「いけーっ、薫、アタック!」
試合を見ている咲の声が砂浜に響く。
ネット際すぐにいた薫はりんからのトスに合わせて跳びあがると
敵のコートに強烈なアタックを打ち込んだ。
「のぞみ!」
「あーっ!」
美希が叫ぶがのぞみは間に合わない。つんのめって転んだのぞみの頭のすぐ横に
ボールは転がり、軽く跳ねて止まった。
「ナイスアタック!」
りんはひかり、こまちと一緒に同じコートの薫にぱんとハイタッチをすると
観客の方を見回した。点数は15対10。何点制とも特に決めてはいないが、
りんがコートに入ってからもうそれなりの時間が経過している。
「そろそろ誰か交替しない?」
「あ、じゃあ私入る!」
ゲームには参加しないで観戦していたラブが大きく手を挙げた。りんはラブと代わろうと
コートから出た。
「……じゃあ私も出るわ。誰か代わりに」
のぞみと同じチームにいた満がコートから出ようとすると、
「じゃあせつな、代わりに入ったら?」
とりんと軽く手を叩き合って交替したラブが砂浜にぺたりと座っているせつなを振り返る。
「私?」
「うんうん、せつなちゃんやろうよ!」
のぞみがコートの中から腕を伸ばし、躊躇いがちに立ち上がったせつなの腕を取ってぐいっと
引っ張った。
「じゃあ、これから追いつこう!」
のぞみが自陣にいる美希、せつな、うららに声をかけると
「頑張りましょうのぞみさん!」
と応えるうららに釣られるようにして美希とせつなも「おー!」と
腕を天に突き上げた。

横浜でプリキュアたちがお互いのことを知ってから数ヶ月。
せつながプリキュアになってから数週間。
のぞみの発案で、プリキュアは皆かれんの別荘に集まっていた。
夏休みのプリキュア合宿という名目の集まりだが、特訓をするのが目的ではなく
皆で別荘の周りの自然を満喫している。
今はビーチバレーの周りに多くが集まっているが、全員がここにいるわけでもない。
ほのかと舞はじいやさんにこの近くにあるという珍しい花の生えている場所を
案内してもらっているし、祈里とくるみは妖精たちのお守りに行ってしまったようだ。

「満、ちょっと別荘戻って身体冷まさない?」
くいっとりんが手首を捻って別荘の方を指差した。つい今しがたまで
ビーチバレーをしていたりんも満も、顔のあちこちに汗がつたっている。
「そうね」
そう答えると満はりんと二人で砂浜を後にし、別荘の方に向った。基本的に
自由行動なのである。


「満、咲から聞いてたけど運動神経いいよね。薫もだけど」
「そう?」
「うん、薫と組んだらかなり強くなりそう」
ああそういえば、と満は思った。
「夕凪中に入ってすぐの頃、体育の時間にバレーボールをしたことがあるわ。薫と一緒の
 チームで」
「え、その時すごかったんじゃない?」
「良く分からないけど、上手くはできたんだと思うわ」
「バレーボールはその時が初めて?」
「ええ、もちろん」
くるみみたいな感じなのかな、とりんは思った。満と薫が異世界から来た存在だということは
りんも知っている。
りんにとって異世界の住人として馴染み深いのはココやナッツ、ミルクやシロップだ。
だからついつい満や薫のことも彼らの延長線上に見てしまうことがあった。
とはいっても、こうして合宿に来て少し話してみると、当たり前のことだが
ココやナッツ、ミルクたちとは少し感じが違うというのも分かってはきていた。

――くるみよりは満や薫の方が世間知らずな感じではあるよね……
一旦そう思ったが、りんはいいやと内心で首を振った。
――ミルクが世間ずれし過ぎなのかも。
来て早々にぬいぐるみに化けてのぞみに拾われたミルクを思うと、そう考えるのが
自然な気もしてきた。

「満、部活は入らないの? 咲みたいにソフト部とか」
「そうね……あまり考えたことはないわね」
「何で? もったいない気がするけど」
「パンを作りたいから」
「パン?」
りんが聞き返すと、満ははにかんだ笑みを浮かべた。
「咲やおじさん達にに教えてもらって焼いてるの」
「へえ……」
部活に入るよりもずっと楽しいんだろうなとりんは思った。
「みんなで食べるの?」
「ええ、薫に食べさせることが多いけど」
「食べさせるって」
無理やりみたいだと思ってりんは少し笑った。
「おいしいって?」
「大抵はね。薫はあまり嘘をつかないから、口に合わない時ははっきりそう言うわ」
「へえ……」
りんはいつの間にか自分が聞き役に回っているのに気がついた。パンのこと、薫のこと、咲や舞のことを話す満は実に楽しそうだ。
軽くシャワーを浴びて砂浜から道路――別荘の敷地内の私道――に上がり、そこから二人は
別荘に戻った。上がる前に入り口に置いてあるタオルで汚れを落とす。

「あー、あたし本格的にシャワー浴びて水着脱いじゃおうかな。もう夕方だよね」
タオルを汚れ物の方の籠に入れながらりんが呟く。
「そうね、そろそろそういう時間かも」
「あ、満もそうする?」
「ええ。すぐにみんなも上がってきそうだし」
この別荘には浴室とは別にシャワールームがある。シャワールームは5つあるので、
満とりんの2人だったら余裕で同時にシャワーを浴びることができる。
は〜、汗でべとべとと呟くりんの横に立って満は涼しい顔をして歩いていた。

 * * *

りんと満が水着から着替えてシャワールームから出てくると、日は先程よりも更に傾いていた。
二人は示し合わせたかのように大ホールの裏にある台所に向う。
彼女達自身が直接料理をする必要は原則としてないのだが――じいやさんが手配したスタッフが
料理を作ってくれることになっている――飲み物や簡単な料理くらいは自分でできた方が
気兼ねがなくていいだろうとこのスペースは自由に使っていいことになっていた。

大型の冷蔵庫を開けるとそれぞれのコップにジュースを注ぎ、二人は風に当たろうと
窓際に向っていった。
大きな窓からテラス状になっているところに出られる場所がある。
シャワーを浴びたばかりですっきりとした気分になると、外の風はいかにも
気持ち良さそうだ。

「あれ?」
りんは思わず足を止めた。満も同時に足を止める。その場所には先客がいた。
祈里が一人、風を浴びながら座っている。――いや、ただ座っているだけではなく、
大きく広げたピンク色の浴衣を縫っていた。
「ブッキー、一人? くるみと一緒にいたんじゃなかったっけ?」
そう声をかけながらぺたんと祈里の側にりんが座る。満も続いて腰を下ろした。
「しーっ」
と祈里が人差し指を自分の唇に当ててみせる。意味が分からずにりんと満が
思わず顔を見合わせると、祈里はわずかに微笑んだ。
「くるみちゃん、今二階でシフォンちゃんのこと寝かしつけてくれてるの」
「あ、シフォンって赤ちゃんなんだっけ。毎日お昼ねしてるの?」
「ううん、起きてる日もあるんだけど今日は朝から遊びまわってたから」
「あ、そっか……で、それは?」
りんが浴衣を指差した。話をしている間も祈里はせっせと手を動かしている。
「ラブちゃんの浴衣、さっきみんなで広げてみたらちょっとほつれているところがあったから
 直してって頼まれてたの」
「あ、それラブのなんだ」
「ラブなら外にいたけど?」
満が不思議そうな顔をしている横でりんは、困ったもんだという表情を浮かべていた。
「ラブ、呼んでこようか? ブッキーが一人でラブの浴衣直してるっていくらなんでも」
立ち上がりかけたりんを「待って」と祈里は笑って押し留めた。
「え、でも……」
「ラブちゃん、せつなちゃんと皆の橋渡ししてるから」
「橋渡し?」
祈里は小さく頷いた。
「ほら、せつなちゃんはみんなと会うのも初めてだし、この世界に住むようになって
 間がないし。ダンス合宿はしたけど、こんなに大勢の人と合宿するのも
 初めてだし、ラブちゃんが一緒にいたほうが安心だと思うの」
「まあ……そうかもね」
先ほどのせつなの様子を思い浮かべてりんはそう答えた。まだどこか、慣れていない
感じはある。ラブと一緒にいたほうが彼女にはまだいいのかもしれない。
「ラブちゃんってせつなちゃんと一緒に暮らしてるし、せつなちゃんのお姉ちゃんみたいな
 ところもあるから……」
手を動かしながら祈里は呟く。
「ブッキーはラブのお姉ちゃんみたいだもんね、そうやってると」
ええ? と思わず祈里が手を止めるとりんはいつの間にか床の上に腹ばいに寝転がって祈里を
見上げていた。
「そ……そう?」
「ねえ」
同意を求めるようにりんが満を見ると、満もうんうんと頷いている。
「え、でもそんな……」
顔を赤くして妙に照れている祈里を見て、りんはあれっと思った。
「あれ、ブッキーって兄弟いないんだっけ?」
「うん、一人っ子」
「あ、そっか……何でそんなに照れてるのかって思っちゃった」
「りんちゃんは本当にお姉ちゃんだものね、妹さんと弟さんと」
「まあね〜……。あれ、四つ葉町のみんなって、みんな一人っ子だっけ?」
ううん、と祈里は首を振った。
「美希ちゃんには和樹君がいるから、お姉さんね」
あ、そうだったねとりんは呟き、隣に座っている満を見上げた。
「……何?」
「満と薫は双子なの?」
「あ、美希ちゃんもそれ知りたがってた!」
両側にいるりんと祈里からそう言われ、え? と満は不思議そうな
表情を浮かべた。
「双子……っていうのかしら。生まれたのは薫がちょっとだけ早かったけど……」
「じゃあ、薫がお姉さん?」
「そう呼んだことはないわね。何かお姉さんらしいことをしてもらったこともないと思うし……」
はは、とりんは笑った。満の言い方はきつく聞こえるが、生まれたときから
ずっと一緒にいる姉妹というのはこんなものかもしれない。
「……双子なら、お揃いとか着てみたりするの?」
そう言いながらりんはまた座りなおした。もうぬるくなったジュースを一息に飲む。
「お揃い?」
「二人で同じ服を着ることよ。色違いなんてこともあるけど。ひょっとして、
 りんちゃんの弟さんと妹さんお揃い良く着るの?」
「昔は良く着てて可愛かったんだけど、最近はあんまり。男の子と女の子だし仕方ないけどね」
そう答えて、りんはまた満に目を向けた。
「女の子同士だし、着ることもあるんじゃない?」
「薫と同じ服ね……制服とか?」
そう答えた満に「いやそうじゃなくて」とりんは手を振った。
「あ、あと、戦うときの服はほとんど薫と同じだけど」
「そ、それも何か違う」
ぱたぱたとりんは再度手を振った。
「こう、私服で、二人が選ぶ服で何かないの?」
「……ないわね」
家にある自分の服と薫の服をざざっと思い浮かべて満は冷静に答えた。
「私が好きな服と薫が好きな服は違うし……お揃いって『双子』ならするものなの?」
「んー、そういうわけじゃないけど。お揃いの服着てるの見ると可愛いから周りが嬉しいんだよね」
「そうなの?」
「そうよ、満ちゃん」
祈里はにこにこと笑いながら言葉を挟む。
「特に小さい子って可愛いけど、二つそっくりな可愛い子が並んでいると
 さらに可愛くなるじゃない?」
「それは……ムープだけでも可愛いけど、フープと一緒にいるともっと可愛いっていうことかしら?」
「そうそう、そんな感じ!」
やっと分かってくれたとりんは身を乗り出した。
「だから満と薫もお揃い着てみたら可愛いんじゃないかな」
「え……でも、」
「一度試してみてもいいんじゃないかしら?」
と祈里も妙に乗り気だ。二人に挟まれて満はきょろきょろと左右を見回し……ふっと、
上を見上げた。一拍遅れ、祈里とりんも声に気づいてそちらの方に目を向ける。
「シフォン、どうしたミル!?」
「プリプ〜ッ!」
シフォンの叫び声が聞こえたかと思うと、シフォンは三人のちょうど真ん中にテレポートしてきた。
「わあっ!?」「シフォンちゃん!?」
「シフォンも、お揃い、する!」
「ええっ!?」
「誰と!?」
りんのこの突っ込みにシフォンは明らかにむくれた表情を見せたかと思うと
「キュアキュアプリプ〜!」
と叫ぶ。一瞬の間の後、
「ぐえっ!?」
とりんは上から降ってきた何かに押し潰された。
「美希!」
「美希ちゃん!?」
「え、ちょっと私何でここに」
水着姿でいかにも今まで陽に当たっていましたという様子の美希は
満と祈里の姿に目を丸くした。
「い、いいからどいて……」
美希が下に敷いているりんが息も絶え絶えに声を上げると、美希は慌てて飛び退いた。
シフォンはその美希の目の前にふわりと浮き上がると、
「シフォンもお揃い、する!」
と涙目になって訴えかける。
「ええ!? シフォン、お揃い着たいの?」
「お揃いお揃い〜!」
美希は机においてあった鞄からリンクルンを取り出しブルンを呼んだ。
辺りを見回してからえいっ、とシフォンにリンクルンを向けると
シフォンの身体がぴかりと光りいつもとは違う服になる。

「え、何で私と同じ服なの!?」
それを見た満が思わず叫んだ。シフォンが今着ている服は、大きさこそシフォンサイズだが
基本的には満と同じものだ。
「満の格好が目に入ったからついつい……」
「お揃いお揃い〜」
シフォンはすっかり上機嫌で満の頭の上に飛び乗った。頭上できゃっきゃっとはしゃいでいる
シフォンの気配を感じながら、今の自分は果たして可愛いのだろうかと満は疑問に思っていた。

-完-

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