それはちびうさの一言がきっかけになって始まった話題だった。

デッドムーンを倒し、再び平和を取り戻した町。
ほたるはちびうさと一緒に十番小学校に通うようになり、
せつなはそこの養護教諭として勤務する生活を送るようになっている。

せつなは仕事で遅くなることもあるが、ほたると一緒に家に帰ってくることも多い。
一度家に帰ったちびうさが彼女たちの家に遊びに来ると、一気に家の中の空気は華やぐ。
そばにいるだけで明るい気持ちになれるプリンセス。
それこそがスモールレディなのだとせつなは以前ほたるに力説したことがある。


この日もちびうさはほたる達の家に遊びに来ていて、たくさん出たという
宿題をほたると二人で――主にちびうさがほたるに教えてもらって――片づけていて、
一息入れようとせつなにおやつを出してもらっていたところだった。

「ねえねえ、プー」
「なんです? スモールレディ」
ほおばっていたクッキーを飲み込んで紅茶を一口飲んでから、
ちびうさは思いついたようにせつなに話しかける。

ちびうさとほたるの二人は今までほたるの部屋で勉強していたのだが、今はリビングに
降りてきてそこでせつなと三人でテーブルを囲んでいる。

「地球の守護を受けたセーラー戦士っていないのかなあ?」
大きな目をくるくるとさせてちびうさは向かいに座るせつなの顔を見上げた。
「地球の、ですか」
せつなは考え込むような表情を浮かべる。

「なんか不思議なんだよね、まもちゃんはいるけど何で地球にだけセーラー戦士が
 いないのかなって」
「それは地球が特別な星だから?」
ほたるがちびうさにともせつなにともつかず尋ねると、
「特別な星だから、セーラー戦士がいてもいいんじゃないかなあ?」
ちびうさはまた、不思議そうな顔でせつなを見た。

「……そうですね」
暫くの間黙っていたせつなだったが、ようやく口を開く。
「地球にセーラー戦士がいてもよかったかも知れません。もしかすると、そういう世界も
 選び得たのかもしれませんね」
「選び得たって? 誰かが選んだの? ……前世のプーたちとか?」
「いいえ。さすがに私たちでは」
せつなは微笑を浮かべる。

「この世界では、地球は外からは白い月の力、内からはエリシュオンの力により
 守られています。それはこの地球が生命に満ち溢れた太古の昔よりずっとそうなのです。
 でも、地球がその力を与えたセーラー戦士がこの星を守る、という方法も
 あったのかもしれませんし、どこか別の時空では地球がそういった手法を選択して
 いるかもしれませんね」
「ふうん……」
ちびうさはせつなの言葉を半分納得したような表情で聞いていたが、

「もし地球のセーラー戦士がいたらどんな子だったのかな?
 セーラーアース? セーラーガイアとか?」
「さあ……どうでしょうね」
せつなはしばし考えたが、
「きっと優しい戦士でしょうね」
と答えた。
「優しい?」
ちびうさが首をひねってせつなの言葉を繰り返す。
「ええ。きっとこの地球で見る朝焼けの色が似合う、美しく優しい戦士でしょう」
それは例えばキングのような――とまではせつなは言わなかったが、
頭にあるのが彼であることは間違いがなかった。

「ふうん。ちょっと会ってみたいかも」
せつなはそんなちびうさにくすりと笑うと、
「私の想像ですし。ほかの時空に本当に地球のセーラー戦士がいるとは限りませんよ?」
と答える。

ほたるがずっと黙っていることにせつなは全く気づいていなかった。


ほたるの機嫌が悪い。
せつながそのことに気づいたのはちびうさが帰って少ししてからのことだった。

「ほたる、今日の夕食を――」
作るのを手伝って、とせつなは言いかけたがほたるがむすっと黙っているのに
気づいて口をつぐんだ。

「ほたる、どうかした?」
「別に――、」
何もない、と言いたげなその表情がすでに不機嫌である。
「そんなことないでしょう」
ほたるは無言でせつなに背を向けた。
「……私、何かしたかしら?」
ほたるの態度の原因は自分にあるらしいということが
せつなには薄々察することができた。
だがその原因が何であるかまではわからない。

「……何もしてないよ」
ふてくされた口調でそう答え、部屋に戻ろうとするほたるの肩をせつなは
後ろから掴んだ。
「何もしてないならどうしてそんな態度なのかしら?」
「別に。いつも、こんなだよ」
「いつもそんなじゃないでしょう? あなたは。いつも、もっと素直でしょう」
「……」
ほたるは黙って俯いた。ぼそぼそ、と何かを呟いたがその言葉はせつなには
聞き取れなかった。

「聞こえないわ、ほたる」
「……どうせ私は破滅の戦士よ……」
「えっ?」
「どうせ私は破滅の戦士よ。せつなが考える地球の戦士みたいに優しくなんかないわ!」
「何を言って」
呆れた、というため息をせつなは一つする。

「せつなはそういう戦士のほうが好きなんでしょ」
と、あからさまに拗ねた声でほたるが答えるのを聞いてせつなは彼女の背後で
苦笑しながら、
「あなたも優しいでしょう」
と軽く膝を折ってほたるの肩を背後から抱いた。
「慰めなんかいらないわ」
「慰めているつもりはないわ。事実を言っているだけ」
「私のどこが優しいのよ!?」
「アマゾネスカルテットを助けたところね」
即答するとほたるは一瞬虚をつかれたようだったが、
「誰でもするわよ」
「そうでもないわ、ほたる。あの場で彼女たちの本質に気づいていたのはあなただけ」
「だから!」
ほたるは苛立って答える。
「気づけば誰でもそうするでしょ!」
「だから」
せつなは立ち上がった。ほたるはきっとその顔をせつなに向ける。
「気づけるのも優しさですよ」
柔らかい声でそう言って、せつなは半ば強引にほたるの身体を自分の方へと
引き寄せる。
ほたるの顔はせつなの腰あたりに押し付けられるが、ほたるは抵抗はしなかった。

「私は土星のセーラー戦士が大好きですよ。強い優しさを持ったあなたが」
ほたるは何も答えなかった。
ただ、きゅう、と腕をせつなの腰に回して顔をせつなの身体に押し付ける。
せつなは黙って、ほたるの気がすむまでそうさせておいた。

-完-

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