前へ

八、 エピローグ

「やれやれ」
咲たち四人は高校を無事に脱出して帰路についた。予定の時間よりだいぶ遅くなってしまったが、
まだ街は明るい。
四人はあの街灯の下を通って駅に入り、電車に乗った。

「……ねえ。あれで良かったのかなあ?」
吊革につかまって四人が一列になると、咲は左右に首を振りながら満と薫、舞に尋ねる。
「あれで、って?」
満が聞き返すと、
「『よくあることだから』って言われて思わず納得しちゃったけど、何かこう……
 止めるとかなんとかした方が良かったんじゃ」
「……ええ」
咲の声を聞いて、舞が俯くように小さな声で答えた。
「あの学校は何だかすごく……変わっていたわ。もしかすると、まだまだ何か。……」
舞はうまく表現できないようで言葉を探すかのように空中に目を泳がせたが、
「まだまだ何か、不思議なことが隠れているのかもしれないって思うの」

咲はお節介である。困っている人がいれば助けようと思うし奇妙なことがあれば
解決できないか考える。
そんな咲と一緒に行動するうちに、舞もいつしか多少のお節介さを身に着けていた。
二人は、ここで引き返してあの学校に戻ったほうがいいのではないかとさえ
考え始めていた。
小節あびると木津千里のことも気にかかるし、あの学校には一面獣だけではない多くの異変が
起きているような気がする。

「満はどう思う?」
咲は満の顔を覗き込むように見た。
「私は……、」
満は車窓の外を流れていく景色を眺める。
「あの学校はあそこでそっとしておいた方がいいんじゃないかと思うんだけど」
「何で?」
咲は少し意外そうだった。
「だって、あそこってダークフォールに似てるから」
満が咲と舞に視線を送る。
「えっ」「えっ」
突然滅びの国の名前が出てきて咲と舞は思わず大声をあげそうになった。
「ああ、別に世界を滅ぼそうとしてるとかそんなんじゃないわよ?」
満は涼しい顔でそう言ってから、
「ただ、雰囲気が少し似てるの。誰も彼もが好き勝手しているような感じが」
ねえ、薫。満がそう言いながら薫の方を振り返ると、
「……そうね。そうかもしれないわ」
と静かに答える。
「多分ね。あそこの学校は放っておいてもなるようになるのよ」
薫の言葉を聞いてから満が更にそういうと、
「そういうものかなあ」
と咲は呟いた。
「たぶんね」
満が繰り返すと、咲は舞と顔を見合わせて
「このまま帰っちゃってもいいのかなあ」
「……満さんと薫さんがそう言うならそうかも」
と言葉を交わし合った。

電車は次の駅に着き、しばらくしてからまた出発する。
四人には少しの間沈黙が落ちたが、

「ねえねえ、それでさ」
電車が動き始めてから咲が改めて三人の顔を見る。
「満と薫って、さっき何買ってたの?」
「え?」
満はぽかんとした表情を浮かべる。咲が何を言っているのか咄嗟には分からなかった。
「ほら、私と舞が店を出た後二人で残って買い物してたじゃない」
「あ」
満はようやく思い出した。咲の誕生日プレゼント絡みなので咲には隠さないといけないことも。

「え、ええと、そうね」
満は慌てて考えを巡らす。元来満はこういうちょっとした隠し事は得意なのだが
色々なことがあった後だからか一瞬理由を思いつかず、
「その、つまらないものよ、ほら」
と時間を稼ぎ、
「え〜、何? 教えてよ」
と更に食い下がってくる咲に、
「ほら、今度私と薫の部屋の模様がえする予定だからその材料ってだけよ」
と適当に誤魔化す。

「あ、じゃあ模様替えの時教えてよ。手伝うね!」
「そうね……」
後でまた誤魔化すことを考えないと。咲の笑顔を見ながら満はそう思った。

「これからまず合宿があって、そしたら今日買った浴衣着てみんなで夏祭りだね」
咲はこれからのことを考えているらしく、顔に満面の笑みが浮かぶ。
「……咲、勉強は?」
薫が釘を刺すように言うと、
「あ、うん、それもやります……」
と歯切れ悪く咲は答える。
「まず明日は勉強よね。合宿まだ始まらないし。合宿期間中はまともに勉強できないから、
 始めるまでにみっちりやっておかないといけないわよね。今日は息抜きで一日勉強してない
 わけだし……」
満が畳み掛けるように言葉を並べ立てると、咲は
「う、うん」
と気おくれしたように答えた。

「合宿で多分、忘れるところも出てくるからそうしたらまた勉強よね。
 夏祭りまでの間には夏休みの目標の範囲を一通り見ておくくらいするつもりでないと」
満が冷静な口調で更に言う。
「う……うん」
咲の声はだんだん小さくなってきた。満はそんな咲の様子を見てくすりと笑う。

「大丈夫よ、咲。一緒に勉強しましょ」
舞がそんな咲を見て笑いかけると、
「うん!」
咲は自分に気合を入れるように答えた。

すべてが日常に戻りつつあった。

 * * *

「ああ日塔さん。中学生がこの学校に入ってしまったらしいんですが見ませんでしたか?」
咲たちが学校を出てしばらくしてから教師の糸色望が地下室の前にいる奈美と可符香のところに
やってきた。
「さっき帰りましたよ。全員そろって」
「ああ、見つかったんですか。良かった」
と教師は胸をなでおろし、
「それでこの不穏な音は何ですか」
と地下室に目をやる。地下室からは相変わらず鈍い音や甲高い音が聞こえてきていた。
「千里ちゃんとあびるちゃんが青年の主張をぶつけあっています」
可符香が答えると、糸色望は「厄介な」と言わんばかりの表情を浮かべた。

「そろそろ時間も遅いので、早めに終わらせてほしいんですが」
「少しお待ちを」
常月まといが教師の影の中からすっと姿を現した。
「いたんですか」「ええ、ずっと」
と、いつもの会話を糸色望と交してから地下室の扉につつと寄って手を当て、
目を閉じて中の音を聞く。やがて、
「音が疲れてきていますから、もうじきに終わりますよ」
と糸色望の方に視線を向けた。
「ああ、そうなんですか。だといいんですが」
「ちなみに、この感じだとスコップが壁にめり込んで引き抜けなくなったところで終わるでしょう」

「なぜそこまで分かる」
日塔奈美が思わず呟くと、くすりとまといは笑い――まるで「このくらい分かって当然」と言わんばかりに――
教師の影の中に溶け込むように再び潜りこんだ。

「じゃあ私たち、ここが終わったらあびるちゃん達と一緒に帰ります」
奈美が担任教師にそう伝えると彼は、
「なるべく早めにして下さいね」
と言って職員室の方へと引き上げて行った。後ろには常月まといが張り付いている。
一面獣がいようといまいと、彼女が先生をストーキングすることには変わりがない。
それ以外のことも多少はするかどうかというだけで。


宿直室で置物のようにじっとしていた小森霧は、毛布を肩にかけたままゆっくりと立ち上がった。
前髪をシュシュでまとめて上に持ち上げるとその顔が露わになる。
この時期でもほとんど日に焼けることのない肌は白く、大きな瞳が二つ輝いていた。
――今日の夕食は何にしようかな……
と思いながら宿直室の冷蔵庫を開けて買い置きの食材のチェックを始める。
学校引きこもりの彼女が食事をとるのは当然この宿直室だ。
担任教師はここで食事をとることが多いので、料理には力が入る。

冷凍庫を開けた時、二本だけ残ったアイスキャンディーの箱が手に触れた。
――どうせなら二本食べて、この箱空けちゃいたいなあ。
ぎゅうぎゅうに詰まった冷凍庫を見ながらそう思ったものの、二本食べるのは多すぎる。

「こーもーりーチャン」
タイミングよくマリアが宿直室にやって来たので、
「マリア、アイス食べる?」
と声をかけると
「ウン!」
とマリアはぱたぱたと走りこんできた。
アイスキャンディーはイチゴ味とミルク味。霧は二本のアイスキャンディーを右手と左手に持って
身体の後ろで何度か入れ替え、
「どーっちだ」
とマリアに聞く。
「コッチ!」
マリアが元気よく指さした右手の方を出すとイチゴ味の方だった。
「そっちで大丈夫だった?」
「ウン!」
飛びつくようにしてマリアはアイスキャンディーを食べ始めた。


教室で漫画を描いていた藤吉晴美は、下書きが一段落したのでううんと伸びをして鉛筆を置く。
自分が描いた担任教師の総受け話をぱらぱらと読み返して満足そうにニャマリと笑うと、
丁寧に鞄の中に収める。
「晴美」
とアイスキャンディーを食べ終わってやって来たマリアがぴょこんと廊下から顔をのぞかせた。
「あ、マリアまだいたの? もう帰った方がいいよ、遅いから」
「ウン」
とマリアは頷く。
「途中まで一緒に帰ろうか……あ、千里待っててくれてるのかな」
晴美は、漫画を描き終えるまで待っていてと千里に頼んであったので
彼女の机に鞄が残っているのを見てきっと待っていてくれているのだろうと思ったものの、
「どこにいるんだろう」
と首を捻った。

「千里なら地下室にいるヨ。多分、あびるモ」
「え? ああ、そうなんだ」
事情を知らない晴美はふうんと頷くと、
「じゃあ、地下室行って千里たち呼ぼう」
と教室を出た。


「今日は中学生も来てくれて楽しかったね」
まだ途切れ途切れに不穏な音のする地下室の前、可符香がにっこり笑ってそう言う。
奈美は「可符香ちゃんはどんな状況でも楽しむんだから」と思いながら、
「向こうは楽しくなかったと思うよ?」
と答えた。


-完-

 ←押していただけると嬉しいです。



前へ


「プリキュアとコラボさせてみたとか」に戻る
indexへ戻る