「う〜ん」
ほたるが自分の部屋のベッドの上でごろごろとしながらうんうん唸っているのを、
せつなは素知らぬふりをしてコンピューターをいじっていた。
最近地球に近づいている彗星の軌跡が興味深いので
あれやこれやと解析しているのだ。これはセーラー戦士としての使命ではなく、
彼女の趣味のようなものである。

「う〜ん」
ほたるがまたわざとらしく大きな声をあげているがせつなは全くの無視。
ようやくほたるがベッドの上で起き上がり座った。

「ねえ、せつなママ?」
「どうしたの?」
画面から目を離さずにせつなは答える。

「学校でね、粘土で大切なものを作りなさいって課題が出たのね」
「へえ」
この数値を少し直した方がシュミレーション結果と実際がより合致するだろうか、
なんてせつなが考えていると。
「何作ったらいいと思う?」
「なんでも、あなたの好きなもので」
「サイレンスグレイブでもいい?」
「そうね、いいんじゃ――えっ!?」
せつなが大慌てでベッドの上のほたるを振り返った。ほたるはそれを見てしてやったりとばかりに笑った。

「やっとせつなママがこっち見た」
なんだ、と言ってまたコンピューターの画面に向き合おうとするせつなを
「えー、こっち見て」
というほたるの声が邪魔をする。

「サイレンスグレイブはやっぱり駄目だと思う?」
あきらめてせつなはほたるの話にしばらく付き合うことにした。

「そういう課題って、たいてい作品ができた後にこれは何なのかとか、
 どういう思い出があるのかとか聞かれるものでしょう。ほたるは答えられるの?」
「思い出はたくさんあるけど――」
普通の人に話せる思い出ではない。ううん、とほたるは首をひねり、

「じゃあ、プルートのガーネットロッドはだめ?」
「同じよ。思い出を話せる?」
「ママの大好きなロッドです――とか」
「そうすると、見せてくださいという子供たちが保健室に来そうだから」
そうか、とほたるは思う。せつなはほたる達の通う十番小学校で
保健室の先生をしているのだ。ほたるがそんな話をすれば、すぐにそうやって
見にいく生徒が出てきそうである。

「うーん」
ほたるはごろんとベッドに寝転がる。
「物じゃないとだめなの? スモールレディやダイアナをモデルにしてみたら?」
「それがね、生き物はだめなんだって先生が。物じゃないと」
「そうなの」
そういうテーマの課題なのだろう。

「はるかパパのスペースソードは……」
「それも同じでしょう。それだったら、みちるのディープアクアミラーの方が」
一見普通の鏡のように見えるはずだ。
「そっか」

ほたるはベッドから起き上がると、
「みちるママに貸してもらってみる。ありがと、せつなママ」
と言って部屋からぱたぱたと出て行った。頑張ってねとその後姿を
見送ってから、せつなはまたじっくりと彗星の軌道の分析に取り組むことにした。



――ん〜……思っていたより細かい飾りが……

ほたるはみちるにディープアクアミラーを貸してもらってさっそく自分の部屋で粘土細工に
取り組んでいたが、
ほたるの記憶にあるよりもこの鏡はずっと細かい彫刻が施されていた。
だからこそ、素敵にも見えるのだとも分かったのだがその意匠をひたすらに模倣していると
だんだん肩や首が凝ってくるような気がする。
全体の二割ほどが終わったところでふう、とほたるは一息入れた。
鏡であることは分かるが、本物のようにきれいな鏡かと言われるとまだまだだ。

――せっかくなんだから、せつなママっぽいところやはるかパパっぽいところも
  入れたいなあ……

そんな風にほたるは思う。かといって、鏡の形を変えるわけにもいかないし、
と思ったところでいいことを思いついた。

――そうだ。キーホルダーみたいな感じでちっちゃいガーネットオーブや
  スペースソードがついている感じにしてみよう。

頭の中で想像をめぐらし、うん、可愛くなりそうとおもうとほたるは
大きく深呼吸をしてからまた制作に取り掛かった。

「あの、冥王先生?」
「はい、どうかしましたか?」
数日後。せつながいる保健室にほたるの担任の先生がわざわざやってきた。
「ほたるちゃんのことなんですけど」
「ほたるが何かしましたか?」
「あの、ほたるちゃんが粘土で作った鏡に」
「はい」
「刃物や何かが付属しているようなんですけど」
「……はい?」
せつなは困惑の表情を浮かべる。担任の先生はもっと困惑していた。
「あまりおうちに刃物があってほたるちゃんが触れるような環境だと……」
「それは大丈夫だと思うんですが……あとでほたるに聞いてみます」
担任の先生が保健室を出てから、ふうとせつなは窓の外の空を見上げた。

――刃物って、ほたる、そんな危険なものに興味があったのかしら……

あとで、注意しながらほたるに聞いてみなければいけない。
保護者になるのは大変だとせつなは思った。

-完-

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