雪城家に分厚い原稿の束が届いてから一週間後。
雪城ほのかは秋元こまちの家に電話をしていた。

原稿はこまちの書いた小説である。今度開催されるという
中学生の小説コンクールに出すためのものだ。
こまちの書いた作品は血沸き肉躍る恋愛大河ロマンなのだが、
一部にサスペンスの要素もある。

トリックを頑張って考えて書いてみたものの、書いた内容が正しいのかどうか
不安だったのでこまちはほのかに考証を頼んだのだ。
トリック部分だけの原稿を送ればいいようなものだったが、
全部の原稿を送ったのは「折角だから全部読んでみたい」というほのかの
リクエストがあったからである。

「トリックの部分なんだけれどね」
ほのかは慎重に話し始めた。電話の向こうのこまちが息を詰めるようにして
ほのかの言葉を待っているのを感じる。

「小説の中で使われている薬品が人体に影響を及ぼすまでの時間や効果を
 考えると、こういうトリックは実際には難しいわね」
「そう……なの」
こまちはがっかりとした声だった。ほのかとしてもこまちをがっかりさせるのは
本意ではないのだが、考証を頼まれている以上は本当のことを言わないと仕方がない。

「それでね、別の薬品でこれと似たようなものが探してみたんだけれどね」
「ええ」
「ないみたい」
「そう」
どうしようかな、と考えているらしいこまちの雰囲気をほのかは感じ取った。

「でも、こういうのって本当に正確に書かないといけないものなの?
 小説の中のことなんだし、実際とは違っていてもいいんじゃ」
「そういう考え方ももちろんあるんだけど、今回はできるだけ正確に書こうと
 思ってたのよね……」
うーん、と悩んでいるらしいこまちの声が受話器の向こうから聞こえてくる。
やがてこまちは吹っ切れたように、

「そうね、それだったら薬品の名前を架空のものにして書くことにするわ」
と答える。前向きな結論がでたようなのでほのかはほっとした。


「あと、何か所か脱字があったからそれは書いておいたわ。送り返すから見ておいて」
「本当? 確認したはずなのに……」
ごめんなさいね、と言うこまちの声は恐縮しているように小さくなる。

「ううん、いいの。それでね、思ったんだけど」
必要事項を全部伝えてしまったのでほのかの声は軽くなった。
「何?」
「このお話、面白いわね」
「本当!?」
受話器の向こうのこまちの声のトーンが高くなった。

「ええもちろん。二人の関係がこんな風に展開するなんて、わくわくしちゃったわ」
「コンクールなんだし、スケールの大きい話にしたかったの」
「すごくいいと思うわ。時代を越えて国境を越えて、二人の愛が広がっていくなんて」
「ありがとう」
こんな風に褒められると自信が持てる。こまちはほっと安心の息を漏らした。

「でも、面白いのね。主人公の二人は最初は全く正反対の二人として書かれているのに
 最後の方は色んなことの感じ方が似てきているのね。息もぴったりだし」
「それはね、そうなるんじゃないかなって気がしたの」
「長年連れ添っている夫婦が似てくるとかそういうこと?」
「そうね――夫婦に限らずそういうものじゃないかと思うのよね」
身近にいるし、とこまちは思う。

プリキュアの皆で集まった時に、妖精たちからも色んな話を聞いた。
メップルやミップル達ともこまちは話をしたのだが、
「なぎさとほのかは最初は正反対で全然息が合わなくて大変だったメポ」
「でも、色々あって最高のパートナーになったミポ」
と苦労話とも自慢話ともつかないことを言っていた。

実際、こまちの目に映るなぎさとほのかは全く「正反対」とは見えなくて――
そんなこともあって、こまちは最初正反対だった二人が
息の合ったパートナーになっていく話を書いたのだ。

「コンクール、いい結果になるといいわね」
「ええ、だといいんだけど……ほのかさん、今回は本当にありがとう」
「いいのよ。また、いつでも。コンクールで入賞したら教えてね」
「ええ、もちろん」
こまちは受話器を置いて、ほのかから戻ってくる原稿を直して
コンクールの締め切りに間に合わせるスケジュールを頭の中で計算し始めた。
この小説への手ごたえをまた一つ感じた様な気がする。


-完-

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