「あ〜、ナッツおったんか。良かった」
「タルト?」
昼時のナッツハウス。ちょうど開いていた窓からタルトがするりと身を滑らせて
入ってきた。背中に大きな風呂敷包みを背負っている。
ナッツは人間の姿でこまちに借りた小説を読んでいたが、ぱたんと文庫本を閉じた。

「ココは?」
「シロップと一緒に二階にいるが」
「キュアドリームはん達は?」
タルトは落ち着きなくきょろきょろと店の中を見回した。
「のぞみ達なら六人で買い物に出かけている」
「それなら丁度ええ!」
タルトの目が輝く。ナッツは不思議そうにわずかに首をかしげた。
「実はな、ココとナッツに頼みがあってきたんや」
「頼み?」
「ココとナッツを男と見込んでの頼みなんや!
 お願いや、わいの頼みを聞いてくれ!」
カウンターの上でタルトはばっと両手をつく。
「……話を聞こう」
ナッツはタルトを抱き上げると階段を登った。


「は〜、いい買い物できたね〜」
のぞみ達六人が帰ってきたのはそれからしばらくしてのこと。
腕には買い物してきた店の袋を抱えている。
「ナッツ、ただいま〜って、あれ?」
真っ先にナッツハウスに入ったのぞみがナッツの不在に気づく。
「あれ? お店開いてるのにナッツどこいったんだろ?」
「上で一休みでもしてるのかしら」
こまちの言葉で一同は二階に上がってみる。――と、タルトの声が
聞こえてきた。
「あれ?」
「この声、タルトじゃない?」
振り返ったりんがそう言って頷いて見せる。
「なーんだ、タルトが遊びに来てたんだ」

「せやから、ココとナッツにはピーチはんたちとの仲裁をお願いしたいんや!」
「え〜、タルト、ラブちゃんたちと喧嘩したの?」
のぞみが部屋に入っていくと、ココとナッツそれにシロップは思わず引きつった
表情を浮かべた。
「キュ、キュアドリームはん!?」
のぞみに気づくとタルトはテーブルの上で飛び上がりそうに驚く。
「ラブちゃんたちと喧嘩したんなら、私たちが仲直りさせてあげるよ」
「え? せやけど……」
「大丈夫だって! ラブちゃんたちのことなら任せてよ」
のぞみはどんと胸を叩いた。
「そうね、タルトさん。まず事情を話してみたら? 私たちにもできることが
 あると思うから」
こまちが柔らかい声で促す。
「そやな……」
タルトは腕組みをすると、
「ドリームはん達の助けも借りるわ!」
と顔を明るくした。
「うんうん、そうこなくっちゃ! じゃあ早速事情を話してみてよ!」
ココとナッツ、シロップがやめとけやめとけと後ろでジェスチャーしていたが
タルトはそれに気づかずに話し始めた。


「わいな、ラビリンスとの一件が終わってからスイーツ王国に帰ってシフォンと
 婚約者のアズキーナはんと三人で暮らしはじめたんや。シフォンもすっかり
 アズキーナはんに懐いてな」
話を聞きながらくるみはぽんとミルクの姿に戻った。
「アズキーナ、タルトの事ずっと待ってたミル。良かったミル」
「そうなんや、やっと一緒に暮らせるようになったんや」
「……で、それで?」
りんが続きを促した。それでやな、とタルトはまた話を続ける。
「わいは第105王子や。ココやナッツとは違って、王子って言うてもほとんど人には
 知られてなかったんや。
 せやけど、キュアピーチはん達と一緒にメビウスと戦ってからはちょっとした
 有名人になってな」
タルトは少し胸を張った。
「まあそれはそうよね……それで?」
かれんの言葉に応えるようにタルトの表情が突然緩む。
「わい宛てのラブレターもたくさん届くようになってな」
「……は?」
一同がぽかんとした表情を浮かべたが、タルトは鼻の下を伸ばして話し続ける。
「このまえ王宮でダンスパーティーがあったんやけどな、わいにラブレターくれたって
 いう子がえらいわいのこと気に入ったみたいで……ついつい、一晩踊り明かして
 しもたんや」
「……」
のぞみ達一同はしらっとタルトのことを見る。
「それでアズキーナ放っておいたもんやからアズキーナが怒ってもうて……
 最近シフォンはすっかりアズキーナの味方やし、家追い出されてしもたんや。
 それでピーチはんにアズキーナのこと説得してもらおうと思うたら、
 ピーチはん達にもえらい勢いで怒られてな……、まずココとナッツに
 ピーチはん達を何とかしてもらおうと思ったわけや!」
びしっとタルトが人差し指をあげてポーズを決めた。ココとナッツ、シロップは
のぞみ達がどういう反応をするかと固まっている。

「……サイテー」
タルトの目の前に席に座っていたのぞみががたんと椅子を蹴るようにして立ち上がった。
「へっ!? いや、けどなドリームはん……」
「そんなの最低だよ、タルト! アズキーナが怒るの当たり前だよ!」
「い、いや、わいかてわいが悪かったいうことは分かっとるんや!
 せやけど、男としてはついつい……そういうこともあるやろ、なあココはんナッツはん!」
「コ、ココッ!?」
話を振られたココは飛び上がらんばかりに驚いた。
「ココもそうなの!?」
のぞみが叫ぶ。
「コ、ココはそんなことないココ!」
「コ、ココはん!? さっき分かる分かるって言うとったやないかい!」
「ココ、そうなの!?」
のぞみはココに詰め寄った。ココは大慌てで手をばたばたと振る。
「違うココ! ココはそんなこと言ってないココ!」
「せ、せやけどさっきは確かに……シロップはんもさっき、分かるって」
「そうなんですか、シロップ!?」
「違うロプ、シロップもそんなこと言ってないロプ!」
シロップもうららに弁明するようにばたばたと羽を振る。ずっと黙ってタルトの
話を聞いていたナッツは、今心底安心していた。

「ま、まあまあみんな……」
こまちがみんなを宥めるように言いながらタルトの前に出た。
「とにかくタルトさんはアズキーナさんやラブさんたちと仲直りしなければいけないわ。
 私たちにできることはしましょう、ね?」
「ミ、ミントはん……助かるわ〜」
今のタルトにはこまちが女神のように見えた。思わずタルトは目を輝かせて手を合わせる。
のぞみ達他の面々は「え〜」と不服そうだったが、
「まあまあ」
とにこやかなこまちに何となく押し切られつつあった。

「ほんまおおきにな〜ミントはん。最初からミントはんに相談すれば良かったわ。
 ココはんナッツはんのイケメンパワーを使えば、ラブはん達もメロメロになって
 説得できるやろって思ってたんやけど……」
「うわっ、あんた本当に最っ低」
りんがいかにも不快そうに呟く。
「そ、そんなことないやろ! こういう時はやっぱりイケメンでないと! なあ、ミントはん……」
とこまちの助けを得ようとしたタルトはこまちの顔を見て思わずざざざっと五、六歩後ろに
下がる。

――な、何なんやこのミントはんの気配は!? 大地を揺るがす乙女の怒りを感じるがな!?

「アズキーナさんやラブさんの乙女心を弄ぶなんて許せない……」
「ももも、弄ぶってわいはそんなつもりやなくて!」
先ほどまでと打って変わったこまちの低い声に、タルトは大慌てで誤解を解こうとする。
だが、こまちの怒りは解けなかった。
「みんな、変身よ!」
「のえええええ!?」
タルトは大慌てで後ろを向いて逃げようとした。と、ミルクが長い耳でタルトをはたく。
「さっさとアズキーナに手をついて謝ってくるミルーッ!!」
脱兎のごとくタルトはナッツハウスから飛び出した。

――あ〜、何でわいの周りって気の強い女の子と尻に敷かれた男ばっかりなんやろ……
ナッツハウスから十分離れてとぼとぼと歩き始めると、雨がぽつぽつと降ってきた。
「あ……」
タルトは思わず空を見上げる。雲はどんよりと黒く、雨脚は次第に強くなってきた。

――家、帰ろ……
アズキーナに謝って、家に入れてもらおう。タルトはそう思いながらとぼとぼと、
家出道具一式を入れた風呂敷包みを背にスイーツ王国を目指すのだった。

-完-

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