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はるか達三人が去った家で、ちびうさとうさぎはずっとほたるの部屋にいた。
「ほたるちゃん……」
ちびうさがベッドわきの椅子に腰かけ、ほたるの手を握る。昔、ミストレス9に銀水晶を
取られた時に衛に手を握ってもらっていたことがある。ちょうどその時のように
ちびうさはほたるの手を握っていた。

あの時、ミストレス9から自分の魂を守ってくれたのがほたるだ。

"スーパーセーラーちびムーン。あなたと一緒に戦うために!"
デッドムーンサーカス団がやって来たとき、急成長したほたるは
"大きくなったのね"と聞いたちびうさに向かって凛々しい顔でこう言った。

――ほたるちゃんはいつだって、私を助けてくれた……
今度は、私がほたるちゃんを助ける。泣きそうになりながらちびうさはそう思った。
ちびうさの後ろにいたうさぎがそっと右腕でちびうさの肩を抱き、
左手をほたるの手を握るちびうさの手に添える。

「うさぎ……」
「大丈夫よ。ほたるちゃんはきっと」
うさぎの柔らかい声音にちびうさはうんと頷いた。

――きっと大丈夫。プーやはるかさんやみちるさんが何か見つけてきてくれる……
ちびうさはほたるにそう呼びかけながら目を閉じる。と、ほたると繋いだ手から
何かのヴィジョンが頭の中に流れ込んできた。


――どこ、ここ……
見たこともない荒涼とした星。靄のようなものが辺りにかかっている。
わずかに風がふいて靄が薄くなったとき、人影が見えた。
――セーラーサターン!?
その姿はたしかにセーラーサターンとしてのそれだったが、しかしほたるでないことは
分かった。うつろな目をした彼女は自らの立つ大地にその鎌を突きたてた。
「うああああああああーっ!」
悲鳴とも咆哮ともつかない彼女の叫びは大地と天を縦に引き裂いた。

 * * *

「それで、絶望したセーラーサターンの破滅の力が暴走してどうなったんだ」
黙り込んでしまったガーディアンサターンに、ウラヌスが続きを話すように促す。

「彼女自身が、もはや魍魎と思われても仕方のない状態でした。他の惑星をも滅ぼそうと
 したのです。他の惑星のセーラー戦士たちは当然彼女と戦いました。あなた方の祖先、
 外部太陽系の戦士たちがその中心となったはずです」

 * * *

ちびうさのヴィジョンには、セーラーサターンが漆黒の宇宙を駆け闇雲にその鎌を
振り回す狂気の姿が映った。
他のセーラー戦士がサターンを止めようとする。
セーラー戦士たちが放つわざとサターンの破滅の力とがぶつかり合う。

やがて、セーラー戦士たちの背後に白い高貴な光が出現する。

 * * *

「その戦いに終止符を打ったのは、白い月の女王でした。彼女の力はサターンを正気へと
 戻らせ、そして封印しました」

 * * *

鎌を取り落とし土星の大地に倒れたセーラーサターンと、天空からそこに降りてくる
月の女王の姿が見える。
正気に返ったサターンは、もう立ち上がることはできなかった。
"こんなはずではなかった……"
彼女は倒れたままにそう言って涙をこぼした。
"私はこの星を守りたかっただけだったのに……いつしか私自身が魍魎のように……、"
"分かっています。あなたの気持ちは、よく分かっています"
白い月の女王は少女のそばに屈みこむと優しくそう声をかけた。
"早く……楽になりたい……"
女王の手がサターンの胸のリボンに触れ白い輝きで彼女の身体を包む。
"これよりあなたを封印します"
サターンは目を閉じて頷いた。そうしてくれと言うかのように。
"でも、忘れないで……私たちがあなたの仲間であることを。
 私たちがあなたを頼りにしていることを。
 あなたは私たちの最後の切り札。
 この太陽系に最大の危機が訪れた時、きっとあなたの封印を解きます。
 その時は、その破滅の力ですべてを滅ぼしてください。
 あなたがもたらす破滅の上にしか産まれないものもあるのですから"
そして、輝ける白い光はサターンを自らが滅ぼした母星へと封印した。

 * * *

「その約束は、封印されたセーラーサターンにとっては最後の希望でした。
 自らの破滅の力に意味があると保証してくれる、唯一のものでした。
 そして長い時間の末、シルバーミレニアム崩壊の時にその約束は現実のものとなったのです」
ガーディアンサターンの話をウラヌス達三人は複雑な思いで聞いていた。

 * * *

ヴィジョンはセーラーサターンの封印の場面で終わった。ちびうさは涙を流していた。
――ほたるちゃんっ!
ほたるの手を握る手に力がこもる。

――私は、ほたるちゃんがそばにいてくれればそれでいいんだよ。
  切り札なんかでなくたって、ほたるちゃんが一緒にいてくれればそれで……!

ちびうさの身体からほたるの身体に温かい力が流れ込んだ。

 * * *

はあ、と水野亜美はため息をつく。
「自由に使っていい」と言われたせつなの部屋でコンピューターをいじり
最近の雪について様々なデータを使用して解析してみたものの、
普通の異常気象という答えしか出てこない。
何か邪悪なものの影響であるほうが、ある意味、対処はしやすいのだ。
だが残念ながら単なる自然の気まぐれであるらしい。

椅子に座ったままパソコンデスクから少し離れ、亜美は部屋の中を見回した。
本が多い。物理学や天文学の本が大半だったが、育児の本や教育・健康の本が
並んでいるのはほたるの成長に合わせて集めたのだろう。

そういった市販の本の中に並んで、アルバムも本棚に入っているのが亜美の目に
飛び込んできた。ピンク色の背表紙には何も書いていない。
思い切って取り出して開いてみると、赤ちゃんの頃のほたるの写真が
眼に飛び込んでくる。

――ほたるちゃんのアルバムなのね。
当然、はるかやみちる、それにせつな自身がほたると一緒に映っている写真も
あちこちにあるが、どの写真にもほたるは映っていた。
赤ちゃんの頃、それから少し大きくなって、また更に少し大きくなって。

あるページをめくってみた時、亜美は思わずくすりと笑った。



――うーん。……
台所にいるまことは少し悩んでいた。今日はみな泊まるのだろうから
その夕食のメニューを考えておこうと思っていたのだ。
食材は大体見たので、何と何と何が作れるかその算段は立った。
どこから食器を出せばいいか、それも見ておこうと思ったのだが。

普段使いの食器類まで全部ブランド物で固めているとは思わなかった。

――みちるさんの趣味だな、こりゃ。
いかにも高そうな食器が出てくるたびにまことはため息をつく。
こんな食器で食事ができたらさぞ素敵だろうとは思うが、
――美奈子ちゃんとかうさぎちゃんとか、割らないかなあ……
その点が心配だった。

食器には不思議な法則がある。高いものから割れていく。
思い切って買った高いお皿はすぐに割れるのに、シールを何枚か集めて
無料でもらったお皿はいつまでも残っているものなのだ。

――ん〜、もうちょっと安そうなもの……
安くて、いつまでも残っていそうな食器。
それを求めてまことは棚を漁っていた。

「ん?」
意外なものを発掘して、まことは思わず声を上げた。
三歳くらいの子供用の小さな食器だ。熊やうさぎの絵が描いてある。

「うわっ、可愛いなあ」
見ていて思わず顔がゆるむ。きっとほたるがまだ小さかったころに使っていたのだろう。
今は他の三人と同じサイズの食器を使っているようだが。

「亜美ちゃん亜美ちゃん、ちょっとちょっと」
台所の向こうの廊下を亜美が歩いていくのが見えたので、まことは手招きして亜美を
誘い入れた。
「見てみて、これ。可愛いの」
その小さな食器を見て亜美の顔もほころんだ。

「かわいい。ほたるちゃんのかしら」
「だろうなあ。ほーんと、こんな食器使ってた頃もあったんだな」
まこと達内部戦士は、ほたるが赤ちゃんとして転生したのを見たきりで
その後小学生くらいまで成長するまで彼女に会っていないので、
小さい頃のほたるの印象があまりない。
こうして食器を見ていると、彼女が他の三戦士と一緒に育ってきたことを実感する。

「さっきね、せつなさんの部屋でアルバム見つけたの」
内緒話をするように亜美が言った。
「アルバム?」
「ほたるちゃんのアルバムだと思うわ。赤ちゃんの頃からの写真がずっと貼ってあったの」
「可愛かった?」
「ええ、勿論」
亜美は即答した。
「それでね、その中にカーネーションの折り紙が貼ってあるページがあったの」
「折り紙?」
「母の日に、って書き添えてあったから、きっとほたるちゃんがせつなさんにプレゼント
 したんだと思うの。薔薇みたいな花びらの押し花もあったわ。
 せつなさん、大事にとってたのね」
「そっか……」
まことは遠くを見るような目をした。
「まこちゃん?」
亜美は不思議そうな表情を浮かべた。まことの反応が意外だったから。
可愛いとはしゃぐかと思ったのに。
「お父さんと、お母さん達なんだな本当に」
あ、と亜美は思う。まことを傷つけてしまう話題だったかもしれない。
「まこちゃん、その……」
ごめんね、と言おうとしたがその言葉はまことの微笑と声にかき消された。

「お父さんとお母さん達から頼まれたんだから
 しっかりほたるちゃんの面倒みなくちゃな」
ええ、と亜美は大きく頷いた。

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