雪の夜、姉さんは行った。青いプリキュアに変身して、他のプリキュアと一緒に。
僕はクリスマスだから、四つ葉町に来ていた。クリスマスは母さんのところ。
お正月の二日か三日には、姉さんが必ず僕と父さんの家に来る。
これは父さんと母さんが別れて暮らすようになってからずっと続いているルールだ。

姉さんたちがラビリンスに行ったのを見送ってから、僕と母さんは家に戻った。
途中商店街の大きなクリスマスツリーの横を通ったけれど、母さんは見向きもしなかった。

家に帰ると、静まり返っている。ちょっと前まで姉さんの友達の桃園さんや山吹さんの
お父さんお母さんが来て会議をしていたのに、今は怖いくらいに静かだ。

母さんはコートをだらしなく脱ぎ捨てるとそのままリビングの椅子に座って机に
突っ伏してしまった。
「……お茶でも淹れるよ」
淹れるって、ペットボトルから注ぐだけだ。冷蔵庫開けたら何か入っているだろうと、僕は
台所に行って開けてみた。

「……」
開けなきゃ良かった。僕は咄嗟にそう思った。冷蔵庫の真ん中にはケーキの箱が
どんと置いてある。きっと今日、三人で食べるために母さんが用意してたんだ。
せめて温かい飲み物にしよう。僕はそう思い直して、冷蔵庫を閉じてコーヒーを
淹れることにした。この辺り、とコーヒーを探すと当り。
フィルターも見つけてコーヒーメーカーにセットしてスイッチオン。
できるまでの間母さんのところに戻ってみると、母さんはまださっきと同じ姿勢だ。

――毛布取ってこよっと……。
母さんの寝室に入って毛布だけ抜き取ると、座っている母さんの肩からかける。

「……ん、ありがとう」
母さんがやっと声を出してくれたので僕は少し安心した。コーヒーメーカーがちょうど
完了していたので、マグカップに注いで母さんの前に置く。自分の分は手に持って、僕は
コーヒーを一口飲んだ。
「苦っ!」
僕と母さんの口から同時に同じ言葉が出る。コーヒーの量が多すぎたのか、とても
飲めない。母さんはちょっとだけ笑った。
「こういう時は牛乳よ牛乳」
いそいそと立ち上がると母さんは冷蔵庫から牛乳パックを持ってきて
「カップ出しなさいカップ」
と言う。僕がカップを出すと、どぼどぼという勢いで母さんは牛乳を注いだ。

「……これ、茶色い牛乳……」
色は茶色いけど、コーヒーの味はほとんどしない。牛乳だ、これは。
「子どもにはそのくらいがいいのよ。夜眠れなくなるでしょ」
そう言いながら母さんは、自分の分にはちょうどいいくらいに牛乳を入れる。
何だか一息ついて、僕は部屋を見回した。
クリスマスの飾りを入れた段ボール箱が出てる。
きっと今夜、飾りつけのつもりだったんだ。僕は出そうになるため息を我慢した。

「電話使うね」
牛乳――じゃなくてコーヒーを一気に飲んでしまって、僕はまだ飲んでいる
母さんの横で電話をかける。父さんはそろそろ家に着いた頃だ。
しばらく母さんのところに泊まる……って連絡しておかなきゃ。

父さんはしばらく一人で我慢してもらおう。男だし。

-完-

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