「こんにちは〜」
2学期の終業式を終え、冬休みに入ったばかりのある日のこと。
咲と舞は若葉台にある雪城家を訪問していた。

今日はほのかの祖母が出かけていて留守だ。
台所を自由に使っていいと言われているのでほのかはなぎさと
ひかりを呼んで鍋料理でもしようと思ったのだが、
こういう時は大人数の方がいいというので咲と舞、満と薫を呼んだのだ。
満と薫はひかりと一緒に光の園のクイーンとフィーリア王女のところを
回ってきているのでまだ来ていない。

「いらっしゃい」
呼び鈴を押すとすぐに家の奥からほのかが出てきた。
「咲、舞、もう来たんだ!」
となぎさも顔をのぞかせる。
「お邪魔しま〜す」「お招きありがとうございます」
「二人ともそんな堅苦しい挨拶いいからさ、早く上がってよ」
「そうよ、咲さんも舞さんも」
なぎさもほのかも柔らかい笑顔だ。咲と舞は少し緊張していたが、
ほっと安心して「お邪魔しま〜す」と靴を脱いで上がった。

「そろそろお鍋の支度を始めようと思ってたところなのよ」
荷物とコートはこの部屋においてね、と一室を案内してほのかは更に別の部屋に二人を
連れて行った。
「ひかりさんと満さん、薫さんが来てからお鍋は始めるつもりだけど、
 それまでここで待っていてもらえるかしら?」
ほのかが連れてきたのは少し広めの和室だ。真ん中に大き目の炬燵がどんと鎮座しているのが目立つ。薄茶色の炬燵布団が掛かっていていかにも暖かそうだ。

「わあ……」
「やっぱりお鍋は炬燵でしょ! ってほのかにお願いして、出してもらったんだ」
なぎさがえっへんと胸をはった。

「じゃあ咲さんと舞さん、あとなぎさはここでお話でもしてて。今飲み物でも持ってくるわ」
「あ、私もお料理お手伝いします」
咲はごそごそと炬燵にもぐりこみかけていたが、舞は炬燵には入らないで
ほのかの後を追いかけた。
「あら、舞さんいいのよ。お客様なんだから座ってて」
「いえ、今日はお鍋だって聞いてエプロンも持ってきたので……」
「えっ!? 舞、そうだったの!?」
炬燵の中の咲が声を上げた。
「うん、咲はなぎささんと座ってて」
「舞さんがそんなにやる気なら、じゃあ手伝ってもらおうかしら」
「はい、よろしくお願いしまーす!」
「今日は野菜たっぷりのお鍋にする予定なの、だしは……」
ほのかと舞の声が台所の方に遠ざかっていく。なぎさはほうと息をついて背中を丸めると
炬燵の天板に顎を乗せた。

「やっぱりさあ、ほのかとか舞って『女の子』だよねえ」
「そうですね……舞は男子の理想形みたいなところもあるし」
「ほのかもそういうところあるなあ」
自分たちが女の子としては今ひとつのような気がしてなぎさと咲は
少し落ち込んでしまった。

「そういえば、春にプリキュアのみんなと会ったじゃない?
 あの時すごくびっくりしたんだけど、みんな髪型凝ってるよねー」
「え? プリキュアになった時の髪型ですか?」
「そうそう、咲もパイナップルみたいになってるじゃない」
「パイナップルじゃないですー!」
咲は思わず叫んでいた。
「そう? いやー私しばらく咲がキュアパインだと思っててさあ」
「なぎささん私のこと『キュアパイン』って呼んだことありましたよね」
「お花見の時でしょ? だって、ブッキーのキュアパインよりパイン感が
 出てるんだもん、キュアブルームの髪型って。はじけるパインの香り! だよ」
「あれは多分ひまわりのイメージなんですってば」
「うん、そう言われたらそう見えてきた」
なぎさはすっかり機嫌を良くしていた。
「ジュース持ってきました、どうぞ」
舞がお盆に乗せたコップを二つ、炬燵の上に置く。

「ごめんね舞、お客さんなのに」
「いえ、ほのかさんに色々教えてもらってますから」
舞はにっこり笑ってなぎさに答える。
「ねえ、舞はプリキュアの誰かと誰かを取り違えてたことってなかった?」
「取り違え……?」
「ほら、キュアブルームとキュアパインを間違えるみたいな」
「ああ……間違われたことはあります」
「え、誰に?」
興味津々といった様子で咲が尋ねる。
「のぞみさん、私とほのかさんが二人ともキュアホワイトだと思ってたみたいで」
舞は少し思い出し笑いをした。
「ほのかさんと二人でいた時、『ふたりはキュアホワイトなんですよね!』って
 言われちゃいました」
「そっかー、イーグレットも白いもんね」
咲は納得したように頷く。色だけで見れば、イーグレットのことをホワイトと思っても
無理はない。
「でもそれだと舞とほのかがパートナーみたいだなあ。
 他のプリキュアに黒いコスチュームの子っていないんだよね……」
なぎさは残念そうに頬杖をついた。
「あ、じゃあ舞とほのかさんがタッグ組んだら私となぎささんでタッグ組みましょうよ」
「よーし咲、そうしようか」
なぎさが腕を伸ばし、咲はその手を掴んで二人は炬燵の上で腕相撲をするような形で
手を繋いだ。
「もう、咲ってば」
そんなこと言っちゃって。とでも言いたそうに、舞は困った顔をして笑いながら
また台所に戻った。

「あー、のぞみって言えば」
なぎさと咲は再び手を離して向かい合う。
「レモネードの髪型ってどうなってるんだと思う? そもそもあれ、髪なのかなあ」
「ああ……」
咲はキュアレモネードの頭を記憶から呼び起こした。
「三角形になってる部分は髪を纏めてるんだと思いますけど、
 問題はそこからくるくる出てる部分ですよね」
「そうそう、あれリボンかなんかじゃないのかなあ。一度触らせて貰えないかなあ」
「えー、それって変身してもらってですか? ……そんな理由で変身してもらったら、
 かれんさんやりんに怒られそうな気が……」
「大丈夫大丈夫! 確かのぞみ達は一人ずつで変身できるはずだからうららだけこっそり
 呼べば、ばれないって!」
「あ、そういえば」
「そうそう」
なぎさは自分の案にすっかり満足したようで、うんうんと何度も頷いていた。

「一人ずつ変身できるってこういう時に便利だよね。ラブたちもそうだっけ?」
「そうですね――そういえば美希がこの前面白いこと言ってましたよ」
「何?」
なぎさが咲のほうにぐっと身を乗り出した。
「美希達は一人で変身できるから、時々自分の部屋で一人で変身して
 鏡の前でポーズや決め台詞のチェックしてたって」
「えーっ!?」
なぎさが目を丸くした。変身する時に必ず二人が揃っていないといけない
なぎさや咲には思いつかない発想だ。

「え、とちょっと待って。変身ポーズとか台詞って自動的に言うものだから
 チェックしても仕方ないんじゃないの!?」
「美希の理論では、日ごろから練習しておけば身体が自然に動いてより綺麗な
 ポーズを取るはず、ってことらしくて」
「さすが……」
なぎさは畳に両手を突いて背筋を逸らした。
「じゃあ、あの『摘み立てフレッシュ、キュアベリー』っていうポーズは
 美希の練習の成果なんだ」
「こんな感じですよね。『摘み立てフレッシュ、キュアベリー』って」
咲は炬燵に入ったまま手を横に出し身体を軽く傾けてベリーのポーズを真似してみせる。
なぎさはそれを見て「ん?」と首を傾げる。
「……何か違うような……こんな感じじゃない?」

なぎさも真似をする。だが咲も首を捻った。
「それも何か違うような……」
「あー、じゃあもうモデルっぽい歩きのところからやってみようよ! 
 確かこっちの部屋に大き目の鏡があるから……、ほのかちょっと鏡借りてるねー!」
台所から「いいわよ」という答えが聞こえるのを待ってなぎさは咲と隣の部屋に移動した。
畳の上に置いてある鏡台に向って二人で立つ。

「じゃあまず私がやってみるよ。
 『ブルーのハートは希望の印。摘み立てフレッシュ、キュアベリー』」
モデルのように少し気取って歩いてポーズを決めてみる。
「……やっぱり何か違うなあ」
鏡の中の自分の姿になぎさはうーんと唸った。
「あ、私も!
 『ブルーのハートは希望の印。摘み立てフレッシュ、キュアベリー!』」
「咲、それは何か元気良過ぎって言うか……ベリーの物まねは大人っぽくするのが
 ポイントっぽくない?」
「えーっとじゃあ、
 『ブルーのハートは希望の印。摘み立てフレッシュ、キュアベリー』」
「咲、それ声を小さくしてるだけだよ!」


二人の声は台所にも聞こえてきた。
「もう、なぎさったら……」
ほのかが白菜を切る手を止めて軽くぼやく。
「何だかんだ言って、結局お手伝いしてくれないんだから」
「でも、二人とも楽しそうですね」
ごぼうのささがきをしていた舞が苦笑しながら答えた。
「そうね、楽しそうなのはいいけど。咲さんってなぎさに少し似てるけど、
 なぎさよりオープンな感じよね」
「え?」
と舞は包丁を止めてほのかを見上げた。
「なぎささんもオープンに見えますけど」
「なぎさはああ見えて結構難しいところがあるのよ」
「そうなんですか?」
「そう。プリキュアを始めたばかりの頃は喧嘩もしたし。……私がお節介だったからだけど」
「そうだったんですか……」
舞は不思議な感覚を覚えた。なぎさとほのかが喧嘩している姿を中々思い浮かべる
ことができない。
そんな舞を見て、くすくすとほのかは笑う。
「私となぎさって、プリキュアじゃなかったら今でもほとんど話してないと思うわ。
 同じ学校だしなぎさは目立つから名前はもちろん知っているけど、
 『ラクロス部の美墨さん』としか認識してなかったと思うの」
ほのかは切り終えた白菜をボウルに全部乗せてもう一本のごぼうを取ると、
舞との中央においてある水を張ったボウルに向ってしゃっしゃっとささがきを始める。

「……何だか、信じられないです」
「舞さんと咲さんはプリキュアじゃなくても仲良くなれてた?」
「ええと……」
舞は止まりかけていた手を意識的に動かした。
「転校してすぐ咲と再会してプリキュアになったから、ちょっと想像しにくいです。
 仲良くはなれてたかなあ……と思いますけど。ああでも、プリキュアとして
 戦っているうちに咲との結びつきが強くなっていった気がするので、
 仲良しって言っても今とは違ってたと思います」
「それはそうよね。最初は『何でこの人とコンビなんだろう』と思っていても
 いつの間にか結びつきが強くなっているわよね」
舞は持っているごぼうを削ぎ終えた。更に次のごぼうを手に取る。

「ねえ、舞さん。そういえば」
ほのかはごぼうに向けていた目を舞に向ける。
「変身した時の咲さんの絵って描いたことあるの?」
「ブルームとかブライトとかですか?」
「そう。ほら、なぎさもそうだけど咲さんも変身すると普段とは違う凛々しさがあるから
 そういうところ描いてるのかしらって思って」
「ありますよ」
舞ははにかんだように笑って答えた。
「後で思い出しながら……ですけど。本当は変身した時にそのままスケッチしたいんですけど……」
「敵がいるからそういうわけにもいかないわよね」
「そうなんです」
「あ、じゃあ今度敵が出て舞さんたちがプリキュアに変身したら、
 私たちがそこに行って代わりに戦うわ」
「……え?」
「そしたら舞さんは後ろで咲さんとなぎさをスケッチしてね」
「いいんでしょうか、それ」
「いいんじゃないかしら」
ほのかがごぼうを削ぎ終えた。半分くらい残っている舞のごぼうが終れば
下準備は一応終了だ。

咲となぎさの声が鏡のある部屋から聞こえてくる。
「え、えっとじゃあ私ミルキィローズやります!
 『青い薔薇は秘密の印!』」
「じゃあアクア行くよー!
 『知性の青き泉、キュアアクア!』」
そして咲となぎさの声が同時に、
「ふたりはプリキュア!」と聞こえてくる。

「……何してるんでしょうか」
「楽しそうね。軽めのお菓子でも出しましょうか」
ほのかはエプロンで手を拭き、台所の棚の中からお菓子を探し始めた。

-完-

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