「大体終わりね」
サンクルミエール学園の生徒会室。かれんが書類の束をトントンと机の上で叩いて纏める。
もう処理のすんだ大きな束と、まだすんでいない小さな束の二つができた。
「後はこれだけ……こまち、先にナッツハウスに行っていて」
「最後まで手伝うわ、かれん」
「いいわよ、こまち。今日はナッツから小説の感想を聞く日よね?」
「え、ええ……」
こまちはそう言われて困ったように笑いを浮かべる。
「自信作の感想だもの、早く聞きたいんでしょう? 
 もう後これだけだから、私だけで大丈夫よ」
「でも、かれんだけだと……」
「元々これは生徒会長の私の仕事。ここまで手伝ってくれただけで十分よ。
 ……ナッツ、待ってるわよ?」
まだ何か言おうとしていたこまちを半ば強引に生徒会室から追い出して
背中で扉を閉め、かれんは独り笑みをこぼした。こまちが「自信作」と言っていた
今回の作品をナッツが高く評価しているらしいことはココから聞いて知っていた。
だからかれんは、こまちとナッツを早く会わせたかった。
ナッツハウスに行った時こまちがどんな顔をしているか楽しみだ。

――早く仕事、終わらせないと。

再び書類の束に取り掛かろうと窓の近くの席に移動して、かれんはふと
窓の下の光景に目を留めた。
グラウンドではりんが他の部員達と一緒にフットサルの練習で駆け回っている。

――そういえば、試合が近いと言っていたわね……。
試合前の総仕上げ的な練習なのだろう、一人一人の顔が真剣だ。
かれんは少しの間グラウンドに目を落としていたが、やがて席に座り仕事の続きを始めた。


ミニゲーム形式でグラウンドを走り回っていたりんだが、ボールがピッチ外に出て
はあはあと息を吐きながら立ち止まった。校舎の窓に動く人影が見えるのに気づく。
――生徒会室……、かれんさん?
「キックインいくよー!」
「はいっ!」
部員の声でりんは我に返るとすぐに決められた場所に向った。


「じゃ、今日はここまで!」
「ありがとうございました!」
練習時間が終わり、ボールなどの片付けも終るとフットサル部員達は着替えるために
校舎の方に戻る。だがりんはグラウンド傍のベンチに座った。

「戻らないの?」と部員の一人から尋ねられたが、
「身体熱くなりすぎちゃって。ちょっとここで冷やしてく」
と答えると「眠っちゃったりしないでね」と言い残して彼女も校舎の方に
吸い込まれていったので、りんはグラウンドに独りになった。
「眠っちゃったり〜」と言われたからというわけではないが、
ベンチの上に寝転がると眩しいほどに青い空が目に入ってくる。
空には綿雲がいくつか、寄り添うように浮かんでいる。

――ああ、空が青いな……
そんな風に思いながらりんは火照った身体を大きく伸ばす。
今日は思うように身体が動かなかった。
試合までにはいつもくらいの状態に戻しておかないとまずい。
疲労した身体に風が心地よい……と、視界が突然白い物で遮られる。
「?」
顔にかかってきた何かを払いのけると、真っ白なタオルだった。
再び見えるようになった空にかれんの顔が被さっている。

「……かれんさん」
「りん、こんなところで寝るつもり?」
「まさか。ちょっと休んでただけです」
軽く身体に力を入れて起き上がる。

「そう。りん、あなたも早く着替えてきたら? 
 家に帰る前にナッツハウスに寄るんでしょう?」
「あれ? 待っててくれるんですか?」
「そうじゃないわ。時間よ時間。もうすぐ下校時間よ」
かれんに言われてりんも時計を見る。確かにそろそろ、生徒は学校から
出なければいけない時間だ。

「はいはい。……堅いんだから」
「りん!」
「着替えてきまーす、待っててくださいねかれんさん!」
笑いながらりんは逃げ出し、小走りに校舎の方へ駆けて行く。
まったく、とかれんはりんが寝転んでいたベンチに座った。

かれんもりんが見上げていた空を見る。
雲はまだ離れ離れにならずに、すぐ近くに溶け合うようにして浮かんでいた。
――今頃、きっとこまちが喜んでいるわね。
  りんも連れて、さっさと行かないと……。
今日のナッツハウスに全員が揃うのをかれんは内心、心待ちにしていた。


-完-

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