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「えりか」
「んー、どうしたのつぼみ?」
つぼみとえりかの家は隣同士なので、二人はちょっとしたことなら窓を開けるだけで
話し合うことができる。この日も、舞から電話を受けたつぼみは窓を開けて
えりかを呼んだ。
「今、舞さんから電話があって。咲さんが病気だそうなんです」
「えっ本当!?」
ひどく驚いているえりかににつぼみはこくこくと頷いてみせた。
「咲、あんなに元気なのに」
「本当に珍しいことだそうですけど……だから、明日は咲さんは多分出て来れないって」
「それはいいけどさあ」
えりかは考え事をするように空に目を向けた。
「お見舞いに何か持っていったほうがいいよね」
「うちの花を持っていきませんか?」
「そだね!」
えりかは満面の笑みを浮かべ、
「じゃあ明日の持ち物は花と、あとデザイン画だよね」
「そうですね!」
つぼみとえりかは咲たちの為に考えた服のデザイン画を持っていくつもりでいた。
明日のためにここ一週間ほどはそのデザインに掛かり切りだったのだ。
「あ〜でも、やっぱりちょっと残念だな。舞にこの服着せたらどう? って、咲の
 反応を見てみたかったのに」
眉をハの字にしたえりかを見てつぼみはくすくすと笑った。

つぼみとえりかはフェアリーパークで咲に、舞がいかにカンペキ美少女かを
力説されたのである。
どういう話の流れでそうなったのかは今となってはもう覚えていないが、
『とにかく、舞ってすごく可愛いっていうかおしとやかっていうか……、でも
 芯は強くて、プリキュアの時は私が舞に支えられてる感じだし
 もうど真ん中ストライクのカンペキ美少女なんだから!』
という咲の言葉はよく覚えている。

夕凪町に遊びに行くという話になったとき、
『じゃあみんなの服デザインして持っていこうよ! 咲、舞にいろんな服着せた
 デザイン画見せたらどんな顔するかな』
とえりかが言い出したのも当然といえば当然だった。

「そうですね、舞さん本当に綺麗だから……咲さんがどんな顔するか見てみたかったですね」
「次回に持ち越しか、まあしょうがないよね〜」
「そうですね」
じゃあまた明日、と言って二人は窓を閉じる。家の真ん中で二人の会話に聞き耳を
立てていたスナッキーにはどちらも気がつかなかった。スナッキーは身軽に道に出ると、
そのまま砂漠の使徒たちが住まう地へと戻っていく。

「何だ、スナッキー」
いつものように砂風呂に入り肌の調子を整えているコブラージャに先ほどのスナッキーが
キイキイと報告をする。
「プリキュアが出かける? 放っておけ。どこの町に行ったって大した違いはない」
目を閉じたままコブラージャは答えた。砂風呂の時間は彼にとって何よりも
大事なものだ。プリキュアに関する報告など、この時間を邪魔するだけの価値はない
代物である。
だがスナッキーの次の言葉を聞いてコブラージャは目を見開いた。

「ほう。その町にいる少女とやらはそんなにも美しいのか」
額にかけていたタオルの位置を直すとコブラージャはまた目を閉じた。
「それなら明日、行ってみるのも悪くはないな」
スナッキーはそれを聞いてやれやれと安堵の息をついた。
とりあえず大幹部に出陣してもらうのがスナッキーの最初の仕事である。
出陣したら出陣したで写真撮影のアシスタントなど色々仕事ができてくるのだが、
それはその時の話である。

翌朝、つぼみとえりかは早起きをするとすぐに夕凪町へと向った。
もちろん二人の背後にはスナッキーがついていたのだが
つぼみもえりかもシプレもコフレもそれに気づく由はない。

何本か電車を乗り継ぎ、二時間近く経ったころ二人はようやく夕凪町へついた。
「う〜ん、風が気持ちいい……」
ずっと座っていたえりかはホームに下りるろ思わず大きく伸びをした。
潮の匂いを含む風が穏やかに吹いている。天気は快晴、いかにも
ピクニックやハイキングに絶好の日和だ。

「本当に空気がおいしいですね」
「ん?」
つぼみに言われてえりかは大きく深呼吸をしてみた。
そう言われるといつもより空気が澄んでいるような気がする。
「改札で待ち合わせだっけ?」
「ええ」
ホームを歩いて改札に向う……と、
「あっ、舞!」
えりかは舞に気づいて大きく手を振った。舞と、その後ろには満と薫が
二人のことを迎えに来ていた。

久しぶり、と挨拶を交わした後でつぼみは手に持っている花束を舞に見せた。
「咲さんはまだ外には出られないんですか?」
「ええ……ちょうどタイミング悪くって」
「だよねー、勿体無い」
えりかはわざとらしくため息をついて見せた。
「勿体無い?」
と薫が不思議そうに聞き返す。
「今日、デザイン画持ってきたんだよ。
 舞とか満とか薫とか、こんな服が似合うんじゃないかなって感じの」
「へえ」
えりかは満と薫に挟まれるようにして歩いていたが、くるっと満の方を向くと、
「それで舞のデザイン画見たときの咲の反応見たかったのになー」
ぷっと満は吹き出すと、くすくすと笑いを漏らした。
「ね、満も見てみたいでしょ?」
えりかはその満の反応に勢いづいて飛び跳ねるようにして歩く。
「ええ。面白そうね」
「だよねー。う〜ん、次回もっといいの考えて持ってくるかあ」
もう次のデザインを考え始めたかのようにえりかは腕を組んで首を捻った。
そうこうしている内に、一同はPANPAKAパンに着いた。

つぼみたちが咲のお母さんに挨拶をしたが、やはり咲は出てこられる状態ではないと
いうことだった。
「ごめんなさいね、わざわざ遠くから来てくれたのに」
「また今度遊びに来ます」
つぼみはそう答えると、「あのこれ咲さんに」と花束を差し出した。
「あら、綺麗! 咲喜ぶわ、ありがとう!」
「あ、じゃあ私咲のところに持っていきます」
さりげなく舞は手を伸ばしたが、
「ありがとう、でもいいわ。舞ちゃんにうつったら困るもの」
と咲のお母さんは舞に流されることなく
「お客さんが来たら、すぐに戻りますって言ってくれる?」
と一同に頼んで奥へと花を持っていく。花瓶に花を入れて咲のお母さんが
階段を上る音が聞こえた。

「咲さん大変ですね――、ずっと一人で部屋にいるんですね」
つぼみは昨日の舞の電話で大体の事情は聞いていた。
――寂しいでしょうね……。
声には出さないがそう思う。部屋に行って退屈や寂しさを紛らわしたいのはやまやまだが、
生憎つぼみもえりかもその病気に罹ってはいなかった。
「あ、でも舞のお兄さんが今日も咲のお見舞いに行っているのよね」
ね、と満が舞を振り返る。
「舞?」
舞はぼんやりと店の奥、住居部分に繋がっている方を見ていた。

「へえ、舞のお兄さんも咲と仲いいんだ」
「ええ、そう。舞のお兄さんは咲の部屋に入っても大丈夫だから、咲の話し相手に
 なってくれてるみたい」
舞のことを気にしている満の代わりに薫が答える――舞は相変わらずぼんやりしていた。

「ああ、じゃあちょっと安心だよね。咲も誰か一緒にいたほうがいいもんね。
 でも舞のお兄さんって優しいんだね〜」
何も答えない舞に「舞?」とえりかは不思議そうに目を舞に向けた。舞、と満が
舞の手を突付く。あ、とようやく舞は我に返った。
「あ、ごめんなさいちょっとぼんやりしちゃって……」
「大丈夫、舞? 寝不足かなんかじゃないの?」
えりかが冗談めかして笑うと、ちょうど咲のお母さんが降りてきた。

「咲、すごく喜んでたわ。本当にありがとう、わざわざ」
咲のお母さんの微笑は咲の笑顔にも良く似ている。咲が本当に喜んでいることが
つぼみとえりかにも伝わってきた。
「これからどうするの?」
「大空の樹に連れて行ってもらうつもりなんです、舞さん達に」
「そう、良かったらうちのパン持っていったら?」
「え、いいんですか?」
「ええお弁当代わりに――折角遊びに来てくれたのに、本当にごめんなさいね」
「いえそんな……」
「ありがとうございます! つぼみ! 早く選ぼうよっ!」
遠慮がちなつぼみの声をえりかの声が打ち消す。えりかはもうトレイとトングを持って
パンを選ぶ気満々だった。
「えりか……」
仕方ないんだから。そんなことを言いたそうな苦笑を浮かべるとつぼみはえりかに
渡されるままにトレイとトングを一式受け取る。

「まずなぎささんお薦めのチョココロネでしょー、他にお薦めある?」
下の方の棚にあるパンも見落とさないように腰を屈めながらえりかが
誰にともなく尋ねる。
「メロンパンは食べておくべきね」
「メロンパン、メロンパンと……」
えりかは満に言われるままにメロンパンをトレイに載せた。

 * * *

大空の樹でみんなでパンを食べ、海辺でのんびりすると日もだいぶ傾いてきた。
電車の時間を考えるとそろそろ帰った方がいい時間だ。
満と薫、舞に送られてつぼみとえりかは再び駅から電車に乗った。
窓に張り付くようにして外を見ると、線路脇に立った舞たちがつぼみたちに手を振っているのが見える。
つぼみとえりかは精一杯手を振り返した。
ゴトゴトと電車が動くに連れて舞たちの姿が小さくなる。
やがて緩やかにカーブを曲がり、三人の姿は完全に見えなくなった。
「は〜っ、」
伸びをしながらえりかはぽんと空いている席――車内はほとんどがらがらだった――に
跳び乗る。

「うーん、楽しかったな〜」
満足そうにえりかは満面の笑みを浮かべる。
「今度は咲さんとも遊べるといいですね」
つぼみはすっとえりかの隣の席に座った。
「ねー! 舞、デザイン画見て恥ずかしがってたけど、咲がいたらきっと
 すごく喜んでくれたよね!」
「舞さんはますます恥ずかしがりそうですけど」
想像してえりかはくくっと笑う――と、窓の外に青い影を見て「あれ?」と呟いた。
「どうしたんですか、えりか?」
座っていた席から立ち上がり、向い側の窓に近づき外を見た。
「今、何か見たような人が通った気がしたんだけど……線路に」
「線路ですか!?」
「あのナルシストっぽい人だよ!!」
「まさか……夕凪町に!?」
つぼみとえりかは顔を見合わせる。タイミングよく、電車は一つ進んだ駅で停車した。
「つぼみ、降りよっ!」
つぼみとえりかは手に手を取って電車を降りると、再び夕凪町を目指した。


「舞、元気なかったわね」
満と薫も舞と別れ、二人の家へと帰ろうとしていた。夕陽に照らされ影が長く伸びている。
「咲のこと……よね」
薫がそう呟くと、ええ、と満が頷く。
「やっぱり咲がいないと、舞はどうしても……」
ぴたり、と満が足を止める。
「薫。……何かの気配がしない?」
「何か来たわね」
満と薫は顔を見合わせるとすぐに気配に向って走り始めた。


「やれやれ」
同時刻。家に帰ろうとしていた舞はコブラージャに道を阻まれていた。
舞の姿を見たコブラージャは肩をすくめるとわざとらしくため息をつく。
蛇のような目に見すくめられながら舞はぎゅっとスケッチブックを握り締めた。
「美しいという話だからどんな子かと来てみれば。すっかり肌がくすんじゃってるじゃないか。
 おまけに心の花も枯れそうだ」
「心の花? 何のこ――?」
舞の言葉は最後までは続かなかった。
「その心の花は頂くよ! さあ、デザトリアンのお出ましだ!」
コブラージャは舞の心の花を掴み引き出すと、球体の中に入った舞を切り離す。


「何!?」
気配に急行した満と薫はデザトリアンを見て一瞬絶句した。ウザイナーに少し
似てはいるが、やはり違う存在だ。本を何冊も組みあわせたような姿をしている。
「いくわよ、満!」「ええ!」
満と薫は即座に灰色の戦闘服へと変身すると、ぱっと跳び上がりスケッチブックの
デザトリアンの頭部を狙い蹴り倒す。
「な、何だあいつら!?」
影で見ていたコブラージャは見たことのない戦士の姿に驚き思わず跳び下がる。
倒されたデザトリアンが立ち上がる前に満がその巨体に飛び乗り押さえ込んだ。
満の腕に滅びの力が宿る。貫けとばかりに満は腕を振り上げたが、
「待ってください!!」
つぼみの声に「え?」と満は振り返った。
「待ってください」
同じ言葉を繰り返すつぼみは、えりかと一緒にすでにプリキュアに変身していた。
「そのデザトリアンは舞さんの心の花が元になってるんです! 舞さんの心の花まで
 壊してしまったら大変です。私たちに任せてください、必ず舞さんの心の花を
 元に戻しますから!」
「ええ!?」
心の花うんぬんという言葉に満は戸惑いを覚えながらも滅びの力を自分の腕に納める。
「舞の、ってどういうこと!?」
「これです!」
キュアブロッサムの側に浮かんでいるシプレが球体を掲げた。
「舞!」
満と薫は同時にその中に舞がいることに気づく。瞬間、満の隙をついてデザトリアンは
満を振り落として立ち上がると腕を振り、暴風を起こし更に幾枚もの紙をミサイルのように
噴出した。

風に押され、満と薫はシプレとコフレのところまで後退する。
入れ替わるようにブロッサムとマリンが前に出た。

「プリキュアだいばくはつ!」
ブロッサムとマリンが声を合わせ、襲い掛かる紙を全て吹き飛ばす。
「舞さん、やめてください! 何があったんですか!?」
ブロッサムが呼びかけると、デザトリアンは向きを変え日向家の方を見た。

「これからたぶん、舞が心に隠していた本音が出てくるですっ!」
様子を見ていたシプレが満と薫に解説する。
「本音?」
「そうです、心の花が枯れかけた理由です!」
コフレがぱたぱたと手を動かす。息を飲んで満と薫はデザトリアンの言葉を待った。
デザトリアンは日向家の方を見ながら紙をばたばたと動かす。
『私ダッテ咲ノオ見舞イニ行キタイノニ! 咲ノコト励マシタリ労ッタリシタイノニ!
 オ兄チャンバッカリズルイ!』

――舞、そこまで……
満と薫は顔を見合わせた。咲が病気になってからというもの舞の元気がないのは
気がついていたが、こんな風になるまで思いつめているとは思わなかった。

「やれやれ」
隠れていたコブラージャが呆れたような顔で腰に手を当てて出てくる。
「そんな理由で、あんなに肌をくすませていたのか。まったく下らない。
 ちょっとだけ待ってればいいことじゃないか。
 物事の優先順位が分かっていないとしか言いようがないねえ」
「……そんなこと、ありません!」
「ん?」
キュアブロッサムはコブラージャの言葉を真っ向から否定する。
かっと見開いた目は怒りに燃えていた。
「くだらなくなんてありません!
 舞さんは、咲さんのことを思っているからそんな風に悩むんです!
 ちょっと待てばいいって、そのちょっとが長く感じられて仕方ない時だって
 あるんです! そんな言い方するなんて、私、堪忍袋の緒が切れました!」
「いくよブロッサム!」
「ええ、マリン!」
ブロッサムとマリンは息をあわせると、とどめの一撃をデザトリアンに打ち込んだ。
消滅するデザトリアンの姿を見てちっと舌打ちするとコブラージャも撤退する。
ブロッサムの手に、甦った舞の心の花が降りてきた。
「わ、珍しい花……これ何なの、つぼみ?」
花は確かに普通の花とは少し違う姿だ。
「これはサギソウですよ」
「サギソウ?」
「ええ。花の形が白鷺に似ているのでこういう名前がついているんです」
「え? あ、あ〜」
角度を変えて見ると確かに白鷺の姿に見えた。マリンは感心すると
くるくるとした目をブロッサムに向ける。
「で、花言葉は?」
「花言葉は『夢の中でもあなたを想う』ですね……」
シプレが持っている舞の中に心の花を戻し、キュアブロッサムとキュアマリンは変身を解いた。


「……あれ?」
気がつくと舞は自宅のソファで寝ていた。
「あれ、私どうして……?」
「あ、起きた?」
冷蔵庫のそばで牛乳を飲んでいた和也が舞に気づいてコップを持ったままやって来た。
「お兄ちゃん? 私いつの間に家に帰ってたの?」
「疲れてたみたいで寝ちゃったって言って霧生さんたちが連れてきてくれたんだよ」
「えっ!?」
舞は記憶を辿った。デザトリアンが暴れた時のことがぼんやりと脳裏に浮かんでくる。
かっと舞の顔が赤くなった。
「どした?」
「う、ううん、何でも……」
「そういえば咲ちゃん、お医者さんからOKが出たって」
「え?」
「明日から外出できるって喜んでたよ」
「本当に?」
「本当だよ」
真剣に聞き返す舞に和也は微笑を返して見せた。舞はほっと安心し、
「ちょっと電話使うね」
と立ち上がる。
「誰に?」
「つぼみさん達に。咲のこと心配してくれてたから伝えようと思って」
――あんな風になってつぼみさん達に戦わせちゃったことも謝らなくちゃ……、
舞はそう思いながら電話番号をダイヤルし始めた。


-完-

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