蒼乃美希は不機嫌である。いつものようにドーナツカフェでラブ、祈里と
ドーナツを食べ、春の訪れを感じさせる風を受けても美希の仏頂面は変わらなかった。

美希の前には一冊の雑誌が置かれている。中高生向けのファッション誌だが、
表紙を飾っているモデルは美希ではない。つい数か月ほど前に読者モデルとして
デビューし、雑誌に載るようになった……はずなのに、あっという間に表紙にまで
のぼりつめた、最近話題の女子高生モデルだ。

ラビリンスとの戦いを終えて、もうすぐ一年。
プリキュアとして日常的に戦うこともなくなり、美希は学校や芸能活動に
精を出しているのだが……、
「確かに、この子最近よく見る気がするよね」
ラブが美希の持ってきた雑誌を自分の方に向けながらつぶやいた。
うんうん、と祈里も頷いて、

「いつだったか、ワイドショーのコーナーで紹介されてた気もする。
 今、注目の新人みたいなコーナーで」
「そうなのよ〜」
美希は頭を抱えるようなしぐさを見せた。

「そりゃ、読者モデルって高校生から入る人多いよ? 中学生までは
 親に反対されてできなかったって人も多いし……でもまさか、
 いきなりこんな大型新人が来るなんて……」
雑誌の表紙で微笑んでいる彼女は、スタイルも抜群。高校生とは思えない大人びた
容姿と、それとは裏腹なチャーミングな素顔が人気の素だ――とテレビで
解説されていたのを祈里は思い出した。

一方、美希のモデルとしての売りは、中学生とは思えない大人びた容姿と、
何でもこなせる(と読者からは見える)完璧さだ。美希と今話題の彼女は、モデルとしての
立ち位置が似てはいても少し違うように祈里には思える。

「でも、美希ちゃんには美希ちゃんのファンがいるし美希ちゃんの魅力が
 あるでしょう? 今はこの人が人気なのかもしれないけど、
 そんなに気にしなくても」
「そうそう、気にすることないって美希たん」
祈里とラブが口々にそういったが、美希は相変わらずの表情のままで、

「それが、そうもいかないのよ。ほらこれ」
と雑誌を持ち上げると、ばさりと真ん中あたりのページを開いてラブと祈里に見せた。

「何これ?」
二人とも雑誌に顔を近づける。「新連載!」という派手な文字が躍るそのページでは、
件のモデルが笑顔で自分の作ったスイーツを紹介していた。

「え? 連載?」
祈里が顔を上げて美希を見る。
「そうなのよ!」
よくぞそこに気づいてくれた、と言いたげに美希はぐっと身を乗り出した。
「この人、お菓子作りが趣味みたいでこれから毎号、自分の作った
 オリジナルスイーツの連載があるみたいなの!」
「……そうなんだ」
ラブは美希の勢いに気おされたように声を上げた。

「えーっと、そうなるとどうなるの?」
「確実に毎号誌面に登場するわけでしょ、そうなれば人気もさらに上がるし、
 読モとしての仕事も増えるはず」
ふう、と祈里は息を一つついた。祈里からすると、他人がどうしていようと
美希は美希の道を行けば人気が落ちることはないのでは、と思うのだが
本人はなかなかそうは思えないものらしい。

「ああ、あたしにも何かこういう趣味があれば! 連載できるような!」
美希はばちんと雑誌を閉じた。

「美希ちゃんの趣味って、おしゃれは?」
祈里の言葉に、美希は大きく首を振って椅子の背もたれにもたれかかる。
「おしゃれは読モならみんな好き……必修科目みたいなものだもの。
 ほかの読モとの差別化にはならないわ」
「美希たん、だったらダンスだよダンス!」
いいこと思いついた、というようにラブは大きな声を上げたが、美希はやはり首を振った。

「こういう雑誌だと、スポーツとかアウトドア系のことはあまり取り上げられないのよ。
 インドア系のことでないとなかなか」
「だったら美希たん、スポーツ系の雑誌に売り込んでみたら?」
「そっちの方だと、読モを見たがる人はあまりいないしそういう雑誌だったらミユキさん
 みたいなプロの記事の方が受けるわ。どう考えても」
 
「う〜ん」
ラブは腕組みをした。
「ブッキーは何かこういうファッション誌に載せられそうな趣味ある?」
「私?」
美希に突然話しかけられて祈里は瞬きをした後、
「手芸と……あとは、動物の世話かなあ。ファッション誌に載るかどうか分かんないけど。
 半分お手伝いだけどね」
「あ、でも飼ってるペットの話とかできるのもいい! ……でもあたし、ペット飼ってないからなあ……」
「あ、美希ちゃん」
祈里はにこやかな表情で、しかし決然として美希に告げた。

「ペット飼うなら、引き取り手を探している動物を紹介できるけど、読モの
 活動に役立つからって理由で飼うのはやめてね。あくまでその子のことが好きだから
 飼うようにしてね」
「分かってます」
釘を刺された美希は真面目な顔で頷く。実際、美希は芸能活動のために
ペットを飼おうというつもりはなかった。

「ラブは? ダンス以外で何かないの?」
「うーん……ダンス以外ってなると……」
ラブはしばらく考えるような顔をした後、
「趣味っていうのかなあ……文通はしてるけど」
えっ、と美希と祈里はそろって声を上げた。まさかそんな古式ゆかしい趣味が
ラブの口から出てくるとは思わなかった。

「文通って、誰とよ!?」
「文通相手募集しまーすとか、そういうの出したの!?」
「違うってば、せつなだよ」
大きく身を乗り出していた美希と祈里は、ラブの一言にああ、と納得したように
身を引いた。

プリキュアとしての戦いが終わったあと、せつなはラビリンスに帰国した。それからというもの、
たまにラビリンスから小さなホホエミーナが三人に手紙を運んでくる。
ホホエミーナにはしばらく待ってもらっていて、返事を書くのが三人の習慣だ。

「確かに、手紙のやり取りだから文通よね。郵便じゃないけど」
うんうん、とラブは頷く。
「たまに一週間に一回くらいのペースでやりとりしちゃうこともあるもんね」
えっ、と美希と祈里はまた声を上げた。

「え? なんで? ホホエミーナそんなに頻繁に来ないじゃない!」
「あんまり何回も往復させちゃ悪いから一回の手紙に沢山書いてるけど!?」

「えー、だって、学校のこととかお父さんとお母さんのこととか、
 せつなに知らせたいなって思うことが次から次に起きることがあるんだもの。
 そういう時、何通もの手紙になるから」
「でも、どうやって届けてるの?」
祈里が尋ねると、
「のぞみちゃんに電話して、シロップに届けてもらってるよ」
シロップ。運び屋である。確かに彼なら、ラビリンスまで手紙を届けることもできるだろう。

「ちょっと待って、ラブ。週に一回ペースでシロップ呼び出してることもあるの?
 いいの、それ?」
「うーん。ぶつぶつ言ってることもあるけど、ホットケーキご馳走すると
 何だかんだで言ってくれるよ。運び屋が本業だってのぞみちゃんも言ってたし……」
 
 まあ、無理強いしていないのならいいかと美希は思った。ラブはそんな美希の思いには
気づかずに、

「この前なんかさあ、お父さんとお母さんの写真送ったらせつなすっごく喜んでくれて……、
 お母さんが開発中のウィッグの試着してる写真だったんだけどね」
ラブはただただ幸せだというように満面の笑みを浮かべてそんなことを言う。
美希はそんなラブの笑顔を見ていて一つ息をついた。

「何か、ラブのそんな顔見てたら趣味がどうとかどうでもよくなってきた」
「ほら、美希ちゃんは美希ちゃんの魅力を出していけば大丈夫だってば」

「はいよ〜、これ」
カオルちゃんが突然やってきて、ドーナツを三人に一つずつ渡していく。
「どうして? これ」
美希が尋ねると、カオルちゃんは
「この春から販売予定の新商品。まだ味の保証ができないから今日は無料。ぐはっ」
とおどけてまたワゴンへと戻っていった。美希はピンク色のトッピングの乗った
ドーナツを一口かじってみる。いつにも増して甘い味が口の中に広がった。


-完-

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