せつながラブの家に住むことになった日の夜。レストランから帰ってくると、
ラブは早速とばかりにせつなを自室に招き入れ、箪笥をあけてパジャマを引っ張り出した。
「とりあえずは私の着てもらうけど、サイズ大丈夫だよね?」
「え、ええ……。あの、これは何でこういう服を着るの?」
「え? パジャマだけど?」
「パジャマ?」
あ、そうか、とラブはやっと理解した。きっとラビリンスでは寝るときに
パジャマを着るという習慣がないのだろう。……イースの服で寝るのは寝心地が悪そうだ。

「えっとね、寝るときはこういう動きやすい服を着るんだよ。そうした方が気持ちよく
 眠れるから」
「……そうなの」
「うん!」
「ラブ、せつなちゃーん。お風呂沸いたわよ。順番に入っちゃいなさい」
階下からお母さんの声がする。「はーい」とラブは答えた。

「じゃあ、せつな。お風呂入っちゃおう」
「お風呂……って?」
「えーっと、……身体を綺麗に洗って、一日の疲れを取って、
 はーっとリラックスできるんだよ。じゃあせつな、今日は一緒に入ろうよ。
 うちのお風呂の使い方もちゃんと説明した方がいいし」
「え、ええ……」
せつなと自分の着替えやタオルを用意すると、ラブはせつなの背中を押すようにして
お風呂に向った。

身体を洗うから服は脱いで入るんだよ、と説明してせつなをとにかく風呂場に入れる。
かけ湯をした後二人で湯船に向かい合うようにして入る。
「ね、あったかくって気持ちいいでしょ?」
上気した顔でラブがせつなに聞くと、せつなは戸惑ったような表情のままこくんと頷いた。
不思議な経験らしい。
「ラビリンスの人も、身体汚れたりするよね。そういう時はどうしてたの?」
「……人一人入れるくらいの小さな個室があって、服を脱いでそこに入るの。
 そうすると壁から蒸気が出てきて、一、二分で綺麗になるのよ」
「一、二分……すごいね」
「そうね……」
せつなは遠くを見るような目をした。ラブは慌てて話を変える。浴槽から腕を伸ばし、
小さなガラスの小瓶を掴むとその蓋を開けた。
「せつな、この匂い好き?」
せつなは軽く匂いを嗅ぐ。
「嫌いではないわ」
「これね、美希たんが作ってくれたお風呂用のアロマなんだよ。少し入れてみようか」
ラブは立ち上がり二、三滴を浴槽に注ぐと良くかき混ぜた。
湯気と共にラベンダーの香りが立ち上る。
「いい匂い……」
「でしょ? リラックスできる効果があるんだって!」
一旦湯船の外に出ると身体を洗い、もう一度湯船に浸かって身体を温めてから
お風呂の外に出る。
ラブのパジャマを着たせつなの雰囲気はこれまでと少し変わり、
どこかラブに近いものを感じさせた。

「おかあさん、あがったよー」
「あら、一緒に入ってたの!?」
二人が同時に出てきたのを見てラブのお母さんはさすがに驚いた顔をしたが、
「うん、お湯の出し方とか色々教えてたの」
という答えに「そ、そう……」と答え、時計を見る。
レストランで随分長く過ごしていたのでもう夜の十時である。
「せつなちゃん、今日はいろいろ疲れたでしょう? もう寝た方がいいわ。ラブもね」
「うん、私たち寝るようにするね。お休みなさーい」
「おやすみなさい……」
「お休み」
せつなの声ににっこりとラブのお母さんが笑顔で答える。せつなも微かな笑みを浮かべた。

「じゃあ、今日は一緒に寝よっ! ほらほらせつな、入って入って」
ラブの部屋にはベッドが一つ。せつなの布団を用意するまで、二人で一つのベッドになるのは
当たり前といえば当たり前だ。
せつなを壁側、奥の方に寝かせて電気を消すと自分もその隣に入る。
「お休みなさい、せつな。明日洋服のこととか色々考えようね」
「お……お休み、ラブ」



「あの……ラブ?」
数分後、せつなが声をかけてみるがラブから返事はない。もう眠ってしまっているようだ。
このまま朝まで眠るのだろう。
ラビリンスにいた時のせつなの睡眠時間は毎日三時間程度。まだしばらくは眠れそうになかった。

この世界の人間のすることには、無駄が多い。
食事もお風呂も、ラビリンスでも似たようなことをしている。
ずっと短時間で栄養の補給、汚れの洗浄を行うことができる。
でも、と声には出さずにせつなは考えた。この世界にあるいろいろな「無駄」が、
笑顔を生み出す鍵になっているような気がする。
まだ眠れそうにない。
せつなは目を閉じ、ラブの寝息に耳を傾けるという無駄なことをしてみることにした。

-完-

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