーンはどうした」
「緑の郷に逃げた精霊達を探しているようです」
「すぐにでも見つかるのであろうな」
「それはもう、仕事の速いカレハーン殿のこと。必ずや精霊達を見つけ出し、
 太陽の泉のありかを聞き出すことでしょう」
「そうか」
ゴーヤーンはうやうやしくお辞儀をすると、アクダイカーンの元から離れた。

――家族ゴッコでもするおつもりなんでしょうかね、馬鹿馬鹿しい。

アクダイカーンはゴーヤーンが生み出した存在である。しかし、そのことを当人は知らない。
アクダイカーン当人は、自分は最初から居た者であると思っている。
世界の初めから、全てのものを滅ぼし無に帰すという使命を持って存在し続けてきたもので
あると思っている。

アクダイカーンに命の炎の分け与え方を教えたのはゴーヤーンである。

権威はあるが図体の大きなアクダイカーンのこと、泉の郷まで出張らせるのは無理がある。
このままでは折角アクダイカーンと言う傀儡を作り上げ自らが攻撃される
危険性を減らしたと言うのにゴーヤーン自身が実働部隊として働かねばならない。

そこでゴーヤーンはアクダイカーンに部下の生み出し方を教えた。
アクダイカーンに生み出された者に実際の戦いを任せ、自分はアクダイカーンの
参謀として仕えておればよい。
そういうつもりだった。

――優秀な部下を一人二人産んでおけばいいんじゃないですかねえ……。

求める泉の数は七つ。だからといって七人も部下を生み出す必要はないのではなかろうか、
とゴーヤーンは思う。

しかも生み出す部下がキントレ好きだったり芸人だったりダンス好きだったり
楽しく喋っている奴らが大嫌いだったりまともなのがカレハーンくらいしかいないのは
どうしたものか。

産み出された部下達の世話をするために自分の負担が増えているような気さえする。

――まあいいでしょう。太陽の泉を奪いさえすれば良いんですから。
  それまで家族ゴッコの茶番に付き合うのも。

この時点ですでに計画はほころび始めていた。
しかしゴーヤーンはまだそれに気づいていなかった。

ふわりと浮き上がると、ゴーヤーンは枯れ果てた空の泉に向かう。
ミズ・シタターレが奪った空の泉。
管理したがっていた彼女をなだめるのもゴーヤーンの仕事だ。
後で水の泉へいかなければならない。


「おやおや、どうされました。ええと……満殿に薫殿」
どんよりと曇り光の届かない空の泉では、さきほど産み出されたばかりの満と薫が
枯れた倒木の上にぼんやりと背中合わせになって座っていた。

「あなたは?」
「私はゴーヤーン。アクダイカーン様の右腕でございますよ。
 今後、私の言うことはアクダイカーン様の言うことだと思って」
ゴーヤーンの言葉に、満はふっと馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「どうされました、満殿」
「別に。……あなたはアクダイカーン様じゃないから、そんなことは思えないだけ」
――全く近頃の若い者は。
つくづく、碌な者がいない。ゴーヤーンはそう思った。

「泉を精霊たちから守るのは当然ですが、ここにはまだ精霊が隠れているかもしれません。
 もし精霊を見つけたら直ちに始末してください。
 それが泉を管理する者の勤めですよ」
「……」
薫が初めてゴーヤーンの方を見た。

「なんですか、薫殿?」
「精霊ってどんな姿をしているのかしら」
「見れば分かりますよ。小さくて弱々しい生き物ですから。
 あなた方のお力なら一瞬で始末できるでしょう」
「当然ね」
満が呟く。
「ここには、何もないのね」
薫がぽつりと言った。
「何も? はて――」
「枯れた泉が広がっているばかりで」
おかしな事を言う。ゴーヤーンは内心首を傾げた。
ダークフォールの外の世界など知らないのに、枯れていない泉でも求めているというのか……、
しかしゴーヤーンはそんな小さな疑問など早々に頭から追い出した。

「そうでございます。これこそがアクダイカーン様の望む滅びの世界。
 アクダイカーン様がなさったことですから、これでいいのでございますよ」
「そう。アクダイカーン様がなさったこと……」
「それでは満殿薫殿、泉の管理をしっかりとお願いいたしますよ」
座ったままの満と薫を残し、ゴーヤーンは次の厄介な仕事に向けて
水の泉へと飛び立った。

――まあ、こういう面倒なことも後わずかの辛抱です。
ゴーヤーンは太陽の泉などすぐ手に入ると考えていた。非力な精霊どもには
滅びの力に対抗することなど何もできない。
アクダイカーンの権威で世界を滅ぼした後には、アクダイカーンもろとも
部下達も消し去る。そうなれば滅びの世界はゴーヤーンの手に落ちる。

その頃カレハーンがフラッピとチョッピを追って大空の樹の下に行き、
伝説の戦士プリキュアの姿を目撃していることなどゴーヤーンには
知る由もなかった。

ここから次々と面倒な仕事が自分に降りかかってくることなど、
ゴーヤーンにはまだ想像もできなかったのである。


-完-

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