タコカフェが最も繁盛するのは午後3時過ぎだ。おやつの時間でもあるし、
アカネの後輩のベローネ学院の生徒たちが町に繰り出す時間でもある。
今日ももうすぐその時間になる。
「ずいぶん熱心な人だねえ……キントレスキーさんとか言ったっけ……」
手持ちぶさたなアカネの口から言葉が漏れた。
公園に止まるタコカフェの車の前から、ジョギングする男の姿が見える。

アカネがこの公園に来てから走っているから、もう三十分くらいは走り続けている。
速度は一定ペースをキープしたままだ。

「アーカーネさんっ!」
よく知った後輩の声にアカネは売り場モードに戻った。

「今日はいくつ?」
「6つで!」
ラクロス部の後輩――美墨なぎさは答えながら財布を鞄の中から引っ張り出す。
「ほのかも? 6つでいいの?」
「はい、お願いします」
なぎさの隣にはすっかり常連になった雪城ほのか。
こちらはもう手の上に小銭を準備していた。

「あ、れ!? これしかない!?」
財布の中を見たなぎさが悲惨な声を上げる。予想していたよりももっと少なかったらしい。

「今日は諦める?」
アカネがわざと意地悪な口調でたずねると、「ちょ、ちょっと待って!」となぎさは
鞄のポケットをひっくり返し何とか小銭をかき集める。

「ほら、あった!」
10円玉と1円玉が大量に含まれているが、金額としてはたこ焼き6つ分に少しあまるだけの
額を集めて並べると、アカネは「はいはい」と丁度焼きあがったたこ焼きをなぎさと
ほのかに渡す。

「ふ〜、あっつあつ〜」
たこ焼きをもってテーブルにつき、なぎさはあれ、と首をかしげた。
「あの人今日も走ってるんだ」
なぎさが見たのは、先ほどアカネが見ていたのと同一人物。

フードを目深に被り走り続ける姿からはストイックなものを感じさせる。
ここ一週間ほど毎日のように、なぎさ達も彼の姿を見ていた。

「ボクサーの人かしら?」
「試合が近いとか?」
この辺にボクシングジムなんてあったっけ、と思いながらなぎさはたこ焼きをテーブルの
上に置いたまま立ち上がった。

「こんな感じ?」
しゅっしゅっ、とパンチの素振りをしてみせる。
「もう、なぎさったら……」
「なっとら〜ん!」
大音声がほのかの言葉を遮る。ジョギングをしていたキントレスキーが猛スピードで
二人に向って走ってくる。

「ボクシングの基本姿勢はこうだ! 足を肩幅程度に開き、
 顎は引く。脇は締め、相手からの防御と攻撃を同時に実現するのだ!」
――な、何、この人!?
なぎさはそう思ったが思わず彼に言われたとおりのポーズをとってしまう。

「うむ、そうだ。そして素早く打ち込むのだ!」
ひゅっ、とパンチを打ってみる。さっきより少しは様になっている気はする。
「うむ。それでパンチを打つときに腰を捻り勢いを増すと尚良い。
 精進したまえ」
「はあ……」
走り去ろうとした彼は、テーブルの上のたこ焼きを見てうん? という表情をした。

「これは何だ。食べ物か」
「は、はい。たこ焼き、ですけど」
ほのかの答えを聞きキントレスキーは手を伸ばそうとした。
「ちょっと! これ、私のお小遣いで買ったたこ焼きなんだから!」
取られてはたまらないとばかりになぎさがテーブルからさっと自分のたこ焼きを確保する。

「あ、あの良かったら一つ……」
キントレスキーはほのかのたこ焼きを一つ食べた。
「ほう。なかなかうまいな」
「そりゃそうよ。アカネさんのたこ焼きは最高なんだから」
なぎさがぐっと胸を張る。

「ならば一つ教えておこう。トレーニングの後の糖分補給にうってつけなのは
 やはりPANPAKAパンのチョココロネだ。では、精進したまえ!」
キントレスキーは再びジョギングに戻ってしまった。

なぎさとほのかはぽかんとその後ろ姿を見送った。
なぎさがやっと椅子に座ったのはしばらくしてからのことだ。
「なんだったんだろうね、あの人」
「やっぱりボクサーかしら?」
「ねえねえほのか、」
なぎさはたこ焼きを頬張りながらぐいっと身を乗り出す。

「最後に、ぱんぱかぱんのチョココロネって言ってたよね、あの人。
 ぱんぱかぱんってパン屋さんかな?」
「聞いたことないけど……」
「もしかしてチョコがすごくおいしいチョココロネなのかな〜……」
なぎさはうっとりとした表情を浮かべる。

「調べてみる? 有名なお店だったら分かるかもしれないわ」
ほのかは苦笑すると、
「うん! 分かったら、ひかりも連れてチョココロネ買いに行こうよ!」
なぎさは最後のたこ焼きを口に放り込んだ。

→映画に続く……


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