<これまでのあらすじ>
ダークフォール消滅後、何故か緑の郷に甦ったカレハーン、モエルンバ、
ミズ・シタターレ、キントレスキーの五人。
彼らは「プリキュア5」を結成し愛と正義のために戦うのだ!



「健太!」
夕凪中学への道を歩いている咲は前に星野健太の後姿を見て
走ってその前に回りこんだ。

「お、咲」
「高校受かったんだってね、おめでとう!」
「なんだ、もう知ってるのかよ」
高校受験が本格化してきた現在、夕凪中の三年生達は全員が毎日学校に通っているとは
限らない。
受験日であれば当然欠席であるし、大事を取って受験日の少し前から
休む生徒もいる。
今までと比べて話す機会が少なくなるのは仕方がなかった。

「昨日優子から電話があったんだ。二人とも通ったって」
「ま、俺の実力を持ってすれば当たり前だからな」
「え〜。試験の前日に優子に『眠れない』って電話したんでしょ〜」
「そんなことまで話してるのかよ、あいつ!?」
慌てた健太を見て咲は大笑いすると、

「ま、でもこれで高校の心配もなくなったんだし優子に迷惑もかけないでしょ、もう」
「なんだよ、それ」
不服そうに答えてから健太はふっと黙り込んだ。

「……どうしたの?」
突然静かになった健太を見て咲が意外そうに声をかける。
「咲たちはこれからが本番だろ」
「うん……まあね」
「美翔や宮迫、安藤や霧生たちは大丈夫だろうけど、咲は無謀な挑戦だもんな」
「ちょっと、そんな言い方ないでしょ!」
普段どおりの憎まれ口を叩く健太に大きな声で言い返して咲はぷっと
頬を膨らませた。


――高校、か……
篠原先生に合格の報告をして改めて「良かったな」と言われ――「発表日の当日に
連絡して来い」とお小言も貰った――、人気のない廊下を歩いて健太はしみじみと
考える。
咲は今日は数学の先生に個人的に補習を受けるそうで、職員室で勉強していた。
今日もクラスの大部分は受験勉強しているはずである。
一抜けた、と言う形で受験を終えてしまった健太はどこか寂しさも感じていた。
二学期までは賑やかだった3Bの教室も今はしんと静まり返ってしまっている。

入り口からすぐのところにある宮迫の席にも誰もいない。机の中も綺麗に
空になっていてまるで今すぐにでも卒業して行きそうに見える。

宮迫は今頃勉強に励んでいるはずだ。もしかすると図書館で、加代と一緒かもしれない。
咲たちと同じ高校を受けるはずだが、普段どおりの力が出せればそう問題はないはずだ。
――普段どおりの力が出せるかが問題なんだよな、あいつの場合。
  変なところで緊張するし。

二人の漫才コンビとしての活動は秋の文化祭で一旦休止となっている。
どちらかが言い出したのではなく主に健太の両親の強い意向で休止状態になった。
健太はもう受験を終えたので漫才が再開できるが、

――あいつ、高校行っても俺と漫才してくれんのかな……

健太は鞄を持って教室を出た。

いつものように坂を下っていく。この坂を下るのは後何度だろうか。
夕凪中の制服を着ずにこの坂を下ることも勿論できるが、
それは何かが違うように感じる。

寄り道をしたくなって健太はふらりとわき道にそれた。
目的も何もなくぶらぶらと歩く。と、移動式ジューススタンドが目に入った。

「オレンジジュース一杯」
「はい、いらっしゃ〜い! あら、星野屋の健ちゃん」
「健ちゃんはやめろ!」
スタンドの店主はミズ・シタターレである。
咲たちと妙に仲がいい。最近は健太のことも覚えたらしく、しきりに「健ちゃん」と
呼んで来る。

「まあいいじゃないの、そのくらいの愛称で呼んでも」
鼻歌交じりにオレンジジュースを作って紙コップに注ぐと
健太に渡してくる。
これでまずかったら二度と買わなければいいだけなのだが、
おいしいから困る。ついつい次も買ってしまって「健ちゃん」と呼ばれる羽目に
なってしまう。

ため息を一つついてから、健太はぐいっとオレンジジュースを飲み込んだ。
「元気ないじゃない、今日は」
いかにも心配しているような口調で言われ、健太はえっと思った。

――意外と優しいタイプなのか……!?

今までちっともそんなそぶりを見せなかっただけに驚きながらも健太は
「そんなことねーよ」
と返す。

「あなたひょっとして、受験ってのに失敗したんじゃないの?」
駄目だこりゃ。健太は改めて思った。ストレートに聞くにも程がある。

「違うよ。受かった」
「あら、そうなの!?」
今度は本気で驚いているようだ。つくづく、デリカシーがない。
「受験って相当難しいと聞いてたからてっきり駄目かと思ってたわ」
「やかましい!」
一瞬でも優しいと思った自分が馬鹿だった。心に深く刻み、二度とそんなことは
思わないようにしようと固く決意する。

「あ、そうそうそれでね」
スタンドの奥で何か書類のようなものを引っ掻き回していたかと思うと
一枚の書類を出して健太に見せる。

「これで余興をやってくれないかと言われてるんだけど」
「……?」
見せたものは「町内会のお知らせ」だ。だが少し読んで、ああと健太は納得した。

この時期に行う町内会は次年度からの新役員決めなどもあって
どうしても長引く。そこで、小学校以下の子ども達は市民会館に集めてそこでお楽しみ会を
するのだ。
その際、何人かが余興を見せることもある。昨年は健太と宮迫も漫才で参加した。

「これに、あんたが?」
「ええ、私たち愛と正義のプリキュア5に余興のお願いが来たのよ」
「ああ、お笑い集団……」
「誰がよ!?」
「余興なんて愛と正義の戦士の仕事じゃないだろ!」
ここぞとばかりに言い返すとミズ・シタターレは舌打ちをして、

「まあ、いいわ。……それで、余興のプランを練ってたんだけど、もう一人居た方が
 助かるのよ。健ちゃん時間あるんだったら、入れてもいいわよ」
「健ちゃんじゃない! それに……」
健太はごくりと息を飲むと改めて、
「それに、俺が一緒にやるのは宮迫だけだ! 宮迫はまだ受験だから、俺は」
「あら、そうなの?」
ミズ・シタターレは意外そうな顔をして「まあいいわ」と答える。
「他に頼む当てもあるし」
健太は潰した紙コップをそばのゴミ箱にぽいっと投げ入れると
その場を立ち去った。

――宮迫、やってんのかな……
図書館に回ってみる。邪魔はしてはいけないから、そっと見てみるだけのつもりだった。
だが図書館前で宮迫と加代が二人でのんびりと話をしていてずっこけそうになる。

「あれ、星野君?」
「星野君受かったんだってね、おめでとう!」
二人から口々にお祝いを言われて健太は「ありがとう」と返すものの、
すぐに話を変えた。

「勉強しなくていいのかよ?」
「ちょっと息抜きをしようと思ったんだ。ずっと勉強してたら効率が落ちるからね」
はあ、と健太はため息をついた。
宮迫は想像していたよりもずっと落ち着いていて、どこか余裕さえ感じさせる。

「ま、いーや。お前も頑張れよ、宮迫」
「うん、ありがとう」
「俺、お前のこと待ってるからな。他にどんなスカウトがあっても
 俺が一緒にやるのはお前だけだ」
「星野君?」
宮迫が怪訝な表情を浮かべた。

「スカウトってそんな話あったの?」
「いや、スカウトって訳じゃ……去年俺達が出た、町内会の時の子供向け余興、
 今年はプリキュア5が出るらしいんだけど」
「ああ、あの人たち」
「さっき話したら、俺も出ないかって言われて……でも断ったからな」

「え、そうなの?」
宮迫が意外そうな顔になる。
「一緒にやればいいのに」
「えっ!?」
「だって、星野君はもう受験も終わったんだし……」
健太の顔が見る見る赤くなった。

「俺が一緒にやるのはお前だけだよ! 今言ったばかりだろ。
 まさかお前、高校入ったら漫才止める気じゃ……」
言ってからしまったと思った。漫才をどうするか、と言うことに関しては
宮迫の受験も終わってから話をしようと決めていたのに。

「そんなこと、思ってないよ」
宮迫が健太の剣幕に驚きながらも答える。
「高校は別々になっても、家は近いんだからいつでも練習できるよ。
 ……それよりも、今は星野君プリキュア5の人たちと一緒に
 余興に出た方がいいんじゃないかなあ。
 受験終わったんだし、気兼ねなく楽しめばいいと思うよ」

「え、宮迫……」
健太は聞き返した。どうしても、確認しておきたかった。

「お前高校行っても漫才続ける気でいてくれたのか!?」
「別に中学で止めなくちゃいけないって訳でもないんだし……、
 星野君がやるんだったら」
「お、俺はやるよ、やるに決まってるだろ」
「じゃあ僕もやるよ。……それでさっきの話だけど、星野君が居た方が子ども達も
 喜ぶんじゃないかな」
「そ、そうか……じゃ、俺やるよ。宮迫より一足先に舞台勘を取り戻しておくぜ!」
「うん、頑張ってね」
「宮迫も頑張れよー!」
健太はもう大慌てで駆け出していった。宮迫も加代も、その後姿を笑って見送る。

「戻ろうか、宮迫君」
健太の姿が見えなくなると、加代の言葉で二人はまた図書館に戻った。


「あ、ミズ・シタターレ!」
ジューススタンドは先ほどの場所から1ブロックほど移動していた。
やっと見つけた健太は息を切らしながらミズ・シタターレに近づく。

「あら、どうしたの?」
「さっきの話だけど、俺やっぱり余興やる! 子ども達を大笑いさせるよ」
「あら、気でも変わったの?」
「う……まあな」
ミズ・シタターレは満足げににやにやと笑う。

「ま、いいわ。薫に頼もうかと思ってたけど健ちゃんがその気になったなら」
「健ちゃん止めろ。……でも、霧生に頼むって?」
健太の知る限り、霧生姉妹に――特に薫のほうには、余興などできそうにもないが。
不思議に思っている健太に、ミズ・シタターレは得意げに笑うと説明を始めた。

「時期が時期だから、節分にちなんだ余興にしようと思うのよ」
「ああ、なるほど」
「鬼役と、豆を投げる正義のヒーロー、ヒロインに別れるわけ」
「うん」
「で、相談したんだけど鬼やりたいって人が誰もいないから、
 あんた鬼やんなさい」
「はあっ!?」
健太は思わずジューススタンドのカウンターに手を掛けて身を乗り出した。

「ちょっと待て! 何で俺が鬼なんだよ!」
「愛と正義のプリキュア5のメンバーが鬼になるわけにはいかないからねえ」
「悪役顔が揃ってるだろ! どう見てもそっちの方が鬼向きだよ!」
「まあ、私以外の他四人は確かに悪役顔だけど。やりたくないって言ってる時に
 無理にやらせても碌なことはしないから」
「あんたも悪役顔だよ!」
そ知らぬ顔でジュースを作り始めたミズ・シタターレを見てはーっと健太の
全身から力が抜けた。
前途多難だ。

「で、今日夕方からPANPAKAパンで打ち合わせするから来なさい」
「分かったよ……」
「頑張ってね、鬼ちゃん。はいこれ、スタミナがつく特製ジュース」
「鬼ちゃんもやめろ!」
特製ジュースを飲みながら健太はつくづく思った。
――宮迫……早く受験終えろよ……俺やっぱりお前とがいいよ……

-完-

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