前へ 次へ

「……どうする」
ほたるをベッドに寝かせて戻ってきたはるかはどさりとソファに腰を下ろした。
みちるもせつなもぼんやりと放心した表情を浮かべていた。
はるかが座るソファの隣には先刻からみちるが座っている。
せつなはというと、窓際に立って庭を眺めていた。雪は相変わらず降っている。

「……タイタンキャッスルに行ってみない?」
視線は庭の方に向けたままでせつなが提案する。先ほどのことには何も触れないまま。
「タイタンキャッスル? 土星のキャッスルね。でもそこに何が……」
あるというの、と言いかけてみちるは口を噤んだ。
ほたるの今の状態が土星の戦士の運命だというなら、それに対処する鍵は確かに
土星にしかないかもしれない。

「あそこには今、守護力精霊のガーディアンサターンもいる筈。何か知っているかもしれないわ」
「ほたるはどうする?」
はるかはちらりと彼女の寝室の方に目をやった。
「あの状態だと、連れて行くわけにも置いて行くわけにもいかないだろう。
 僕たちのうちの誰かが残るか――」
「それは得策ではないわね」
せつなが身体ごと振り返ってはるかとみちるの方を見た。
「土星の戦士の運命を変えようというのだから。三人全員で行かなければ、恐らくは」
「……ほたるのことはレイ達内部戦士に頼みましょう」
みちるがすっと立ち上がる。
「私たちだけでは先に進めないわ」
はるかとせつなにそう言って、みちるは電話をかけ始めた。


みちるからの知らせを受けて、内部戦士たちとうさぎ、ちびうさの六人はすぐに――といっても、
雪の影響で時間はかかったが――ほたる達が住む家に集まってきた。

「プー! ほたるちゃんは!?」
挨拶もそこそこに駆け込んできたちびうさに、せつなは「スモールレディ」と人差し指を
自分の唇に当てて静かにするようにと合図を送る。

「こちらへ」
とせつなは一同をリビングへと通すと、改めて事態の説明をする。
さきほどほたるが半狂乱になったことには触れないでおいた。
「……私たちはこれからほたるの母星にあるタイタンキャッスルに向かいます。
 それで、その間ほたるを見ていてほしいのです」
「もちろんだよプー!」
ちびうさが勢いよく立ち上がる。
「それで、ほたるちゃんは!?」
彼女は先ほどから姿の見えないほたるのことが心配で堪らないのだ。
「部屋にいるわ。まだ寝てる――意識がないといった方がいいかもしれないけれど」
ほたるの様子を見に彼女の部屋に行っていたみちるがリビングに戻ってきた。
「部屋に行ってもいいですか」
まことが立ち上がると、
「ええ」
とみちるが案内する素振りを見せたので一同はみちるについてぞろぞろとほたるの部屋に向かおうとした――、
と、リビングの隅で壁に寄りかかって立っていたはるかが最後尾の美奈子の腕を後ろから
掴んだ。

「美奈子、ちょっとこっちへ」
「はるかさん?」
二人しかいなくなったリビングではるかは美奈子の首に腕を回してぐいと
自分の方に抱き寄せる。
「はは、はるかさん!?」
取り乱す美奈子の耳元に口を寄せてはるかは囁く。
「君には伝えておきたいんだ」
一体何を。はるかさんにはみちるさんがいるのに。
美奈子の頭はぐるぐると色々なことを考え始めたが、
「さっき、ほたるが『私を殺して』って言ったんだ」
はるかの言葉に彼女の頭は急に内部戦士のリーダーとしての冴えを取り戻した。
「どうしてですか?」
はるかは手短に先ほどのことを説明する。それから美奈子の首から腕をはずすと、

「おちびちゃんがいたからせつなもこの事は話せなかったんだと思う。
 ただ、このことは頭に入れて――ほたるが意識を戻した時、荒れたりするかもしれないから
 そうしたら気をつけてほしいんだ」
「分かりました」
私たちに任せて下さい。そう言うと、はるかは少しだけ安心したような表情を浮かべた。

ほたるの意識が戻った場合、解熱剤や咳止めは多少効くかもしれない。
食事をするなら、台所の冷蔵庫と地下に食材が準備してある。
その他、この家のどの部屋の物も自由に使ってもらって構わない――と、
三人はうさぎ達にそう言ってタイタンキャッスルに向けて出発した。

 * * *

「ここがタイタンキャッスル」
変身した姿で三人が降り立ったのは土星のすぐ近くに浮遊するサターンの城。
三人とも初めてここに来たはずだったが、どこか既視感を覚えた。
遠い昔に来たことがある。言葉にはせずとも三人ともそう感じていた。
「ガーディアンサターンを探そう」
ウラヌスの言葉と共に城の奥へと進んでいく三人は、ある部屋でぴたりと立ち止まった。
バルコニーに続く出口のある、ホールのような部屋。

「ここは……」
思い出した。シルバーミレニアム崩壊の時に三人が呼び集められた場所だ。
セーラーサターンはここに召喚されてきた。
「プリンセスウラヌス、プリンセスネプチューン、プリンセスプルート……」
消え入るような声のした方に三人が視線を向けると、バルコニーから
ふわふわとガーディアンサターンが飛んできた。ひどく憂いに満ちた表情で。
状況は分かっているのだろうと三人は察した。
「単刀直入に聞くわ。ほたるを助けたいの。どうしたらいい?」
ネプチューンの言葉に、ガーディアンサターンは目を伏せた。

「これは太古の昔からのセーラーサターンの運命なのです」
「どうして? どうしてサターンはそんな運命を背負うことになったの?」
「セーラープルート、冥王星の一族たるあなたにはクロノス神の血が流れているように、」
ガーディアンサターンは諭すようなゆっくりとした口調で話し始めた。
「土星の一族たるセーラーサターンにはその始祖たる神の血が流れています。
 天王星の一族の始祖たる神が天空を司り、海王星の始祖が海を司るように、
 神はそれぞれ司るものがあるのですが、土星の始祖は農耕を司る神です」
「農耕?」
プルートが聞き返した。てっきり、破滅を司る神という言葉が来ると思って聞いていたのに。
「はい、農耕の神です。土星の守護を受けるセーラーサターンが持つ鎌も、
 本来は農業用なのです」
三人は思わず顔を見合わせた。サターンが持つ鎌はどう見ても農業用には見えない。
武器としては使いやすくても、畑に持ち出したら使い勝手が悪くて仕方がないだろう。

「プリンセス、あなた方のお気持ちはよく分かります。今のサイレンスグレイブは
 農作業に使える物ではありませんから。……セーラーサターンは、本来は再生を司る
 戦士でした。それは始祖たる神が大地に作物を実らせる、農耕の神で
 あったからです。でも、それは変わってしまった。
 セーラーサターンの持つ性質の中で、破滅の力ばかりが増大してしまったのです」
それは、どうして。ウラヌスの問いにガーディアンサターンは滑らかに答える。

「シルバーミレニアムよりも更に古い時代のことです。月の一族が月を出て、
 太陽系に広がろうとしていた時代のことです。その頃、各惑星には妖魔に良く似た
 魑魅魍魎の類が跋扈していました。各惑星に辿りついた人々の最初の仕事は、
 魍魎を退治することであったのです。もちろん、その際に各惑星の守護を受ける
 セーラー戦士の働きが大きかったことは言うまでもありません」
話が核心に近づいてきたのを感じて三人はガーディアンの次の言葉を待った。

「当時のセーラーサターンもまた、土星から魑魅魍魎を追い払うために戦っていました。
 けれども土星に巣食ったそれらの力は殊に強く、セーラーサターンはその戦いのために
 破滅の力を増大していくことが必要でした。……そして、代を追うごとに、セーラーサターンの
 破滅の力は強くなっていったのです。しかし同時にその代償として、
 セーラーサターンは次第に短命になっていきました」

「そして、その時が来ました。あるセーラーサターンの時に、破滅の力は頂点を
 極めました。彼女は自分の寿命が短いこともまた知っていましたから、土星の魑魅魍魎を
 自分の代で一掃しようとしました。そして、その破滅の力を全力で振るったのです。
 それは、確かに土星の魑魅魍魎をすべて滅ぼしました。同時に、土星のわずかな領域に
 住んでいた人々をも滅ぼしました。母星を死の星にしてしまったことに気づいた
 サターンは絶望し、暴走する破滅の力を抑えられなくなりました……」

前へ 次へ
セーラームーン置き場へ戻る
indexへ戻る