「は〜、いったー……」
「どうしたの、なぎさ?」
学校からの帰り道、なぎさは額を抑えてぼやきながらショーウインドーを見つけると
自分のおでこを映す。後ろからほのかが覗き込むと、なぎさの額の生え際の真ん中あたりに
大きなニキビができていた。真っ赤になってとても痛そうだ。

「すごいわね……」
「痛くなったら嫌だから触らないでおこうと思ったんだけど、
 今日部活中に思いっきりここぶつけちゃって。バンドエイドか何か貼って
 おいたほうがいいかな?」
なぎさがくるっと振り返ってほのかを見ると、ほのかは「だめよ」と
首を振った。

「バンドエイドを貼ると、むれちゃうもの。風通しよくしないと」
「そっかー……じゃあ、ほっとくのが一番かなあ」
痛いのに、と言いたそうななぎさをほのかは
「家に来たら、薬があるけど。割と早く治るわよ」
と誘う。なぎさは「本当!? いくいく!」とすぐそれに乗った。


「はい、まずこれね」
ほのかの家に入ってまず渡されたのがタオル。
「え? これでどうするの?」
「まず顔を洗って、皮膚を清潔にするの。部活で汗一杯かいてると思うから、
 全部洗い流すつもりでね」
「はーい」
言われた通りに洗面所で良く顔を洗う。ごしごし、とタオルで顔を拭いていると
「あ、なぎさ。もっとやさしく拭いた方がいいわ」と後ろから声がかかった。
「え?」
まだ水の滴る顔をほのかに向けると、ほのかがさっと歩み寄ってきてなぎさから
タオルを受け取る。ふかふかのタオルをそっとなぎさの顔に当て、ほのかはタッチするように
優しく顔の水滴を取り始めた。

「ごしごしこすると、皮膚が傷つくのよ。それがまたニキビの元になっちゃうから、
 丁寧に拭くようにしたほうがいいの」
「へえ〜……」
拭かれながらなぎさは感心したように声を上げた。
「ちょっと痛いかもしれないわよ」
なぎさが目を閉じると、ほのかのタオルがニキビの周りをなぞるようにして
水滴を拭き取っていった。

じゃあこっちに来て、とほのかに言われて
なぎさはほのかの部屋に入り、ベッドの上に座る。
「さっき言ってたの、この薬なの」
ニキビ用に売られている市販薬だ。もしかしたらほのかお手製の薬が出てくるのでは、
と思っていたなぎさは半分ほっとし半分がっかりした。

人差し指の上に小さな玉になるように薬を出し、ほのかはそっとなぎさに近寄る。
なぎさが再び目を閉じるとほのかはなぎさの額にかかる前髪を左手でかきわけ、
右手の指でなぎさのニキビにそっと触れた。
少し痛いがじっとしていると、ほのかの指先が滑らかになぎさの額をなでていく。

「はい、おしまい」
意外と早く終ったのでなぎさはうっすらと目を開けた。ほのかが自分の目の前に立っている。
目をぱちぱちとさせながら見上げると、ほのかは優しい顔でなぎさを見下ろしている。
左手はまだなぎさの前髪を上げたまま。

「あの、ほのか? この手は?」
「ああ――、本当は、額に髪がかからないようにしたほうがいいのよ。
 完全に前髪を上げるとか……」
「この長さじゃ難しいよね、オールバックって」
「そうね……」
ほのかは色々となぎさの髪の結び方を試していたが、どうしても
完全に上げることはできそうになかった。
「じゃあさ、ほのかがずっと持っててよ」
「いいわよ」
「いいの!?」
ふざけて言った言葉にほのかが真面目に答えたのでなぎさは
驚いてベッドから腰を浮かせた。こつん、となぎさのニキビがほのかの
手に当たる。

「あ、痛〜」
「もう。薬取れちゃったわよ」
情けない声をあげるなぎさにほのかは「もう一回ね」と妙に嬉しそうに
また薬を取り出した。

-完-

 ←押していただけると嬉しいです。




他シリーズSS置き場へ戻る
indexへ戻る