「くるみ、入るわよ」
部屋をノックしても返事がない。不思議に思いながらもかれんはナッツハウスのくるみの
部屋の戸をあけた。
「くるみ?」
くるみはドアに背を向けたままだ。
「くるみ!」
近づいて肩に触れると「わっ!? かれん!?」とくるみは驚いて椅子から落ちそうになる。
「ちょっと、大丈夫くるみ!?」
「ええ、大丈夫」
なんとか持ち直したくるみの耳からイヤホンがぽろりと落ちる。
白いコードは携帯音楽プレーヤーに繋がっていた。
「何を聞いてたの?」
かれんはくるみの耳から落ちたイヤホンをとると自分の耳にはめる。大音響で聞こえてきた
クラシック曲にかれんは思わずイヤホンを落としそうになった。

「何の曲か分かった?」
「ラフマニノフの交響曲第二番ね。……でも、どうしてこれを?」
「お世話役ですもの」
くるみは胸を張った。
「教養もちゃんと身につけなくちゃ」
「へえ……」
なるほどとかれんはイヤホンをはずし、音楽プレーヤーの電源を切った。

「ねえ、かれんが1番好きな曲は何?」
「1番好きな曲? ……」
かれんは少し考えてから、
「そうね。今度、うちに来たとき教えてあげるわ」
「約束ね、かれん」
「ええ」

「今度」はすぐに訪れた。水無月邸の一室、ピアノのある部屋にくるみは通される。
「かれん、どの曲が好きなの?」
CDでもあるのかとくるみは部屋の中をきょろきょろと見回す。
「この曲よ」
かれんはピアノの蓋を開いた。くるみの見る前で鍵盤に指を下ろす。
かれんの弾く曲はゆったりとして、どこか素朴な曲だった。
目を閉じてくるみは音に身を委ねる。
「……どうだった?」
弾きおえたかれんはくるみに感想を求めた。手をたたきながら、くるみは
「すごく落ち着く曲だったわ。何て曲なの?」
「この曲に題名はないの」
「え?」
「小さい頃、両親が作ってくれた曲だから。――私の子守唄」
「へえ……ね。かれん。もう一度弾いてくれる? 覚えるから」
「いいわよ」
かれんはもう一度ピアノの前に座りなおした。
「じゃあ、ピアノに続けて歌ってみたらどうかしら」「ええ、そうするわ」
かれんの奏でるメロディーを聞き、くるみは反復してハミングする。
今度かれんが眠そうな時――風邪の時にはもちろん――歌ってあげようとくるみは思っていた。

-完-

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