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「それは……!」
三人が土星で収穫してきた穀草を見たガーディアンサターンは驚きの声を上げた。
「これがどうかしたの?」
プルートの問いに、
「これはすぐにプリンセスにお渡しください。土星で収穫された作物は
 土星の一族が一番望んでいるものなのですから」
どういうことかと三人が聞く前に、問答無用だから早く行けとばかりに
ガーディアンサターンは三人をほたるの待つ家へとテレポートさせた。

 * * *

「ほたるちゃん、食べられそうかい?」
家ではほたる以外の一同は夕食を終え、ほたるは部屋に持ってきてもらった
お粥を食べようと頑張っているところだった。咳止めを飲んだものの
やはり咳は出て、中々食べられそうにない。

――食べた方が身体にはいいんだよな。でも、無理はしない方がいいし……
まことは悩む。ほたるの部屋にはうさぎとちびうさの他に内部戦士一同が――要するに、
今この家にいる全員が集まっている。少し狭い。

その狭い部屋をますます狭くする現象が次の瞬間に起きた。
「わああああ!」
と声が聞こえたかと思うと、宙から突然プルートとウラヌス、ネプチューンの三人が
現れたのだ。
一番に落ちてきたプルートが下敷きになり、ウラヌスとネプチューンがその上に
積み重なる。
「あ、あのガーディアン、やることが乱暴じゃないか?」
「ちょっとなんか、ねえ」
「つまんないこと言ってないでさっさとどいて……」
三人の変身が解ける。突然現れた三人に一同は目をぱちくりとさせるが、
「あの、大丈夫ですか?」
まことが立ち上がろうとするみちるに手を貸した。
「ええ、ありがとう」
やれやれとはるかも立ち上がり、最後にせつながはあと立ち上がる。
「せつなママ……それは?」
ほたるはせつなが持っていた穀草を指さした。ごくんと唾を飲み込む。
身体の中がどくんと動いたような気がする。
「これは、土星で三人で育てたの。収穫してきたわ」
「せつなママ! 私にそれを!」
ちょうだい、という前に手が動いていた。身体がそれを求めている。狂おしいほどに。
ほたるはちびうさにお粥のどんぶりを渡し、
ほたるはせつなから与えられたそれをもぎ取るように受け取ると、
噛むのももどかしく丸のみにした。

「あああああーっ!」
身体の芯を貫くような叫びがほたるから産まれる。

土星の一族の始祖は農耕神である。その血を引くセーラーサターンも、
命を生み出す農耕と本来は縁が深い。
長い経緯の果てに、セーラーサターンの内にあるバランスは破滅の方に
大きく傾いていた。

土星で育った穀物は、土星の一族が求めてやまなかったものだ。
土星を豊かな農園のようにすることが彼らの望みであったから。

待ち望んでいたそれは、セーラーサターンの中の極端なバランスを
少しだけ修正した。ほたるの身体を溶かさなくてもすむ程度に。

叫びが止まり、ほたるはがくんと俯く。
「ほた……る……? 大丈夫……?」
せつなとはるか、みちるが恐る恐る近づくと、
「うん……なんだかすごくすっきりした」
とほたるは顔を上げた。その表情は穏やかで、三人はほっと安心した。

「ほたるちゃん、本当に大丈夫なの?」
無理しているのではないかとちびうさが尋ねると、
「うん、さっきまでと全然違うの。身体にまた、別の力が入ったみたいな気がして」

「これにて一件落着、みたいね」
ドア近くにいた美奈子が明るい声で立ちあがる。
「じゃ、私たちは帰りましょうか」
亜美はまことの隣に立った。

「いや、もう遅いし……泊まって行ってくれて構わないよ。
 帰るなら僕が送るけど」
「あ、じゃあせっかくだし泊まって」「うさぎ!」
レイがうさぎの言葉を止めた。

「えー、だって」
不満そうなうさぎに、
「今日は家族水入らずにしてあげるくらいの気遣いは持ちなさいよあんたは」
「も〜、うさぎってばぁ」
ちびうさにも呆れられ、「そんなこと言ったって」とうさぎは言い返す。
はるかはくすくすと笑うと、

「じゃあ子猫ちゃんたち、送って行くよ。悪いね、こんな夜遅くまで
 ほたるの面倒見ててもらって」
いえいえ、そんな。いいんですよ。
うさぎ達は口々にそう言って、「じゃあね、ほたるちゃん」と部屋を出ていく。
「ありがとうございました」
「ほたるちゃん、また明日ね」
最後にちびうさが手を振って部屋を出て行った。


うさぎ達がはるかの運転する車に乗って家を出ていくと、家の中は急に
いつも通りの静寂に戻った。

「ほたる、本当に大丈夫?」
せつながほたるの寝るベッドに座り額に手を当てる。
熱はわずかにあるかもしれないがその程度だ。先程から咳も出ていない。
「うん、大丈夫」
「良かった」
ベッドサイドの椅子に座るみちるが温かい笑みを浮かべた。

「ねえ、せつなママ、みちるママ」
ほたるはベッドから上体だけを起こすと少しもじもじとして、
「今日はありがとう……ひどいこと言ってごめんなさい」
と小さな声で謝った。

「ほたる……私たちこそ、ごめんなさい」
「……謝らないで、せつなママ……」
せつなは腕を伸ばすと、泣きそうなほたるの頭をよしよしと撫でる。
みちるはその光景をほほえましく見ていたが、「でも、」と念を押した。

「帰ってきたらはるかとも話してあげてね。ああ見えて気にしていたみたいだから」
うん、とほたるは頷いた。


「ほたる、お粥は食べられる? 温めてきましょうか?」
みちるが机の上にちびうさが置いていったお粥を手に取る。
「あったかい方がいいなあ」
ほたるは少しだけわがままを言ってみた。はいはい、と笑ってみちるは台所に向かう。

「せつなママ、雪、まだ降ってる?」
「そうね――」
せつなは立ち上がると、カーテンを開けて外を見た。
「ああ、やんでいるわ。朝になったら融け始めるわね、雪も」
一週間もすれば雪はほとんど融けているだろう。せつなはそう思いながらカーテンを閉めた。

-完-

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