目を開けると青空が飛び込んできた。白い雲と、木の影と。
(ここは……)
仰向けになっている身体を起こそうとしたが動かない。
上に誰かが乗っている。首だけを少し起こして赤い髪の毛を確認した。満だ。
薫は身体の上の満に恐る恐る手を伸ばす。
彼女に触れる直前で手を止めた。心を決め、手を近づける。
――ようやく彼女の頬に手が触れた。温かかった。

(気を失っている、だけ……?)
少し、安心する。薫には自分の身体がどうなっているのかも
良くは分からなかった。もちろん、満の身体も。
分かっているのはとにかくまだ自分達が生きているらしいということと、
ダークフォールからどこかに飛ばされたらしいということだ。

「う……」
薫の上で、くぐもった満の声がした。
「う……うん?」
「痛!?いたたた!」
満が手をついて起き上がろうとしている――のはいいが、ちょうど薫の身体を
抑え付けるような動きになって薫は思わず声を上げた。

「か、薫!?」
「いいから、早く降りて!」
満が降りると薫の身体はようやく自由を取り戻す。
座ったまま、二人は自分達の状態を確かめた。――触ると、あちらこちらが痛い。
ゴーヤーンに掴まれた時の痣もくっきりと残っている。
だがそれでも、生きているだけ僥倖と言わなければならなかった。

「ねえ、満」
「?」
「なんで私達制服なの?」
「さあ?」
二人が最後に着ていた覚えがあるのは生みの親から与えられた服。
しかし今は夕凪中の白いセーラー服を身に纏っていた。

「着替えたかしら?」
「覚えてない」
薫の問いに満が頭を振る。二人の下には草の生えた地面が広がっている。
――実際二人は何が起きたのかよく分かっていなかった。
生まれた土地で、生みの親の怒りから友達を守ろうとしてそして――?


「ここ、どこかしら」
満が地面に手をついてゆっくりと立ち上がる。
「痛っ」
釣られるように立ち上がりかけた薫は脚の痛みに顔をしかめた。
すぐに満が薫の手を取って支える。
「大丈夫?」
「多分……」
すぐ近くに生えていた木の横を通り抜けると、この場所が小さな公園に
なっていることが分かった。

「緑の郷……かしら」「知らない場所ね」
とりあえずベンチに並んで腰掛けてみる。
日はまだ高かったが公園には子供達の姿はなかった。

二人はしばらくの間口を開かず、ただぼんやりと景色を眺めていた。
空は青く、雲は白く、木々は緑で。足元を見ると蟻がせわしなく歩き回っている。


「……何が、どうなったのかしら」
「さあ……」
二人で話し合ってみたところで答えは出ない。
アクダイカーンがあのまま二人を赦すとは思えなかった。
今この場所にいることも誰かの意思が働いているのかもしれない。
――自分達には結局のところ何も分からないのだ。

「薫、どうしよう、これから」
「さあ……」

「どしたの、あんたたち。見ない顔だね」
突然、馴れ馴れしいとも言える口調で話しかけられた。
長身の女の人が二人の腰掛けているベンチのすぐ後ろにいつの間にか立っていた。

「ああ、ごめんごめん、あんまりぼうっとしてたからさ、気になっちゃってついついね」
二人が答えられないでいると女の人は明るい、どこか頼もしいような声で続けた。

「もし良かったら、どう?味には自信あるんだ」
そう言いながら容器に入ったたこ焼きを見せる。
「私達今持ち合わせがないから……」
満が慌てて答えた。
「ああ、いいよいいよ、お代は。大した量入ってないし。
 昨日むちゃくちゃ売り上げ良かったんでね。今日はサービス良くしようと思ってたから」
「ありがとう、ございます」
笑いながら答える言葉に釣られて、二人はたこ焼きを受け取った。
一つずつ、口の中に入れる。

「おいしい……」
久しぶりに食べる人間の食べ物だ。
温かくて甘くて小さいくせにずっしりとしていて。

「だろう?じゃあ、今度は買ってね。待ってるよ」
バイバイ、と手を振りながら女の人は停めてある車の方へ歩いていった。
車の中からたまたま二人を見つけたらしい。

たこ焼きを食べ終わったので容器を公園のゴミ箱に捨てる。
またベンチに戻って二人で座る。

「薫、これからどうする?」
「ここは、緑の郷で間違いないのよね?」
「さっきの人、人間だったし」
「咲と舞は――生きてるってこと」
「そうね……」
「咲と舞は、私達を待っているだろうか……?」
「待ってる」
自分でも驚くほど、満は即座に答えた。
薫以外の人物の気持ちをこんな風に断言したのは初めてだ。
「そうね」
薫も当然のように満の答えを受け入れる。

「行きましょう、満」薫が立ち上がった。
「どこへ?」
「咲と舞のところ。他にどこかあるの?」
「そうね」
二人はゆっくりとした足取りで歩き始めた。

この町から夕凪町までどのくらいの時間が掛かるのか、
自分達がどうしてここにいるのか、
自分達が今度どうなっていくのか、何一つ二人には分からない。

ただ、今この時は自分の願いに従って脚を進めていた。
自分達を待っている友達のところへ。確信を持って、一歩一歩。

-完-

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