フェアリーパークも夕方になり、来場していた人々もそろそろ三々五々ゲートを外へと
潜り始めていた頃。
「ご来場の皆様にお知らせですわ」
というチョコラ王女の声がパーク内に響いた。がちゃ、と椅子を動かすような音がしたか
と思うと今度はココの声で、
「当パークはもう間もなく閉園となります。本日はご来場、誠にありがとうございました。
 お気をつけてお帰りください」
とアナウンスが入った。
それを聞いて帰ろうとする人々の数が多くなる。

この日レインボージュエルを守ったプリキュア一同はそれぞれの好きなお菓子を探して
散らばっていたが、放送を聞いて観覧車前の広場に集まってきた。
「もう終わりか〜、しょうがないけど」
なぎさは買って来たポップコーンの最後の一つまみを口に放り込んだ。
「でも楽しかったですね〜!」
うららはいかにも大満足といった表情だ。
フライングシロップに思う存分乗ることができたのが嬉しかったらしい。
「満、薫、ごめんね結局一日中みのりにつき合わせちゃって」
「いいわ、楽しかったから」
満と薫、それにみのりもやって来た。みのりは一日中遊んだからか、表情は少し疲れていた。
ベンチに座ったらすぐに寝てしまいそうだ。たとえ眠ってしまったとしても
薫が抱きかかえて連れて帰ることはできるので問題はないのだが、本人は頑張って起きている
つもりだった。

「はー、チョコバナナ沢山食べちゃった」
満腹、満腹。そう言いたそうな様子でラブが自分のお腹を押さえながらせつな達と一緒に戻ってきた。つぼみとえりかもラブたちと一緒に行動していたので、これで全員だ。

「じゃあ、みんなそろそろ帰ろうか」
なぎさがみんなの顔をぐるっと見回す。仕方ないね、と言う表情をみんな浮かべた。まだ遊んで行きたいのは山々だが、閉園になってしまうなら仕方ない。


「――よお、イー……せつな」
プリキュアの誰でもない男の声に、一同は少し驚いて声のした方を見上げた。
ムープの帽子をかぶったウエスターと、少し離れてサウラーが走ってくる。
「帰るんだろ?」
ウエスターは他のメンバーを特に気にすることはなく、ずかずかと駆け寄ってきてせつなの
前に立った。

――イケメンさんの登場ですねっ!
つぼみが一人顔を赤くして興奮していたがウエスターはそれには気づかずに
「帰りも頼むぜ」
と続ける。
「ええ、分かってるわ」
とせつなはウエスターに答えるとラブに向き直った。
「じゃあ、ラブ……私、そろそろ」
「そっか……」
ラブは一瞬寂しそうな表情を浮かべたがすぐに笑顔になると、「また会おうね」と
せつなの手を両手で握った。
「ええ、また」
せつなもにっこりと笑い返す。
――せつなさんのお家はラブさんたちの近所じゃないんですか?
状況の分からないつぼみがきょろきょろとせつなとラブを見比べるが、せつなは
「みんな、今日はありがとう。――また、今度ね」
とみんなに言って――みんなも「またね〜」と返した――「お先に」と呟くと、
ウエスター、サウラーの二人と一緒に一足先にパークを出た。
つぼみは目で三人を追ったが、三人の姿はそのままかき消すように消えてしまっていた。


私たちも帰ろうか、そう言い合って一同がフェアリーパークを出たのはそれからしばらくしての
ことである。妖精達は後片付けの仕事やスタッフだけの打ち上げがあるそうなので
置いて帰ることにして、まずなぎさとほのか、ひかりはパークのそばにある駐車場を目指した。

駐車場にはタコカフェカーが停まっている。なぎさ達の先輩にしてひかりの保護者、
アカネさんの愛車だ。
アカネさんは少し前にパークを出ていたらしく運転席に座って待っていた。
助手席のひかるはうとうとしている。
「アカネさ〜ん」
なぎさ達は慌てて車に駆け寄る。
「ごめんなさい、お待たせして……」
車の扉を開けて乗り込みながらほのかが謝ると、アカネは
「いいっていいって。ひかり、楽しかった?」
と身体を捻ってひかりを見る。
「はい、すごく楽しかったです!」
ひかりが答えて車に乗り込む。
「友だちとも会えたんでしょ?」
「はい、……あ、みんなあそこにいますね」
プリキュア一同はフェアリーパークの最寄り駅に行く途中で立ち止まって、駐車場に向って手を振っていた。気づいたなぎさ達も大きく手を振り返す。
「なぎさ、シートベルトしたの?」
「あ、いけない」
ほのかに聞かれてなぎさが慌ててシートベルトを探し始めた。
「なぎさ、ちゃんとしといてよ。……じゃ、出発〜!」
なぎさがシートベルトをしたのを見てアカネはエンジンを入れるとタコカフェカーを
動かし始めた。

 * * *

フェアリーパークの最寄り駅を通る路線は一本しかないので、パークから出てきた客は
大抵その電車の中に吸い込まれていった。ラブやのぞみ、つぼみ、咲を初めとするみんなも
もちろんホームにやって来た電車にすぐ乗った。
車内はフェアリーパークのお土産を抱えた人で一杯になり、一瞬ここも
フェアリーパークであるような錯覚を覚えた。
だが、電車が駅に停まるたびにお土産を抱えた人が降り、普通の買い物や会社帰り風の
人が増えて行く。

「ほら〜、みのり。降りるよ」
「いいわよ、起こさなくて大丈夫」
座った途端に眠ってしまったみのりを薫が抱え、まず咲と舞、満と薫の四人が
大きな駅で電車を降りた。ここで乗り換えて夕凪町に帰るのだ。
「咲ちゃんたち、また今度ね〜」
のぞみが手を振ると、咲たちも大きく手を振り返して電車を降りた人たちの雑踏に紛れていった。

次に乗り換えのため降りるのはのぞみ達五人だった。
「ほら、のぞみ、降りるよっ!」
「え、あ、もう!?」
ラブと話し込んですっかり降りることを忘れていたのぞみがりんに襟首を掴まれるようにして
電車を降りる。
「ラブちゃん、また今度ー!」
後ろ向きにりんに引っ張られながら、のぞみはぶんぶんと手を振り回していた。
ラブ達は苦笑しながら、手を振り返した。


のぞみ達の降りた駅は多くの人が乗り換えに利用する駅だったらしく、車内は急に人が少なくなった。
席もかなり空いたので、ラブと祈里、せつなが座りつぼみとえりかがその前に立つ。
「あの……」
「ん?」
他愛もない話を少しした後、つぼみが少し真面目な口調になった。
「あの硬派なイケメンさんたちはせつなさんのお兄さんなんですか?」
「硬派なイケメンって誰?」
きょとんとした表情でラブが聞き返す。
「ほら、さっきせつなさんを迎えに来ていた髪の黄色い……」
「えーっ、ウエスターのこと!?」
美希は笑い混じりに声を上げた。「ないない」と手を振り、
「あの人全然硬派じゃないから!」
「そ、そうなんですか!?」
「そうそう」
「ねえつぼみ、硬派な人だったらムープの帽子とか被ってないと思うよ」
えりかにもそう言われ、
「でっでも! 硬派に見えたんです!」
とつぼみは主張しながらあっと本題を思い出した。
「それで、せつなさんのお兄さんなんですか?」
「ううん、違うよ。同じ国の人ではあるけど」
「国? せつなさんって外国の人なんですか?」
じゃあ、今から成田へ? とつぼみが更に聞くと、
「うーん」
とラブは辺りをきょろきょろ見回してつぼみを手招きした。
「?」
とつぼみ、それにえりかがラブに顔を近づける。

「せつなは、ラビリンスって言うパラレルワールドから来たんだよ。
 あの二人もラビリンスの出身で――、せつなの持ってるアカルンは
 瞬間移動できるから、それで三人はラビリンスに戻っていったはずだよ」
「パラレル……?」
「パラレルワールドっていうのは、」
祈里が引き継いで説明した。つぼみはふんふんと聞いていたが、えりかは良く分からない
と言いたそうな顔だ。

「ねえ、美希は瞬間移動とかできるの?」
「私のブルンはお着替え能力だから、他の人を一瞬で思うがままにお着替えさせられるわよ」
「何それ便利!」
えりかは美希との話のほうに夢中になった。つぼみはそれを横目で見ながら、

「じゃあせつなさんは、プリキュアの時もラビリンスから通ってきてたんですか?」
「ううん」
とラブは首を振る。そもそもラビリンスが自分たちの戦っていた相手で、せつなも元々は
敵で、と一通りの説明をした後――つぼみは目を丸くして聞いていた――、
「せつなはずっと、私の家に住んでたんだよ。でも、ラビリンスを復興しないと
 いけないからラビリンスに戻ってて。今回は招待状が届いたし、どうしてもってことで
 こっちに戻ってきたんだ」
昨日は久しぶりに家に一泊していったんだよ、そう言ってラブはにっこりと笑った。

「せつながいないと、やっぱり寂しいしさあ……昨日の夜は沢山話しちゃった。
 向こうでも料理沢山してるんだって」
「あ、あの、せつなさんは……」
ん? とラブがつぼみの言葉を促す。
「さっきのお話だと、瞬間移動できるんですよね。だったら、会いたくなったらいつでも……?」
ラブは静かに首を振った。
「何か理由がないと、せつなはこっちには来れないと思うんだ」
え? と不思議そうな顔をするつぼみに、

「せつなちゃんってね、すっごく真面目な子なの」
と祈里が説明した。
「ラビリンスの復興って、大変なお仕事だと思うし――ラビリンスの人たちみんなが
 その大変なお仕事をしているのに、理由もなくこっちに遊びに来るって、せつなちゃんには
 中々できないと思うの」
「そうなんですか……」
「そう! だから今日のは本当に妖精のみんなに大感謝だよっ!」
ラブは一際大きな声で言った。「ラブちゃん、声!」と祈里に窘められ「へへ」と笑うと、
「あ、そろそろかな?」
と停まった駅の駅名を読んだ。ラブたちが降りる駅はもうすぐだ。

 * * *

――理由がないと帰って来れない、ですか……

家に帰ったつぼみはラブから聞いた言葉が引っ掛かっていた。ラブは笑顔を見せてはいたものの、
少し寂しそうにつぼみには見えた。とはいえ、せつなのように考える人がいることも
理解はできる。

「ただいまー」
何となく落ち込んだまま挨拶すると、
「ああ、つぼみ。これ貰ったのよ。えりかちゃんと行ってみたら?」
と母が渡してきたのはカラーのチラシだ。「チョコレート大特売!」の文字が目に入る。
店の名前はつぼみも知っている有名店だ。こんな風に安売りするとは珍しい。

――これです!
つぼみはチラシをぎゅっと掴むと、
「ちょっとえりかと相談してきます!」
と再び家を飛び出した。


「えりかえりか!」
来海家にはいったつぼみはえりかの部屋で興奮気味にえりかにこのチラシを見せる。
「何? 大特売? いいね行こうよ!」
「はい、それでプリキュアの皆さんも誘いましょう! せつなさんの為に!」
「誘うのはもちろんいいけど……」
えりかは不思議そうな顔だ。
「せつなの為ってどういうこと?」
「えりか、大事な話です。良く聞いてください」
「?」
急に正座したつぼみに釣られるようにしてえりかも正座した。
シプレとコフレを手許に引き寄せるとつぼみは人形劇を始める。
「ラブさんとせつなさんは元々一つ屋根の下で楽しく暮らしていたのですが、
 諸事情から今は二人は離れ離れに暮らしているんです! 二人は今、中々会えないんです!」
くっつけておいていたシプレとコフレをつぼみは左右に引き離した。
「でも、せつなはどこにでもすぐ行けるって美希が行ってたけど」
「せつなさんは真面目なので、仕事を放り出してラブさんに会いに来ることはできないって」
「へえそうなんだ……それで?」
「ということは! せつなさんがラブさんに会いに来なくちゃいけないような用事を
 私たちが作らなくちゃいけないんです! えりか、それが友だちの努めです!」
「そ、そう?」
「そうです!」
つぼみは断言すると、
「だからプリキュアのみんなをこの特売会に呼びましょう!
 なぎささんはチョコレートが大好きだって言っていたし、
 プリキュアが全員揃うような特別なイベントだって聞いたら、せつなさんだって
 こっちに来ざるを得ません!」
「何か良く分かんないけど、面白そうだからいいや」
えりかはそう答え、電話を手に取る。
「じゃあ、なぎささんと咲には私が連絡するからつぼみ、ラブとのぞみに連絡してよ」
「はいっ!」
つぼみもすぐにラブとのぞみに電話を始めた。

 * * *

チョコレート特売の当日、寝坊したのはつぼみのミスである。
えりかに起こされて慌てて起きたつぼみは窓の下を見て、
プリキュアがみんな――せつなも含めて――いるのにほっと安心した。


-完-

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