「……どうしたんですか、お二人とも?」
なぎさとほのかが我に返ると、目の前には大きな目を見開いたひかりが
きょとんとした表情を浮かべていた。

「あ……っ!」「元の世界!?」
二人は思わず辺りをきょろきょろと見まわし、自分たちが元の――本来の、自分たちの
世界に戻ってきたことを確認した。ひかりはいつものようにタコカフェのエプロンを着けて
手伝いをしていたようだし、向こうにいるアカネさんはお客さんが来るのを待っているようだ。

「あ、あのさひかり。私たちどのくらいの時間居なかった?」
「え?」
なぎさの奇妙な聞き方にひかりは一瞬困惑の色を浮かべたが、
「タコカフェにお二人が来る姿が見えたんです。あ、こっちに来てくれたなと思って
 見ていたら突然姿が見えなくなって、どうしたんだろうと思っていたら今ここに」
「その間、どのくらいの時間がたったの?」
ほのかの問いにひかりは少し考えると、
「五分くらい……でしょうか」
と答える。その答えに、なぎさとほのかはほっと安心して顔を見合わせた。


一体、何があったのか。頭の中を整理するため、そしてひかりに説明するために
なぎさとほのかはタコカフェの一番端のテーブルに陣取ると、他のお客さんが
いないのを幸い、ひかりを座らせて今まであったことを話し始めた。

「……つまり、お二人は全然別の世界に行ってたんですか!?」
一通りの話を聞いたひかりが声を上げる。
「多分ね」
とほのかが頷いた。

「それで、その世界にもプリキュアが。しかも一人はアンドロイドって」
「うん、プリキュアって結構いるもんなんだね。アンドロイドの子は初めてだけど」
なぎさはそう答えると、ひかりが先ほど運んできてくれたたこ焼きを一つ食べる。

「ああでも、こうやってちゃんと帰ってこれるならもう少し向こうにいてもよかったなあ。
 あのね、向こうの世界でもやっぱりたこ焼きは美味しいんだよ。チョコだって、きっと向こうでも
 おいしいんだろうなあ……」
「もう、なぎさったら」
ほのかが苦笑する。

「ほのかはもうちょっと居たくなかった? あの子たちとあんまり話してないしさあ。
 なんか、仲直りできたのは良かったけど」
「私も行ってみたかったです。その世界」
「ひかりもそう思うよねえ。うーん、でもこっちからじゃ行き方分かんないんだよな……」
ほのかはなぎさとひかりのそんな会話を笑みを浮かべて聞いていた。その落ち着いた様子に
なぎさは違和感を覚え、

「ほのかはそう思わないの? もう少しあの子たちと話して見たかったって」
と尋ねる。
「もちろん、そう思うわよ。でも、大事なお土産をもらったの。これを分析するのが
 先ね」
 
「お土産? 何? お饅頭とか?」
身を乗り出すなぎさに、ほのかは満面の笑みでUSBメモリを取り出して見せると
テーブルの上に置いた。

「食べ物じゃないんだ……でも、何?」
「ルールーさんを手伝ってギターを作ったでしょう? その時、お礼にもらったのよ」
「お礼って……何のデータが入ってるの?」
なぎさはUSBメモリをひょいと持ち上げると、しげしげと見つめる。紫に白色のシンプルな
デザインは、ルール―という名の彼女を思わせるものだった。

「ルールーさんのいろいろな機能――機能というか、できることね。そのデータを
 もらったのよ」
「……それをどうするんですか?」
「ほのか、まさかアンドロイド作るつもり!?」
慌てた様子のなぎさに、ほのかは笑って手を振った。
「それは無理よ。でも今後の参考になるかもしれないでしょ」
「参考って、何の参考?」
「将来ロボットを作るかもしれないじゃない?」
やっぱりそうか、となぎさは思った。別世界の知識をもとにロボットを作るという
行為には何となく不安を感じる。

「あのそのデータ、どうやって分析するんですか?」
「科学部のPCで分析してみるつもりよ。いろいろなツールが入っているから、あれは」


と、いうわけで。
翌日の放課後、なぎさとほのか、それにひかりは科学部の部室に集まっていた。
部活のないこの日、生徒は三人の他には誰もいない。

「さて、入れまーす」
科学部所有の大型PCに、ほのかはわくわくを抑えられないといった様子でUSBメモリを差し込む。
表示された画面には、USBメモリの中に入っているいくつものファイルのアイコンが
示されていた。

「さてこれを、」
とほのかがPCを操作しようとしたその時だった。三人の目の前で、ファイルのアイコンは
流れるようにして消えていった。

「えっ!? ちょっと待って!」
ほのかが何とか一つでもファイルの中身を見ようとするが、間に合わない。あっという間に、
ファイルのアイコンはすべて消えてしまっていた。当然のように、アイコンのあった場所で
クリックしてみても全く何の反応も起きない。
ほのかはそれから、別のPCを使ったり別のOSを使ってUSBメモリの復旧を試みたが
すべて失敗に終わった。

「……あ、あのさ、ほのか。そんなにがっかりしないで。
 きっとロボット作るなら一から作りなさいってことだよ」
意気消沈しているほのかの背中をなぎさがぽんぽんと叩く。
ほのかは泣きそうな目をなぎさに向けた。

「なぎさ、どうにかしてもう一度あの世界に行く方法を考えましょう!」
「えっ、いや、その」
「なぎさももう一度行きたいんでしょ?」
「そうだけどさ、またデータ貰ってもきっと同じことに」
「大丈夫! 今度はデータを何らかの形で印刷してもらうわ。アナログな形だったらきっと」
「いや、ええと、その」
それでもやっぱりデータは消えてしまうのでは? となぎさは思ったが、
ほのかはどうしてもと言い張る。ひかりは心配そうに二人を見つめていた。

夕日が長く部室に入り込んでいる。なぎさとほのかの言い合いがどう決着しようとも、
今のところあの世界にもう一度行く方法が分からないことだけは確かだった。

-完-

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