陽の光あふれるフェアリーパーク。
妖精たちがプロデュースした遊園地であるここは、
訪れた人々の笑顔に満ち満ちている。

「おいしいおいしいお菓子やで〜!」
「デザート王国、スイーツ王国共同制作の夢のお菓子ですわ!」
フェレットと女の子がお菓子を配っている周りにわっと人々が集まっていく。

その光景を見て月影ゆりはふっとため息をついた。
彼女の表情は暗い。
このパークで浮かない表情を浮かべているのは彼女くらいのものだ。

妖精たちを模したアトラクションや、妖精たちの耳に似せた帽子をかぶった
人たちを見るたびに彼女の表情は沈んでいく。
――薫子さんに言われたから来てはみたけれど……。
彼女のパートナーである妖精はここにはいない。
コロンの乗り物があったとしても子供に人気が出るかどうかはわからないけれど、
ゆりは無性に寂しくなった。

きっかけは、シプレとコフレが持ってきた招待状だ。
「レインボージュエルをみんなに見てもらうためのテーマパークです!」
「僕らの仲間がやってるです!」
とシプレたちはゆりのところにも招待状を持ってきた。
「……」
ゆりは地図と招待状を一旦は受け取ったが、
「私は行かないわ」
とそれをシプレに返した。
「えっ、でも……」
「私はもうプリキュアじゃないもの」
そう答え、シプレとコフレに背中を向けると家に向かって歩き始める。
「待ってくださいです!」
「プリキュアじゃない人もいっぱい招待してるです!」
シプレとコフレがゆりの前に回り込んで説得しようとするが、
ゆりは取り合わなかった。
「そろそろ戻りなさい。あなた達がいないとプリキュアは変身できないんだから。
 何か起きたらどうするの」
突き放したような口調でそう言うと、シプレとコフレは諦めたようにとぼとぼと
飛び去って行った。ゆりはふうとため息をつくと、日常に戻った。


……だが、シプレとコフレは諦めてはいなかった。もっと強い説得のできる人に頼んでいたのだ。
翌日花咲家の植物園に行き咲いたばかりのミヤコワスレを眺めていたゆりに、薫子は再び
招待状を差し出した。

「薫子さん」
「これはゆりちゃんへの招待状よ」
「でも……私は……」
ゆりはミヤコワスレを見るために屈めていた腰を伸ばした。
「レインボージュエルは希望の光。ゆりちゃんにも見せたいのよ、シプレとコフレは」
「……」
コロンがいないのに、とゆりは思う。コロンを失ってしまったのに、
希望の光を見て何になるのだろう。
「レインボージュエルの光はね、1000年に1度しか見ることができないの。
 コッペが言っていたのだけれど、コロンは見るのを楽しみにしていたそうよ」
ゆりの表情が凍りついた。1000年に1度のチャンス。それを目前にしてコロンは
死んでしまったというのか。それも自分のせいで。

「ゆりちゃん。コロンの代わりに見てあげて。レインボージュエルの光を。
 ゆりちゃんが見たら、コロンもきっと喜ぶと思うわ」
「薫子さんは……?」
「え?」
「薫子さんも、行くんですか?」
「ええ、もちろん。こんなこと滅多にないもの」
「そうですか……」
ゆりはまだ躊躇っていたが、薫子はさあ、と手紙をゆりに差し出す。結局ゆりは招待状を
受け取った。


だからこの日、ゆりは一人でパーク内を歩き回っていた。本当は友人の来海ももかとでも
一緒にいればよかったのかもしれない――彼女がゆりについてきてくれる可能性はあった。
だが、ゆりは一人でいたかった。今日はコロンの代わりに来ているのだ。ほかの誰かと一緒に
いようという気持ちにはならなかった。
いつものように、枯れた心の花を抱えたままで彼女はパーク内を歩いていた。


プリキュアの活躍によりボトムの襲撃を退けたフェアリーパークに、もはや
脅威は何もない。レインボージュエルの光、希望の光を人々に届けるだけだ。
だがその光もゆりの心には届かない。固く閉ざされた彼女の心はボトムを撃退したようには
開けることができない。

 * * *

「満、咲! 時間がないムプ! 大変ムプ!」
どこかの大樹を模したモニュメントのそばに少女たちが集まっている。
その中で黄緑色の妖精が宙に浮いているのがゆりの目に映った。
落ち着きなくぴこぴこと尻尾を振り、咲、満という二人の少女を
誘っている。

「どうしたのムープ? 時間って?」
「プラネタリウムの時間ムプ! 咲も満も一緒に行くムプ!」
ムープという妖精が満という少女に早口で答える。

――あの子……?
ゆりは彼女に見覚えがあった。フェアリーパークから一時避難していた時に
近くにいた少女だ。彼女は戦わずにプリキュアの応援に回っていた。
おそらく、彼女はプリキュアではないだろう。しかし、妖精が心を許している様子なのを
見るとおそらくプリキュアの関係者だ。何らかの形での。

――プリキュアに変身できなくなったとか……?
そう考えたがゆりはすぐに一人首を振った。そんな人がそうそういるはずもない。
自分くらいで十分だ。大体彼女にはパートナーらしい妖精がいるではないか。

「プラネタリウムで何があるの?」
「お月様の上映会ムプ! ムープが満と咲に見せたくて入れてもらったプログラムムプ」
咲と呼ばれたいう茶色の髪の少女の方は見た記憶がない。
もしかするとプリキュアなのかしら、とゆりは思った。

「始まっちゃうムプ! 早く行くムプ!」
「わ、分かったってば!」
ムープという妖精にせっつかれ、満と咲という二人の少女はプラネタリウムの方に向かって小走りに
駆けていく。ゆりは呆然とそれを見送っていたが、やがて足をプラネタリウムの方に向けた。
どうせ、独りでアトラクションに乗るわけでもない。だったらプラネタリウムを見ている方がいいかもしれない。

ゆりが会場内に入った時にはもうプログラムが始まる寸前だった。このプラネタリウムは普通のもののように
席に座って見る形式ではなく、中に入ると身体が浮いてまるで宇宙に居るような感覚で見ることができる、らしい。
大人と一緒にいる小さな子どもたちはまだ星空が映っていないのに興奮してはしゃぎまわっている。

「わ〜っ、すごい!」
ひときわ大きな声のする方を見ると、先ほどの咲という少女がまるで小さな
女の子ででもあるかのようにはしゃいでいる。
満という女の子はこうした状況にどこか慣れているようで――
普通こんな状況に慣れてなどいないものだが――
「ほら、咲。後ろの人とぶつかるわ」
と咲の腕を取って人にぶつからないように自分の方に寄せていた。
「えへへ、ごめん満」
「人が沢山いるんだから、気をつけないと」
「うん、本当にいっぱいいるね〜」
咲が落ち着きなくあたりをきょろきょろと見回していると、ブザーの音が鳴った。
これから本格的に上映が始まるようだ。


今回のプログラムのテーマは「月」だ。プラネタリウムの背景には満天の星空が映っているが、
大きく取り上げられるのは月だ。満月、上弦の月、下弦の月。それに三日月。さまざまな
月の姿がドーム内に現れ、そのたびに歓声が起こる。
ムープは月が目の前にあるのが嬉しいらしく、映し出された月に近づいてムプムプと
喜んでいる。本来なら妖精がそんな風に姿を見せていたら大騒ぎだろうが、
今日この場所は妖精がいても誰も騒ぐこともなくプラネタリウムの映し出す
月に見とれていた。

十五分ほどでプログラムは終了する。ゆるやかに重力が戻り、皆が床の上に降りる。
出入り口に近い人から順番に外に出ていくが、ゆりは割と奥の方にいたので
他の人が出ていくまでしばらく待っていようと思った。
ムープというあの妖精はまだ名残惜しいらしく、星空の消えたスクリーンの中を
楽しげに飛び回っている。
咲も満も、ムープを待って残っている状況だ。

「ほら、ムープ。そろそろ出ないと」
満がムープを呼び寄せると、ムープがひゅうっと降りてきてちょんと満の肩の上に乗る。
「でも本当にきれいだったねー、今のプラネタリウム」
「ムプ」
咲に褒められてムープが胸を張る。
「ムープがどうしてもお月様を映してほしいってみんなに言ったムプ!」
「ムープもこの遊園地のために頑張ったのね」
満が肩の上のムープを撫でると、ムープがまたふわふわと浮かび上がる。
「そうムプ! ムープはお月様が大好きムプ! お月様は明るくて大きくて、」
「孤独だわ」
興奮気味に話しているムープの声をゆりの静かな声が遮った。
え? と咲と満がゆりの方を見た。ゆりはしまったと思った。
別に彼女たちの話に割り込むつもりなどなかった。
ムープという妖精があまり月にいいイメージを持っていそうなものだから
ついつい言ってしまっただけだ。

怒られたとでも思ったのかムープはさっと満の後ろに隠れる。
ムープは彼女のことをシプレやコフレから聞いていなかった。
「孤独?」
と満は不思議そうな表情でゆりを見た。
「ごめんなさい。話に割り込むつもりはなかったの」
ゆりはそう答えたがいたたまれなくなった。そそくさとその場を去ろうとする。

「月は孤独じゃないですよ……」
咲の声がゆりの耳に入った。え? とそちらを見ると咲は満の手を軽く握っていた。
「だって、月は星空の仲間だから」
「……?」
満面の笑みを浮かべている咲の言っている意味がよく分からず、
ゆりは曖昧な表情を浮かべたままでプラネタリウムから外に出た。
明るい日の光がゆりに照り付ける。
彼女の心の花は枯れたまま、まだそれが戻るには時間が必要だった。

-完-

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